アートを通じてサステナブルな社会を目指す美術家・長坂真護。ガーナのスラム街に捨てられた世界中の電子機器の廃材を使ってアート作品を生み出す彼の展覧会が日本橋三越本店で開催される。
「 長坂真護展 Still A BLACK STAR – truth of capital ‒」
日程: 2023年8月23日(水)〜8月28日(月) 午前10時〜午後7時(最終〜午後6時終了)
場所: 日本橋三越本店本館7階催物会場
※写真は22日まで開催されていたプレ展示
今回の個展では約250点を展示・販売するというが、そのうち200点が新作だという。こうした新作ラッシュは今に始まったことではなく、実際、彼は2021年は約600点、2022年には1000点というハイペースでアートを制作。なぜそこまで数をつくる必要があるかというと「2030年までに、ガーナ人1万名の雇用を通じ、〝世界最悪のスラム街〟を〝公害ゼロのサステナブルタウン〟へ」という挑戦をしているからだ。
SDGsが叫ばれる今、彼のアートと取り組みに共感する人は多い。実際、2021年秋に伊勢丹新宿店で開催された個展では同店の美術催事売上最高額を更新。自身のアート作品の年間総売上額は8億円を突破しており、その多くをガーナに還元しているのだ。今回も記録更新となるか注目したいところだ。
長坂真護が創出したガーナの雇用
成果は、徐々に出始めている。
●リサイクル工場……スラム街・アグボグブロシーの電子廃棄物を回収し、MAGOブロックの原料であるプラスチックチップをリサイクル工場で生産。
●EV事業……EVバイク、キックボードなどの研究、開発、デザインを現地で行い、先進技術をスラムに投資。2023年、第1弾として、ガーナ人のデザイナー・Godwinがデザインした新型電動キックボード『EQCO(イコー)』の発売を開始。
●農業事業……コーヒーの苗500本、モリンガの苗1000本、プランテーン500本、オリーブの苗10本をアクラ近郊の3エーカーの農園で育成中。
来年には約1.4億円をガーナに投資する予定だという長坂さん。ますますガーナのサステナブルタウン化が進みそうだ。
約250点の作品を展示・販売!!
これらの源となっているのが、彼のアート。今回展示される作品の一部を紹介しよう。
●ガーナ……経済誌で目にしたごみの山にぽつんとたたずむ子供の写真を見たのをきっかけにつくることになったシリーズ。世界には日を含む先進国が捨てた「電子機器の墓場」が存在していた。ガーナのスラム街の電気機器廃棄物の山を見て抱いた「アートの力でこの不条理な現実を変えたい」という強い想いを作品へと昇華した。
●月……2015年に起きたパリ同時多発テロ。テロ以前に⼀時パリに住んでいた長坂真護は既知のその現場を事件後訪れた。世界中のどこでも誰でもみることができ、心に平安がもたらされる〝月〟をモチーフに、その月に舞う蝶に平和を願う自身の姿を重ねている。地元・ 福井県の越前和紙を使用。
●新世界……2020年以降、未知のウイルスにより突如我々の生活は一変した。古い概念を捨て、新たな思想を築くことを迫られている今。長坂真護が絵で表現するニューノーマルという新しい概念思想。彼の見つめる先の未来がここにある。
●小豆島(SHODOSHIMA)……2021年7月、ガーナのスラム街「アグボグブロシー」が消滅したと知る。焼き場の失業者に新しい仕事を提供するため、オリーブ農園の勉強に訪れた小豆島にも、沢山のマイクロプラスチックやシーグラスの破片があった。長坂真護の目に映る、小豆島に住む妖精や生き物を、これらの投棄物を使いアートで表現。
価格を見ると驚くかもしれない……が、彼が目指す「サステナブル・キャピタリズム(=経済・⽂化・環境の3軸が好循環する持続可能な資本主義)」につながっていると思えば納得がいく。が、一部の富裕層だけが、この好循環に参加できるわけではない。中には、数十万円で購入できる作品もあるので、これを機に、この輪に入ってみるのもいいかもしれないーー。
長坂真護のアートと取り組みを知ることができる一冊
『NAGASAKA MAGO ALL SELECTION ―長坂真護作品集―』
著/長坂真護(小学館)
2200円
取材・文/寺田剛治