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なんと1430万人も!イヤホンをよく使う人が知っておくべき、難聴がもたらす「うつ」や「認知症」のリスク

2023.08.31

「働き盛り世代が知っておくべき健康寿命を延ばす術」シリーズ。今回は「難聴」である。聞こえにくいと自覚を持つ日本の難聴者数は、なんと1430万人(補聴器工業会調査)もいる。人口に対する比率は11.3%で、世界で3番目に多いと報告されている。

加齢による聴覚の衰えが、聞きにくさの原因であるのは事実だが、世界保健機関(WHO)は大音量の音を長時間聴くことで、聴覚障害になる恐れのある12~35歳の若い世代では、世界で約11億人に及ぶと警鐘を発する。日本のビジネスパーソンも他人ごとではない。20~50代の難聴者や自覚のない難聴予備軍は、想像以上の数に及ぶのだ。

“サトウさん”が“カトウさん”に

「2018年にWHOが世界に示した国際基準によると、聴覚障害にならない安全な音のレベルの目安は、大人で音量80dB(デシベル)、子どもは75 dBをそれぞれ1週間に最大40時間としています」

そう語るのは、今回レクチャーをお願いした防衛医科大学校 耳鼻咽喉科学講座 水足邦雄医師である。まず、聞こえにくい障害について水足先生はこう語る。

「難聴は音の情報が正しく脳に伝わらなくなる障害です。伝わらなさには2種類あって、一つは音が聞きづらい、もう一つは言葉が聞き取りづらい」

音の大きさを表すのはdB(デシベル)。音の振動を表すのがHz(ヘルツ)。音波の振動が細かいほど高い音になる。

「大声で話をしないと聞き取れないのは、難聴の典型的な症状ですが、加齢によってよく起こるのは、高い音が聞きづらくなる現象で。“S”の音と“K”の音を聞き違える。“サトウさん”が“カトウさん”に聞こえたりします」

“音は脳で聞く”のだが、聴覚の仕組みを水足先生はザックリ解説する。

肝心要の有毛細胞の“毛”

「耳の入り口から鼓膜までが外耳、鼓膜とその奥の音を大きくする役割の耳小骨が中耳、さらにその奥の内耳には平衡感覚を司る機能と、音を感知して脳に伝えるカタツムリのような形をした蝸牛(かぎゅう)があります」

蝸牛の中のコルチ器という部位には、1万2千本ほどの細かい毛に覆われる有毛細胞が収まる。音が入ってくるとコルチ器内の有毛細胞の毛が曲がり神経を刺激し、それが脳の視覚野に伝わり音として処理される仕組みだ。

「問題はこの有毛細胞で、きれいに毛が並んだ状態なら、高い音から低い音まで問題なく聞こえます。ところが有毛細胞が抜け落ちてしまうと、音が正常に再現できなくなる。ピアノに例えると、鍵盤がそろっているピアノは高音から低音まで聞かせることができますが、鍵盤が欠けると思うような音の再現ができません」 

なぜ、有毛細胞が抜け落ちてしまうのか。なぜ、ピアノの鍵盤が欠けたような状態に陥るのだろうか。加齢が難聴の原因だとは一般的な認識だが、それだけではないと先生は解説する。

難聴からの回復は極めて困難

「騒音をたくさん聞く環境にいる人は、難聴になりやすい。高い音から聞こえにくくなっていきます。例えば、ミュージシャンです。今は演奏のときの強烈な音がそのまま耳に入ると、危険なことが広く知られていますから、ミュージシャンはイヤーモールをして耳を守っています。

脳に音の情報を伝える有毛細胞の毛は弱い。強烈な音、つまり強い力で、ずっと毛を曲げられると毛が倒れっぱなしの状態になる。大音響で演奏するロックコンサートの後、耳の奥がピーンと鳴る感じを経験した人は多いと思います。あれは大きな音を聞き過ぎて、有毛細胞が誤作動を起こしている証しです。

ヘッドホン等で日常的に大きな音を何年にも渡って聞き続けていると、有毛細胞の毛がダメージを受け有毛細胞自体が抜け落ちてしまう。抜け落ちた有毛細胞は再生しません。有毛細胞も有毛細胞の毛も、二度と生えることがないのです」

ちょっと待ってほしい。冒頭に上げたWHOの聴覚障害にならないための国際基準は、2018年に提示されたものだ。今はスマホのヘルスケアアプリにも、難聴を警告し安全な音の大きさが記載されているが、加齢が加速する40~50代のビジネスパーソンの中には、音の大きさを気にせず、若い頃からヘッドホンで音楽を楽しむのがふつうという人も多い。無意識に耳を酷使してきた、難聴予備軍と思われる人はかなりの数に及ぶのだ。

「聞こえづらさを感じたら、耳鼻咽喉科で聴力検査を受けることを勧めます。純音聴力検査といって、ベッドホンをして音が聞こえたらボタンを押す。ひそひそ話の音の大きさが40デシベル、一般的な会話は60デシベル、30デシベル以上の聴力なら問題はないでしょう」

ヘレン・ケラーの格言

「聞こえづらさを放っておかない方がいい。難聴を甘く見てはいけません」と、水足先生は語調を強める。

生涯を通して障害者の福祉・教育に尽力したヘレン・ケラー(1880~1968)は、目も耳も不自由だった。そんな彼女は“聴覚は視覚より困難なこと”と述べている。その理由として聴覚障害者は視覚障害者に比べて、生活上の不自由は少ないが、声が聞こえないことで圧倒的な孤独に陥るからだと、応えている。

「難聴は“微笑みの病”とも言われています」

水足邦雄先生のその言葉は、深刻な問題を含んでいる。

「相手が言っていることがよく聞き取れない。聞き返すのは億劫だし気が引ける。よくわからなくても愛想笑いをしたり、相槌を打ってしまう」

話がよく聞き取れないと、友達と食事に行ってもつまらない。“どうせ聞き取れないのだから”と諦め、会話のコミュニケーションから遠ざかっていく。会話が減り人との交わりがどんどん減って、孤独感を深めていく。

「そんな状態が続くと、うつ病を発症しやすくなります。話好きの方が多い女性より、男性にこの傾向が強いですね」

さらに近年、難聴が認知症を誘発する原因の一つではないかという研究成果も、複数報告されていると、水足先生は指摘する。

音を聞く要となる有毛細胞が抜け落ちると、再生は不可能だ。難聴の完治は極めて難しい。難聴による孤独感、うつ病、そして認知症の併発の危惧――。

大きな音をヘッドホン等で無意識に長年、聞き続けてきたビジネスパーソンは、加齢の加速とともに難聴に陥る可能性が高い。

聴きづらさを自覚したら、私たちはいったいどうしたらいいのか。難聴の進行を遅らせ、認知症をはじめ難聴の弊害を軽減するには、どうしたらいいのだろうか。明日の配信する後編では認知症と難聴のメカニズムをはじめ、難聴を克服する術を詳しく解説する。

取材・文/根岸康雄

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