■連載/ヒット商品開発秘話
自分の髪をほんの少しだけセルフカットする機会も多いことだろう。ただ、セルフカットは失敗しやすい上に、ハサミを自分に向けるので怖く感じるものだ。
そんなセルフカットにポイントを絞ったあるアイテムが、現在評判になっている。
あるアイテムとは、フェザー安全剃刀が2022年10月に発売した『ヘアカットモンスター』。前髪をカットするときに使う『ヘアカットモンスターかんたん前髪セルフカッター』(以下、かんたん前髪セルフカッター)と、両サイドと後ろ髪をすく『へアカットモンスターかんたんヘアカットブラシ』(以下、かんたんヘアカットブラシ)の2つを用意。想定の2倍売れ、2つ合わせてこれまでに10万個以上売れている。
『ヘアカットモンスターかんたん前髪セルフカッター』(左)と『へアカットモンスターかんたんヘアカットブラシ』
ネット上にあふれるセルフカットの失敗談
『ヘアカットモンスター』の企画開発を担当したのは、マーケティング本部販売企画部 商品企画次長の平山秀輔氏。自宅での子どものヘアカットで苦労していたことが企画の根底にあった。
「わが家では妻が子どもの髪をカットしていたのですが、ハサミを使うので妻はつねにものすごく緊張しながら切っていました」
そんな光景を見てきたことから、平山氏は2021年に入りセルフカットに関する実態を調査する。いろいろ調べ分析した結果、セルフカットは多くの人が苦労していることがうかがい知れた。
苦労する理由は、ハサミを使うことにあった。平山氏は次のように話す。
「ハサミは素人が使うには難しいところがあります。そのため失敗することも多く、ネット上で多くの失敗談を目にしました」
そこで着目したのが、主に理容師や美容師が髪をカットするときに使うヘアカットレザーであった。同社は業務用理美容製品を扱っており、ヘアカットレザーも以前から手がけていた。
ヘアカットレザーに着目したのは、カットしたい分だけ的確にカットできる、切りすぎる心配がない、といった利点があるため。社内には、ヘアカットレザーで自分の子どもの髪を切っている社員もいるほどだった。こうしてヘアカットレザーを生かし失敗することなく安全にセルフカットできる商品を開発することにした。
フェザー安全剃刀
マーケティング本部販売企画部
商品企画次長
平山秀輔氏
検証のためウィッグをかぶりセルフカットを実行
安全に使え失敗することなくセルフカットができたとしても、不自然な仕上がりになるものは使いづらい。自然な仕上がりに見えるようにするには、刃の仕込み方がポイントになった。
『かんたんヘアカットブラシ』は、髪をとかしたときに髪が全部刃に当たらないようにし、髪が適度な毛量になるようにすけるよう工夫。櫛歯の本数や刃の並べ方などをいろいろ試して自然な仕上がりになるものを追求した。
『かんたんヘアカットブラシ』の櫛歯。カミソリの刃は前方にある太い櫛歯4本に仕込んである。カミソリの刃を仕込んだ4本の太い櫛歯は、一直線ではなく緩い円弧を描くように配置
『かんたん前髪セルフカッター』については、毛先が一直線にそろい「ぱっつん」とした状態にならないよう、髪への刃の当たり方を繰り返し調整し、自然な仕上がりになるよう試行錯誤した。
どちらもプロトタイプをつくっては検証。マネキンヘッドにウィッグを被せた状態でカットしたり、平山氏がウィッグを被ってセルフカットしたりするなどして検証。『かんたん前髪セルフカッター』『かんたんヘアカットブラシ』のどちらも、自然な仕上がりになるような刃の当たり方などを追求した。プロトタイプはそれぞれで、5、6パターンほどつくった。
使っている刃は、『かんたん前髪セルフカッター』『かんたんヘアカットブラシ』でやや異なる。『かんたん前髪セルフカッター』に使っている刃の方が、『かんたんヘアカットブラシ』に使っているものより処理能力が高いという。
『かんたんヘアカットブラシ』(左)と『かんたん前髪セルフカッター』に使われているカミソリの刃
開発で難航したのが、髪を切らせてくれるモニターの確保だった。平山氏はこう振り返る。
「髪を切る商品は実際に人間の髪を切って検証するのですが、切らせてくれる人がいませんでした。完成していない商品で自分の髪を切るのは、どんな結果になるのかわからず怖いからです」
しかも『ヘアカットモンスター』は、これまでなかったセルフカット用の商品なので怖さが余計に勝った。平山氏がウィッグを被ってセルフカットに励んだのも、モニターテストの協力者集めが難航したからであった。
モニター集めに苦労しなくなったのは、安全性が担保された開発の終盤あたりから。社員とその家族の協力を仰いだが、業務用理美容商品を扱っていることもあり美容師も検証に参加。美容師は自分の髪をセルフらカットしたり平山氏に被せたウィッグのカットを行なったりした。