レガシー産業と呼ばれる不動産業界。電話での応対、紙ベースでのやりとり、対面必須の契約手続きなど、長らく続くアナログな商習慣により、他業界に比べてもDX化の進みが遅いと言われている。2022年にChatGPTが登場し、文章、画像、音声、音楽、動画などを生成できる「生成系AI」が一気に注目を集めるようになった中、不動産業界にはどのような影響があるのか。新しいテクノロジーと企業はどのように向き合い、対応していくべきなのか?不動産のAI査定サービス「HowMa(ハウマ)」を運営する不動産テック企業・株式会社コラビット代表取締役CEOの浅海剛氏にお話を聞いた。
最大の課題はユーザーの体験回数が少なく、ニーズが小さいこと
「不動産業界は歴史がとても長く、歴史を遡ると江戸時代から、あるいはもっと昔からあったと考えられています。歴史の長い業界ほど、古くから続いてきたルールや習慣、法律が数多くあり、業界の構造を変革するようなDXは起きづらい、という事象がまずあります。」
その上で、不動産業界のDX化を阻む最大の要因として、浅海氏は不動産売買のイテレーション、つまり繰り返しの頻度が低いことを指摘した。一般的に日本人が生涯で不動産を売買する回数は1回から2回程度、賃貸を含めても不動産に関する取引(やりとり)は10回にも達しないことがほとんどである。モバイルオーダーというDX化に成功した飲食業、今やネット販売が当たり前になった小売業に比べ、日常生活で接する機会は圧倒的に少ない。そのため、エンドユーザーが積極的に効率性やデジタル化を求めておらず、DXが起こりにくくなっている。
他にも、不動産業において一番の顧客である物件の所有者、つまりオーナーの多くがデジタル化を強く望んでいないこと、不動産業の安定性ゆえに業界の変革が起こりにくいことなど、多数の要因が挙げられる。
「例えばハンバーガー屋に行って、行列に並んで注文を待たされる店とモバイルオーダーが
できる店だったら、後者を選ぶ、という人は多いでしょう。でも不動産取引においては、スマホで契約できるからこっちの物件を買います、という選び方をすることはほぼ考えられません。金額が大きく、人生において1度か2度きりの体験であれば、積極的に変えようという流れも生まれづらい。不動産業界でなかなかDXが起きないのはそういった理由からですね」