スポーツやトレーニング時の水分補給のポイント
ではスポーツやトレーニング時にはどのように水分補給をすれば良いだろうか。
日常生活においては、一般成人であれば喉が渇いたと思ったらすぐに、もしくは喉が乾きそうになったら飲むのが推奨されるが、スポーツやトレーニング時の水分補給は異なるという。
スポーツなどのときの水分補給量は体格や体質によって異なってくる。例えば汗をほとんどかかない人と一般的な量の汗をかく人と比べれば、汗をほとんどかかない人が、他の一般的な人と同量の水分を摂ってしまうと過剰になる恐れがある。
見極めるポイントは、体重をこまめに計測することにあるという。運動後の体重減少は水分の補給不足を意味し、体重増加は水分過剰補給を意味する。
自分にとっての適切な量を知った上で、「運動の前後と運動の合間にこまめに水分を補給すること」が大切だという。こまめに、という点がポイントだ。一度に多量の水分を摂取することは、胃腸に負担がかかり、運動のパフォーマンスにも悪影響を及ぼすからだ。
日本スポーツ協会が示している指針では、次のように水分補給をすることが推奨されている。
・運動開始の20〜40分前に250〜500ミリリットル、つまりペットボトル1本分程度の水分を摂る。
・運動中は15分おきにコップ1杯分、つまり1時間に4回、合計500〜1,000ミリリットルの水分補給を行う。
一方、短時間の軽く汗をかく程度のウォーキングやハイキングなどでは、1日あたり、400〜600ミリリットル程度多く水分を摂取すると良いという。後述するが、この場合はスポーツドリンクは適していないので水が推奨される。
1時間以上、汗をかき続ける運動ではどうか。運動の時間と強度により異なるが、マラソンや登山などの長時間の激しい運動においては、ナトリウムを含んだ飲料を摂取するようにすることが重要だという。
スポーツドリンクは使い分けるべき
運動時の水分補給には、スポーツドリンクが第一に選択されるという。
長時間の激しい運動で汗を流す際に、自分の身体能力(パフォーマンス)を最大限活用したい場合、スポーツドリンクには普通の水だけでは得られない効果が期待できるという。
スポーツドリンクは、血液量の維持および尿からの水分損失を減らす作用において水よりも優れている。さらにスポーツドリンクは、持久力と瞬発力の両者において活動筋が必要とする糖質エネルギー源を即座に補ってくれる。
一方で、日常生活をはじめ、ウォーキングやハイキングなどの短時間の軽い運動時には適していないため、注意が必要だ。スポーツドリンクは基本的にスポーツ選手がスポーツ後に飲むために開発されたものであるため、糖質含有量も多めだ。スポーツで失われたエネルギーや電解質や栄養素を補う意味で利用すべきといえる。
ただしスポーツドリンクは商品によっても用途が異なるため、よく確認して利用しよう。
まだまだ厳しい暑さは続く。夏場にスポーツやトレーニングに励む際には、ぜひ熱中症や脱水症対策を確実に行い、水分補給のポイントを押さえながら健康維持に努めよう。
【取材協力】
谷口 英喜氏
済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/周術期支援センター長/栄養部部長 医師
専門は麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理など。日本麻酔 学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、日本外科代謝栄養学会指導医、TNT-Dメディカルアドバイザー。1991年、福島県立医科大学医学部卒業。学位論文は「経口補水療法を 応用した術前体液管理に関する研究」。著書『いのちを守る水分補給~熱中症・脱水症はこうして防ぐ』(評言社)ほか多数。
文/石原亜香利