サッポロビールの上富良野の畑では数百種のホップが
では、大手のビールメーカーはホップ生産にどのように向き合っているのだろうか。
サッポロビールはホップ、大麦ともに自社で育種を手がけ、農家と協働契約栽培をしている世界でも数少ないビールメーカーである。歴史をひもとけば、1877年に今の道庁の近くに札幌ホップ園を開設、ホップの育種を手がけてきた。現在、北海道空知郡上富良野町の4軒、東北の15軒の農家と契約栽培を行っている。
記者は7月下旬、上富良野にあるサッポロビール原料開発研究所の、広大なホップ試験栽培場を訪ねた。
「数百種類のホップが栽培されています」と、北海道原料研究グループ主任研究員の鯉江弘一朗さん。現在、農林水産省に登録されている国産ホップ品種は28種あるが、そのうち20種がサッポロビール開発による。その多くがここで育ち、今も育てられている。
ラベンダー畑で有名上富良野では、2006年から協働契約栽培が始まっている。その一角で、ひときわ大きなホップ畑で汗を流しているのが稲葉章さんだ。もともとサッポロビールでホップの研究に長年携わってきたホップの専門家。早期退職して自家ホップ農園を立ち上げた。
ホップ農家の稲葉彰さん。自身が育種した「リトルスター」を栽培している。ちなみにリトルスターは8月に発売された「NIPPON HOP 希望のホップ リトルスター」と、「サッポロ クラシック夏の爽快」(いずれも期間限定)で使用されている。
花は若干小さめながら、収量が多く病気に強い。また、収穫時に高く伸びたつるを下げる「つる下げ」という作業があるが、それを不要にしたのがリトルスターの特長だ。生産者の作業軽減につながる収穫のしやすさも品種改良に求められる要素だ。
このほかに上富良野では「フラノマジカル」「フラノスペシャル」などのホップが栽培されている。
「フラノマジカル」はトロピカルな香り成分を持ち、マンゴーのような香りを含むのが特徴だ。世界的にトロピカルフルーツのような華やかな香りのホップが人気を博しているが、鯉江さんは、「長いこと日本では、そういう香りは出ないと言われてきました。それだけマジカルな香りだったことからこのネーミングになりました」と語る。
ここから巣立ったホップでもっとも有名なのは、「SORACHI 1984」で知られる「ソラチエース」だろう。生まれは1984年と40年近くも前に遡る。
ヒノキやレモングラスを思わせる複雑な香りは開発当時、日本では見向きもされなかったそうだ。それが90年代にアメリカに渡り、あるホップ農家に見出され、すでにクラフトビール人気が高じていたアメリカの醸造家の間でブレイク。アメリカやヨーロッパでの量産されるようになった。日本に凱旋して「SORACHI 1984」が発売されたのは2019年のことである。
その独特な香りと、海鮮とも合う合わせられるマリアージュの幅広さから、ソラチエースファンは着々と増えているようだ。現在、国産ソラチエースの収量は350キログラムとごく少量のため、海外産が多く使用されている。だが、今後は「年間6トンまで生産量を拡大します」とブリューイングデザイナーの新井健司さんは目標を掲げる。
もともと研究開発の理系だが、「SORACHI 1984」を育てるためにマーケティングもブランド発信も手がける新井健司さん。2023年から「SORACHI 1984」のファンとおいしく飲める飲食店を結ぶ仕組み「SORACHI BASE」をスタート。