時給1000円越えでもシフトが埋まらない!?
最低賃金の引き上げによる企業への影響は人件費負担増加だけでなく、意外なところにも表れるという。
「例えば、配偶者控除や扶養控除、社会保険などの『収入の壁』を意識して働くパートの方たちにとっては、時給が上がってしまうことで就労調整を迫られることになります」
社会保険(健康保険・厚生年金保険)に関しては、一部事業所では週20時間以上、月額8万8000円を超えると加入要件を満たすことになる、加入したくないという人も多く、その結果、時給が上がった分、労働時間や出勤日数を減らすことに繋がるのである。
「以前から、毎年秋から年末にかけては、前述の収入の壁を超えないように就労調整をして出勤を減らす方が続出するため、人員繰りがより厳しくなることが言われています。10月からの最低賃金の引き上げで、今年はその傾向がこれまで以上に顕著に出るかもしれません」
人件費の増加によって負担が増える企業にとってはせめて人手確保には苦労したくないものだが、それすらも上手くいかないかもしれない。
とはいえ労働者としても働きたいけど働けないというジレンマがあり、企業としては今後の課題になるだろう。
「収入の壁」を意識して働き控えも
企業も労働者も、一歩先の目線を
最低賃金の引き上げによって、企業は正社員の賃金テーブルの再構築が迫られるが、最低賃金ラインの賃金設定では人材確保が難しくなるだろう。
「最低賃金よりも高い時給でのアルバイト募集が少ないわけではありません。よもや『正社員で働くよりバイトでもらえる給料の方が高い』となれば、安定しつつも様々なしがらみを抱える正社員で働くよりも、比較的時間の融通が利き、気楽に働けるアルバイトの方が良い、と考える人もいるでしょう。そうなれば、人材確保という点ではより厳しい状況に陥ってしまいます」
最低賃金を大きく上回る時給で求人を出すと、優秀な人材が集まった事例もある。また、企業としては今後、賃金体系だけでなく自社の採用戦略や人事施策を見直し、今いる人材がよい高いパフォーマンスを発揮できるような環境づくりにも焦点を当てる必要があるかもしれない。
労働者としては、最低賃金が上がってラッキーと思うだけでなく、自分が働く会社を含め、こうした企業の動きにも目を向けていきたい。
取材・文/峯 亮佑