国民皆保険制度とも連携
日本人は、こうしたオンラインサービスを見て「これでは処方箋発行をすり抜けた医薬品が流通してしまうのでは?」と考えてしまうかもしれない。しかし「医療のDX化及びデリバリー化」は、むしろ処方箋発行とその管理を徹底させるためのものだ。
インドネシアの多くの薬局では、処方箋なしでの処方箋医薬品の販売を行っているのが現状である。抗生物質などは、割高ではあるが病院に行っていない外国人観光客でも簡単に購入できる。それは中央政府も認識していて「処方箋を必ず医師からもらおう」というキャンペーンを打ち出してはいるが、効果は芳しくないようだ。
だからこそのDX化、と書けばいいか。紙の書類は電子化したほうが管理が利くという発想が、ここでも十二分に生かされている。
そして、Halodocはインドネシアの社会保障制度『BPJS Kesehatan』とも連携している。これは2014年から始まった国民皆保険制度で、今の時点では国民の9割近くがBPJS Kesehatanに加入している。
なお、Halodocの創業は2016年。BPJS Kesehatanとの連携が2019年のことである。要はここ数年で始められた事業ということだが、若者の多いこの国では一度受け入れられたオンラインサービスの浸透は極めて早い。
昨年、Halodocの月間アクティブユーザー数は2,000万人に達している。そして今年7月、HalodocはシリーズD投資ラウンドで1億3,500万ドルもの資金を調達した。日本円で約200億円である。
処方箋医薬品のデリバリーは可能か?
我々日本在住者は、やはり「処方箋医薬品のデリバリーサービスは既に実現している」という点を認識しなければならないだろう。
無論、Halodocの仕組みをそのまま日本に導入するわけにはいかない。上述のように、処方箋医薬品を手に入れるにはWhatsAppを利用したやり取りが必要だ。
日本ではこのメッセンジャーアプリの利用率は高くない。では、LINEで同じことができるのか……という考察を経なければならない。
が、ここで「難しい」と判断してそのままにするのはナンセンスではないか。
日本では今年1月から電子処方箋が解禁された。これを十二分に活用しようと考えるなら、「デリバリーサービスで処方箋医薬品を配送する」という発想も続々と提起されるはずだ。
しかし、日本経済新聞によると電子処方箋の普及はなかなか進んでいないという。
医療をデジタル化する柱の一つである「電子処方箋」の普及が鈍い。1月末に始まってから半年超にあたる8月27日時点での医療機関や薬局の導入率は、国の予算支援があるにもかかわらず、2.6%にとどまった。重複投薬の回避など健康管理上の利点は大きく医療機関は対応を求められる。
(日本経済新聞2023年9月4日『電子処方箋の普及進まず 医療機関・薬局、導入2.6%どまり』)
この状況は、これから好転するのか? 今後はそのあたりにも注目する必要がある。
【参考】
Halodoc
https://www.halodoc.com/
電子処方箋の普及進まず 医療機関・薬局、導入2.6%どまり-日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO74137590T00C23A9NN1000/
取材・文/澤田真一