■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、楽天モバイルの「ワンクリック申込」や「Rakuten最強プラン」について話し合っていきます。
楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」は価格がネック
房野氏:楽天モバイルは、ワンクリックで「Rakuten最強プラン」に申し込みができるサービスを開始していますね。
法林氏:〝ワンクリック詐欺〟がよぎらない?(笑)
石野氏:「ワンクリック」って単語が出ると、まず「詐欺」って続いちゃいますよね。チャレンジングな名前だなと思いました。そういうレピュテーションリスクみたいなものを考えなかったのかな。あと、あれ実は全然ワンクリックじゃないんですよ。
法林氏:3回か4回くらいはクリックしないといけないよね。
房野氏:eSIMの開通自体がワンクリックということ?
石野氏:申し込みでワンクリック、説明事項のチェックにワンクリック、ツークリックみたいな感じで、どうしても数回はクリックしないといけませんよ。
石川氏:絶対に確認は必要だからね。
石野氏:ちょっと大げさですよね。
房野氏:「Rakuten最強プラン」っていう名前も大げさですしね。
法林氏:なにをもって〝最強〟なのかって話だよね。
石川氏:業界関係者からも批判の声が上がっていますよ。
房野氏:楽天モバイルの中で最強なのかと思ったら、業界全体で最強を謳っていますからね。
法林氏:まあ、そういうちょっとツッコミどころのある話だけじゃなくて、Rakuten最強プランの内容を見てみると、段階制で値段の上限はあるけど、データ通信は無制限になる。ドコモの「eximo」もしかり、こういう仕組みはありだと思う。
石野氏:あと、今回は楽天カードの会員に絞っていますが、本人確認をしないという仕組みは物議をかもしそう。
石川氏:そうだね。三木谷さんは8月中に音声SIMの提供も開始したいといっていたけど、実際に聞くと難しそう。昨今、050を使った電話番号でも本人確認をする動きがあったり、詐欺が横行しているので本人確認を強化しようという流れがあるので、なかなか楽天の思うようにはいかないんじゃないかなと思います。
法林氏:まあ、ワンクリック申込に関しては、これまで楽天モバイルが気になっていた人、以前に楽天回線を持っていた人が、eSIMなら簡単にプラス1回線として使えるよというサービス。特に最近のiPhoneならほぼeSIM対応だから。ただ、今のところデータ専用プランなので、使い道はデータ通信しかない。
石野氏:しかも料金は音声プランと同じ。
法林氏:そう。それで、データ通信のみが使いたいデバイスは、iPadとかになる。ところが、楽天の動作確認端末を見ると、2年くらい更新されていないんですよ。サービスを広げるなら、いろいろやらないといけないことがあるのに、出たとこ勝負でやっているのがよくない。
石野氏:データプランといっても、データ端末で使ってほしいとは少しも思っていないようなプランですもんね。
法林氏:そうだけど、隙間があるとすればそこでしょう。石野君が気に入っている、ソフトバンクの「データ通信専用3GBプラン」だって、そこを取りに行っている。そう考えると、自前で端末を取り扱っていないからこそ、動作確認端末はしっかりやらないとダメ。
石野氏:楽天のデータプランは、本人確認を省略するためだけのプランになってしまっていて、データプランとしての魅力がないんですよね。200円、300円くらい安くしたっていいはずです。
法林氏:ほかの3キャリアは、メインの音声回線を契約している人が、データプランを契約したい時は、1000円程度の追加料金で持てる。それと楽天の3278円を比較するのかという話になっちゃいます。
石野氏:割引きがきちんと適用されている前提だと、3キャリアの音声回線とデータ回線を契約した場合が、楽天モバイルを2回線持つのとほぼ変わらなくなってしまいます。3キャリアは2回線目が激安なので、楽天の安さのアドバンテージが消えてしまうんですよね。
石川氏:楽天モバイルとしては、ほかの楽天のサービスを使っている会員に対して、どう回線契約をしてもらうかに注力している。他社からユーザーを取ってくるとか、家族ごと移動してもらおうという戦略は見えません。今のところ、楽天会員だけど楽天モバイルではないという人も多いので、戦略としては理解できますけど…。
法林氏:それをやるんだったら2年前からだよね。
石野氏:あと、ユーザーを個人でしか見れていない気がするんですよね。回線ってそうではなくて、家族で契約したりするものじゃないですか。3キャリアが、携帯は個人で契約するものでもないという常識を作ってきた中で、楽天は楽天IDを持った個人しか見ることができていません。
法林氏:うまくターゲットを絞れていない印象はあるよね。たとえば、ahamoはZ世代の一人暮らしをしている人たちというメインターゲットが明確だけど、楽天は全部を取ろうとする体制になっている。家族じゃない人を取りに行く、おひとり様の場合は、総務省に怒られても3万ポイント還元しますとかやってもいいじゃん。
石野氏:それは普通に怒られますよ(笑)
石川氏:まあドコモのirumoもいろいろ言われてはいるけど、光回線や家族割を用意しているのは、あれが勝ちパターンだからです。そこで楽天は、家族をまるごと持ってくるような、大胆な戦略がないとなかなか損益分岐点は超えられないでしょう。
法林氏:今は、どこを取りに行きたいのかが、僕らからすると見えにくい。
房野氏:Rakuten最強プランの提供は始まっていますが、契約者数は増えているのでしょうか。
石野氏:増えてはいるみたいです。ただ、損益分岐点を早く超えないといけない。楽天はいろいろ借りている状態ですからね。
石川氏:ソフトバンクも昔は赤字がすごかったけど、当時は端末が割賦になっていたので、端末の債権を売ることができた。基地局もベンダーファイナンス(製品を販売する事業者が、リースや分割払いなどの金融サービスを組み合わせて提案できるようにする手法)で使えたので、資金調達ができた。楽天は、端末はSIMフリーが多いし、基地局はサーバーなので、お金を生む手法があまりありません。
法林氏:株の用語に「ナンピン(保有している銘柄の株価が下がった時に、買い増しをして平均購入単価を下げ、利益が出る水準を下げる手法)」というものがあるけど、楽天はグループ会社の上場によるお金の調達と、楽天の株主たちのナンピン買いの競争になっている。この状況は厳しいよね。
この3年間くらいの戦略で言うと、楽天カード会員にはデータプランを安く提供するとか、そういう工夫はできたはずなのに、今さら始めている。さすがにタイミングが悪い気がします。コロナ禍の真っ最中なら、回線契約が増えたかもしれないけど、その時期は何も動きなかったですからね。
房野氏:楽天はワンプランをずっと掲げていますからね。
石川氏:ワンプランにこだわっているのも、政府からわかりやすさを求められているからでしょうけど、ユーザー数が増えるとワンプランでは収まらなくなるし、データプランが同じ料金というのも、もう少しやりようはあったんじゃないかなと思います。
法林氏:もったいないよね。まだまだできることはあるはずです。