地銀と信金とゆうちょ銀行と
上に挙げた全国銀行協会の資料には、「最も利用する金融機関の割合」についても記載されている。それによるとアンケート回答者の52.9%が都市銀行の、51.9%が地方銀行の口座を持っているという。「その口座を主に利用している」ということになると、前者が30.9%、後者が25.6%だ。そして、ゆうちょ銀行の口座保有率は74.7%に及んでいる。
日本の金融業を語る場合、地銀と信用金庫、そしてゆうちょ銀行の存在を必ず考慮しなければならない。これらが全国各地に在住する人々に対して極めて盤石な「金融インフラ」を提供しているのだ。
キャッシュレス決済普及のための下地はアメリカの大都市よりも遥かに強固である、と考えられるのではないか。さらに強く言えば、この下地があれば日本各地に「キャッシュレス決済限定の店舗」を遠慮なく登場させることもできるはずだ。
PayPayが全国の信用金庫との連携を開始
キャッシュレス決済サービスと地銀・信金との関係強化は、今年に入って頻繁に見られるようになった現象である。
PayPayが7月11日に配信したプレスリリースには、全国241の信用金庫の口座をアプリに登録できるようになったと記載されている。この時、PayPayに関する話題は「他社クレカとの紐付け不可」がほぼ占めていたが、それと同時にこのような施策も行われていた事実は見逃せない。
言い換えれば、クレカを持っていなくとも信金の口座からPayPayにタッチできるということだ。
そしてこれは以前も記事にした話題だが、送金サービス『ことら』が全国170の信用金庫との連携を8月に開始した。信金がその土地の住人に対してどれほど多大な影響を与えているか、このあたりは日本以外の国の人々には分かりづらい点かもしれない。「信金の社員が勧めることは間違いない」と考える人も、地方都市には少なくないほど信金は強固な信頼を獲得している。
全国の信用金庫との連携を強化した送金サービス「ことら」の普及は地方創生につながるか?
各金融機関のアプリで利用できる「ことら」送金サービス、8月から全国信用金庫との連携強化 日本には「信用金庫」という形態の金融機関がある。 信用金庫は互助組織のよ...
「信金の口座がPayPayと紐付けできるようになった」というのは、筆者を含む地方在住の者にとっては相当なインパクトをもたらしているのだ。
日本で「ハット議員」は登場しない?
ここで話をまとめよう。日米では金融関連の基礎インフラにかなり大きな差異があり、しかも日本のほうがインフラの完成度が高いのではないか。
パンデミック前は「キャッシュレス後進国」とまで言われていた日本だが、ここに来てアメリカを含む各国をこの分野で凌駕する可能性もあるのでは……と考えられないだろうか。
少なくとも、日本ではハット市議会議員のような主張を持つ地方議会議員は登場しないか、登場しても決して多数派にはならないはずだ。それよりも、地元の金融機関との協調を思案したほうが遥かに現実的なのだから。
【参考】
Press release-Heather Hutt
https://councildistrict10.lacity.gov/sites/g/files/wph1986/files/2023-08/CD10%20Cashless%20Business_Press%20Release%20.docx%20%281%29.pdf
よりよい銀行づくりのためのアンケート-一般社団法人全国銀行協会
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/news/news310207_1.pdf
「PayPay」、全国241の信用金庫の口座が登録可能に-PayPay
https://about.paypay.ne.jp/pr/20230711/01/
取材・文/澤田真一