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2泊3日で23万円から!オーストラリアでシニア世代に人気の豪華寝台列車に乗って考えさせられた日本の将来

2023.09.11

温帯~砂漠地帯~熱帯を踏破する

「ザ・ガン」はユニークな路線だ。オーストラリアの他の豪華寝台列車はたとえば「シドニー~メルボルン~アデレード~パース」または「ブリスベン~シドニー~メルボルン~アデレード」という大都市を結ぶのに対して、これだけが大陸中央の果てしなく広がる砂漠地帯や灌木地帯といった大自然の中を爆走する。

朝、列車は灌木地帯を走っていた。

そして終着駅のダーウィンは熱帯気候。つまり温帯から出発して、砂漠気候を経由し、最後に熱帯にたどりつく(またはその逆)。世界中見まわしてもこんな列車はそうざらにはないだろう。

「砂漠と熱帯」という日本にはない気候を一気に楽しめるのもこの列車の魅力のひとつ。そして日本の変化に富んだ車窓からの風景もいいが、「同じような景色が何時間も延々と続く」というのは広大な大陸を走る列車ならではの経験だ。

朝食時に同席となった夫婦に話を聞いてみた。

マックスさんとディアナさんというメルボルンから来た夫婦。

すでに二人とも仕事を辞め、年金生活に入っているという。そして趣味の一つが旅行だ。もともとは海外旅行によく出かけていたが、コロナでそれもできなくなった。加えて二人とも70歳になったため、体力的なことを考えて国内旅行を中心にシフトしていくつもりだという。

今回の「ザ・ガン」乗車もその流れに乗ったものだ。

「考えてみたらオーストラリアは広い。まだまだ行ったことがないところが、国内でもたくさんありますから」とマックスさん。

朝食を終えるとすぐにキャサリンでの途中下車し、専用バスで移動してのアクティビティー。いくつかの中から選べるが「キャサリン渓谷」(アボリジナルの言葉で「ニトミルク」)でのクルーズが一番人気だ。

写真は以前乗船したときのもの。こんな岩肌の間を縫うように進んでいく。初めての方にはやはりこれがおすすめ。

私はこの「キャサリン渓谷クルーズ」をすでに2度経験しているので、「アウトバックエクスペリエンス」(奥地体験)というアクティビティーを選んだ。

屋根付き壁なしの屋外劇場で馬や牧羊犬の調教の仕方を見せてもらったり、動物たちとふれあったりするものだった。

これらは乗車賃についてくるが、有料のヘリコプターツアーもある。

その後すべてのツアー参加者が「貸し切りレストラン」状態にしたキャサリン渓谷ビジターセンターでランチ。

屋外のテラス席にもいくつものテーブル。今回は5台の大型バスに分乗した人たちが一堂に会した。

「裕福」になったオーストラリア。一方で……

今回乗車していたのは90パーセント以上が彼らのような現役をリタイアした年金生活者だ。そしてオーストラリア国内からの旅行者が多い。

昼間もラウンジカーでおしゃべりの花が咲く。エスプレッソマシンでつくられたコーヒーも楽しめる。もちろんアルコールも。

そんな彼らがなぜこれほどまで多く豪華寝台列車の旅が楽しめるのか。答えは単純。彼らが資産を持っているからだ。

資産運用も得意分野の一つであるグローバルコンサルティング会社の「マーサー社」は、各国の「年金制度」を評価する「グローバル年金指数」を発表している。2022年10月の発表では世界の総人口の65パーセントをカバーする44の国と地域がその対象だ。

評価は単純な「年金額」だけではなく、「十分性」「持続性」「健全性」の3項目の総合評価で行われる。オーストラリアは総指数76.8ポイント。最高のAに次ぐB+の評価で、44の国と地域のうち第6位だ。

一方の日本はというと総指数54.5ポイント。6段階中下から2番目のC評価で、第35位。ちなみに日本より下にはトルコとアルゼンチンを除くと、アジアの国々ばかりが並ぶ。

年金不安による老後への不安がないことが、オーストラリアの年金生活者を元気にしている要因の一つだろう。他にも金利の違いによる資産運用の違いなども、日豪の年金生活者の活力の違いにつながっている。

最後におそらく最もショッキングなデータを挙げよう。国際通貨基金が毎年発表している一人当たりの名目GDP(国内総生産)だ。オーストラリアは世界10位の6万5526米ドル。一方の日本は世界31位で3万3822米ドル。ほぼ倍の差がついている。ちなみに私がオーストラリアに移住した1999年は日本がオーストラリアの約1.7倍あった。

夕暮れ時。下車前の最後のひとときをラウンジカーで楽しむ人たち。

日本はどこに向かっているのだろう。そんなことを考えさせられる豪華寝台列車の旅だった。

文/柳沢有紀夫
世界約115ヵ国350名の会員を擁する現地在住日本人ライター集団「海外書き人クラブ」の創設者兼お世話係。『値段から世界が見える』(朝日新書)などのお堅い本から、『日本語でどづぞ』(中経の文庫)などのお笑いまで著書多数。オーストラリア在住

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