おいしいビールを飲んでいるみなさん。そのビールに入っているホップの種類をご存じだろうか。クラフトビール人気の高まりとともに存在感を増しているホップ。その多くは外国産であるが、ゆえに国産は貴重であり注目に値する。ホップの名産地では生産量の増加や品種開発に向けて新たな取り組みが始まっている。
小さな緑色の房のように見えるのがホップの花。「毬花」(まりばな)と呼ばれる。この中の成分ルプリンがビールをビールたらしめる。収穫は7月〜9月にかけて。
ビールの魂ホップが全量輸入になったらどうする?
食糧自給率38%(カロリーベース)の日本において、ホップの自給率はさらにはるかに低い。自給率の統計を取っている農林水産省には平成19年(2007年)を最後にホップの記録はなく、その時点で10%を切っている。
そのデータによると、2007年の国産ホップ収量は約400トン強だった。その後も減少が続いて、ビールメーカーの契約栽農家のホップ収量は166トン(2022年)。自給率が5%未満であることはほぼ確実だ。
ビールの主原料は麦芽、ホップ、酵母、水の4つ。ホップはどういう役目をしているかというと、苦みづけ、香りづけ、泡持ちをよくする作用、殺菌作用など多岐にわたり、ホップの種類ひとつでビールの特徴が変わる。〝ビールの魂〟と呼ばれる由縁である。何より、採れたてのホップで造ったビールの味は格別。「フレッシュホップ」と呼ばれるビールのファンは多い。
ホップの産地というと、ドイツやチェコやアメリカなどが有名だが、実は日本でも100年以上前から栽培されてきた。戦後の高度成長期、ビールの需要拡大とともにホップ生産も拡大し、1960年代には3000トン以上を生産。国内需要の多くを占めていたのだが、1970年代以降は輸入ホップに押され、減少の一途をたどった。このまま国産ホップが減りつづけたら? ビール好きにとっては心配なことである。
クラフトビールブルワリーが自前のホップも作りはじめた
日本産ホップの多くは、大手ビールメーカーの契約栽培農家によって生産されている。主な生産地は東北(岩手や山形)、北海道、長野県などだ。このうち岩手県が5割近いシェアを占める。ただ、その契約栽培農家のホップ畑の面積が、全国で約100ヘクタールに過ぎないという。収量は前述の通り、166トン(2022年)である。
しかしクラフトビールファンが広まる今、小規模なブルワリーのホップへのまなざしは熱い。
たとえば福島県阿武隈高原に近いブルワリー、ホップジャパンはブルワリーの名前が表すように、もともとホップ栽培から事業を始めたブルワリーだ。現在、約1ヘクタールの畑でホップを栽培、オール自前ホップのビールも造っている。
福島県田村市のブルワリー、ホップジャパンの近くで栽培中。提供/ホップジャパン
京都府西北部の与謝野町では2015年からホップ生産を始め、現在、約1.5ヘクタールで約1000キロを収穫している。
京都府与謝野町では「与謝野ホップ」をブランド化。栽培や収穫などの作業を手伝うボランティア「YOSANO・ホップレンジャー」を毎年募集しファンを広げている。提供/京都与謝野ホップ生産者組合
山梨県北杜市で2ヘクタールの畑を有する北杜ホップスのホップは「売り切れ」が続出する。クラフトビール以外にパン屋からの注文もあり、ホップの使用分野も広がっている。
もっと小規模のホップ生産者は、全国に数え切れないほど出現している。オリジナリティを求めてホップ栽培を手がけるブルワリーは少なくない。醸造家たちの地元の産物を使いたい、採れたてホップを使いたいというニーズが着々と増えていることを物語る。