脱ゲーム機メーカーを目指す
任天堂の古川俊太郎社長は、2023年3月期の決算説明会でNintendo Switchのライフサイクルの長期化について「未知の領域に入った」と発言しています。任天堂はこれまで、5年から7年で新たな据え置き型家庭ゲーム機を市場投入してきました。
Nintendo Switchは2017年3月に発売しており、6年以上が経過しています。それにも関わらず、減収ペースが緩やかなのです。任天堂はゲーム機のライフサイクルの長期化を狙っていたとはいえ、今の状態は想定外だったのかもしれません。
任天堂の売上高を支えている主要因がソフトのヒット。ポケットモンスターやスプラトゥーンなど、1,000万本を超えるメガヒット作を世に送り出し続けています。
※決算説明資料より
任天堂は基本戦略に「任天堂IPに触れる人口の拡大」を掲げています。ゲーム機を開発して販売するメーカーではなく、キャラクターを活用して稼ぐビジネスへの転換を図っているのです。今の状況は、ゲームという枠組みに限定されてはいるものの、IPを活用して会社を成長させる取り組みの一環だと捉えることができるでしょう。
実は2024年3月期は、ゼルダの伝説以外の主力タイトルをリリースする予定はありません。ゼルダの伝説は任天堂の売上を担うほどのIPに成長したのです。
ゼルダの伝説が突如として注目されるようになった理由
ゼルダの伝説は1986年に発売されたアクションアドベンチャー。アクションや謎解きの要素が盛り込まれており、主人公はリンクという名で統一されています。
このゲームは一定の人気を獲得していましたが、現在のようなメガヒット作とは程遠い作品でした。行き詰っていた要因として、ゲームを楽しむ要素の一つである謎解きがシリーズを重ねるごとに難解になり、プレーするハードルが上がったことがあります。
局面を大きく変えたのが、2017年3月にNintendo SwitchとWii U用のソフトとして販売した「ブレス オブ ザ ワイルド」。
このタイトルは販売と同時に爆発的なヒットを飛ばしたわけではありません。じわじわと評判が広がり、やがて3,000万本を突破。シリーズ最高を記録しました。
「ブレス オブ ザ ワイルド」最大の特徴が、オープンワールド形式の採用でした。従来はシナリオが固定されており、Aというイベントを通過してBを手に入れ、Cに潜入するというパターンが決まっていました。
オープンワールドにしたことで、プレーヤーは自由にゲームを攻略することができます。課題だった謎解き要素も、解法を複数用意することで難易度が下がりました。
好きな順番で攻略できるようになると、100者100通りのアクシデントが起こるようになります。その模様をYouTubeなどで配信するプレーヤーが後を絶たず、ゼルダの伝説が熱狂の渦を巻き起こしました。
ゼルダの伝説の映画化は?
「ティアーズ オブ ザ キングダム」は二番煎じを危惧する声も聞こえましたが、期待を大きく裏切りました。素材を融合して、新たな武器や機械を生み出す仕組みを導入したのです。
ドローンやロケット、時限爆弾など、想像力次第で好きなものを作ることができます。プレーヤーは道具を生み出すことに熱中し、その模様がYouTubeで拡散されるという好サイクルを生み出しました。
ゼルダの伝説は時代を上手くとらえたヒット作だと言えるでしょう。
この作品は一時、映画化されるとの噂が流れました。関係者はそれを否定しましたが、映画がヒットするポテンシャルは十分に持っているIPです。
Nintendo Switchで新たな局面に入った任天堂が次に何を仕掛けるか。目を離せない存在となりました。
取材・文/不破 聡