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不動産業界のDX化はなぜ進まないのか?AIがもたらす変革と不動産業界の未来

2023.08.27

少しずつ進化する不動産業界。AI査定が業界にもたらした変革

一方で、10年前と比べれば大幅に変化している部分もあると浅海氏は話す。例えば、全国の物件情報をいつ・どこからでも閲覧できる、不動産ポータルサイトの登場。一昔前までは不動産会社は店舗を構え、物件情報を窓に張り出し、集客することが既定の商法だった。今や不動産ポータルを通じて問い合わせを受け、物件の現地で集合・案内し、店舗に行くのは契約手続きのみ、ということも少なくない。かつては対面の説明と紙での取り交わしが必須となっていた「重要事項説明」と「賃貸借契約」もしくは「売買契約」の手続きに関しても、2022年の宅建業法改正により、全ての工程をオンラインで完結させることが可能となった。

コラビットが提供するAI査定サービス「HowMa」も業界の常識を大きく変えたITサービスの一つだ。HowMaは全国の戸建・マンションの価格をAI価格推定エンジンにより自動推定。不動産業者を介さずに無料で査定を行うことができる。

「HowMaは2015年に提供開始。不動産って、一般的に個人の資産の中で現金資産を超えて一番大きいものなんです。だけど多くの人が、その正確な価値をきちんと知らないままに所有してしまっている。いざ売る、というタイミングになって初めて査定をするという人がほとんどなんです。自分の不動産の価格を手軽に知ることができれば、不動産はもっと売りやすくなり、流通が増えるはずだ。そんな思いからHowMaのサービスを始めました。」

サービス提供開始後、業界内からは一部反発もあった。「情報の非対称性を守りたい業者にとって、手軽に査定できてしまうHowMaは脅威に思われたようです。」と浅海氏。それでも大手企業を中心に引き合いが止まらず、今では大手不動産会社のほとんどがAI査定を導入している。

「これまでは不動産を査定するには売却を前提に不動産会社に査定を依頼するしかなかった。ところがHowMaをリリースするとユーザーが殺到。今すぐ売るつもりはなくてもひとまず価格は知りたい、という人が大勢いたんです。結果、自分が思っていた以上の査定結果が出て、そこから物件を売る人がいれば、市場に流通する物件が増える。今すぐ売るつもりのない人にこそ、AI査定は利用いただきたいサービスです。」

今後も生まれ続ける新しい技術と不動産業界の未来

ChatGPTの登場、続いて数多くの生成系AIが世に現れ、IT業界のみならず一般人にも盛り上がりを見せている。DX化が遅れている不動産業界にはどのような影響があるのだろうか。

「現時点ではChatGPTの登場によって不動産業界で大変革が起きた事例はまだありません。というのも、ChatGPTはその特性ゆえに、向き不向きが明確にあるからです。不動産業界は宅地建物取引業法に従い、高度な知識と専門性が求められる業種。一方でChatGPTが得意とするのは、高い専門性ではなく、幅広く浅い知識量。そのため、専門性が関わる部分については相性があまり良いとは言えません。」

一方で大きな需要が見込まれるのが、専門性を必要としない定常業務。入居後の問い合わせ対応やトラブルシューティングなど、一定レベルのマニュアル化された受け答えであれば、ChatGPTが代替できる仕事は数多い。既存のチャットサービスにChatGPTを搭載したアプリもすでに多く生まれている。

「ChatGPTで業界全体を変革するのはおそらく難しいし、DXにも直結はしないと思います。まずは自分達のサービスや事業との相性、向き不向きを見極めて、取り入れられる部分は取り入れ、効率化や品質向上を進めることが大事です。」

とはいえ、ChatGPTや生成系AIはまだ登場したばかりの黎明期。これからどんな進化を遂げるのかは未知数だと浅海氏は話す。その上で、新しい技術が登場した時に、企業はどんな姿勢を取るべきなのか。

「一つはファーストペンギン、つまり誰よりも早く取り組む。もちろん技術によって大きく成功するものもあれば、一時的に流行してすぐに終わってしまうものもあります。その中で、かけた努力に対して何も成果を出せずに終わってしまうリスクもある。しかし逆に成功すれば、業界内ではその技術に対する第一人者になれる可能性もあるんです。不動産会社だったはずが、いつの間にかIT業者になっている、なんてこともあるかもしれないですね。いずれは営業マンゼロの仲介業者も誕生するかもしれません。二つ目は、業界内での成功事例を見ながら、動きが大きくなればその波に乗る、という戦略。ほとんどの人がこの姿勢を取りがちですが、この場合、先に動いたほうが結果的に得を得られることは多いです。」

一番避けるべきなのは、新しい技術や流れを一切取り入れず、今までの慣習にしがみつくこと。変化の大きい時代において、そのような姿勢は取り残され、やがて廃れていってしまう。

「不動産業界では、確かにまだDXと呼べるほどの大きな構造変化は起きていません。それでも長い歴史を振り返ってみれば、少しずつでも着実に小さくない変化が起きています。これから先も、大小様々な変化を繰り返しながら、10年、20年後にはまた大きく変わっているはず。その中で時代の流れを読み、自分達も変革しながら進歩の道を歩むこと。そのさきに不動産業界の未来があると思っています。」

【取材協力】

株式会社コラビット
代表取締役CEO 浅海剛氏
https://www.how-ma.com/

取材・文 / Kikka

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