野菜の栄養吸収には油が必要
もう一つの油の重要な働きは、野菜に含まれる脂溶性栄養素の吸収促進だ。さきほど体の成分の6割は水分という話題が出たが、体の中は、そんな水の世界ゆえ、水に溶けづらく、油に溶ける脂溶性の成分を吸収するには、ひと工夫必要なのだ。
そのため、野菜に含まれる脂溶性の栄養は単独では吸収率が低く、ニンジンに含まれるカ ロテノイド類の吸収は約10%といわれている。単独では、せっかく栄養豊富なニンジンを食べても、わずかしか栄養を吸収できないということだ。
油は消化の段階で分解され、水に溶ける形(ミセル化)に変化し、さらに腸壁では、 リポタンパクという水の中を渡る船にのって吸収される。その段階はいくつものステップ に分かれて複雑になっている。その過程が長いために、油は腹持ちがよかったり、胃もたれが起こるのだ。
野菜の脂溶性の栄養は、ミセル化のときに油と混ざりあい一緒に複雑な段階を経て吸収される。
野菜に含まれる脂溶性の栄養が不足すると、肌荒れ、眼の不調などにつながる
野菜に含まれる脂溶性の栄養素が不足すると、 肌や眼をはじめ、さまざまな臓器にトラブルが発生する。野菜の主な脂溶性栄養素は、β-カロテン、ル テイン、リコピンといったカロテノイド類だ。
油を抜くと、油そのものの栄養効果だけでなく、野菜に含まれるカロテノイド類の不足により、ダブル体調不良につながり、老化の促進にもつながりかねない。
野菜の吸収効率には「ヨーグルト」を活用
それでは、どのように油を摂っていけばいいのだろうか?
まずは、1日必要な油の総量をチェックしておこう。身体活動にもよるが、 男性約50~60g、女性約40~50gが目安。
とくに意識したいのは、食品に含まれる油の量だ。スーパーやコンビニで食品を買うときに、 成分表示を見ていただきたい。
「植物油脂」「植物加工油脂」などと表示されているのが油です。菓子、カップ麺、アイスクリーム、あらゆる食品に植物油が使われている。菓子の揚げせんべいは、1袋でなんと脂質が30g以上含まれるものもあり、女性の1日分の摂取量に近づいてしまう。
しかも市販されている食品に使われている油はほとんど飽和脂肪酸、減らすべき油だ。
そこで油の代わりに野菜の栄養吸収を高める食品を食事と一緒に摂り、油の総量を減らしたい。
ヨーグルトなど乳製品は、野菜の脂溶性栄養素の吸収を助ける働きがあることがわかっている。乳脂肪は脂溶性ビタミンが溶けやすく、乳製品に含まれるたんぱく質も脂溶性の栄養の消化吸収を助ける。
食を楽しみながら、賢く油と付き合っていくことが、ダイエットと 健康維持に大切なことなのだ。
野菜と一緒にヨーグルトを摂るとカロテノイド類の吸収効率UP
最近の研究で、野菜とヨーグルト(V1乳酸菌で発酵、無脂肪)を一緒に摂るとカロテノイド類の吸収効率が高まることが明らかになった。
ヒトによる研究で、野菜摂取前後の血中濃度を比較したところ、ニンジンの場合、β-カ ロテンが1.8倍、トマトではリコピンがなんと6.5倍、ルテインでは血中濃度がマイナスからプラスに転じた。
乳酸菌が出す物質がカロテノイド類の吸収に関与
カロテノイド類の吸収効率を高めるためには、タンパク質が有効だ。ヨー グルトには良質なタンパク質が豊富に含まれており、吸収効率を上げること に役立っている。さらに上記の研究の結果では、乳酸菌がつくりだす EPSという物質の働きが大きいと考えられている。
EPSは多糖体で、ヨーグルト特有のねばりを出している物質。ほとんどのヨーグルトに含まれているが、V1乳酸菌は豊富にEPSを作り出すことがわかっている。
EPSはカロテノイド類が小腸で吸収されるときに、影響をしていると考えられている。
目安量は野菜100gに対してヨーグルト100g、デザートにヨーグルトを 食べても効果があるとされている。野菜に含まれる脂溶性の栄養吸収を考えたとき、より効率が高いヨーグルトを選ぶこともポイントだ。
資料監修
麻布大学 生命・環境科学部 食品生命科学科 教授 守口 徹 先生
1982年 横浜市立大学を卒業後、製薬会社の薬理部門に勤務。国立がんセンター研究所、東京大学 薬 学部に研究出向の後、同大学で博士号を取得し、1997年 客員研究員として米国国立衛生研究所 (NIH)で脂肪酸と脳機能に関して研究。2008年より麻布大学 生命・環境科学部に奉職、現在に至る。 日本脂質栄養学会 理事長。
構成/清水眞希