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アサヒバイオサイクル社長・千林紀子さんに聞く今後求められる「ジャングルジム型キャリア」とは?

2023.08.21

1985年の男女雇用機会均等法制定以後に入社した人の比率が多くなり、主に女性の業務範囲を規定して採用する「総合職」「一般職」という区別も徐々にですが過去のものになってきました。一方で、2023年6月に岸田首相が「女性活躍・男女共同参画の重要方針」のひとつとして、「2030年までに女性役員の比率を3割以上に高める」とわざわざ示さなくてはならないほど、先進国のなかでも企業内における役職に就いている男女比の格差が大きいのが現状です。

個々人の価値観の変化、意識の持ち方など、個人の努力でできることもありますが、大きな変化を起こせるのは組織としての制度であることも否めません。そこで、社長に就いている女性という「見えない天井を突き破った」方がかつてと異なる視点に立ったとき、見えてくる気付きがあるのではないでしょうか。

今回は新卒でアサヒビールに入社し、グループ内異動などを経て2017年よりアサヒカルピスウェルネス(現・アサヒバイオサイクル)代表取締役社長として活躍されている千林紀子さんにお話を伺いました。

数字のマジックで実情はさらに悪い? 日本の女性活躍の現在地

アサヒバイオサイクル 代表取締役社長 千林紀子さん

千林さんが社長を務めるアサヒバイオサイクルは、アサヒグループのなかで主に微生物を扱うビジネスを行っています。ビール酵母や乳酸菌など有用微生物の活用を通して、人間や動物、環境にまたがる“ワンヘルス”を実現することがビジネスの根幹。売り上げとしては薬剤代替や減薬につながる有用微生物由来の製品がメインで、安心・安全の農作物や畜産品などの生産に寄与しています。特にオーガニック食品などへの感度の高い欧米でのシェアが高く、売上の約8割は海外で、全社員のうち約35%が外国籍の人と国際的な企業です。

―政府から様々な数字や政策が発表されていますが、経営者の目から見て「女性活躍・男女参画」の実情についてどう思われていますか?

「この10年程で『上場企業の女性の役員が5.8倍になりました』という政府発表がありましたが、結局は一桁です。また、その役員が増えたという上場企業の実情は、社外取締役で女性を登用しているということが大きいのです。それはそれで第一歩としては素晴らしいことですが、裏返して言えば内部で役員登用まで至る素地がないというのが一つ大きい課題としてずっと感じていることです。

相変わらず日本の女性活躍が進まない要因には、長い間社会に浸透して来た「性別役割」の固定概念などによって、べースが育っていないことがまずあります。また、社会でDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)などと言っていることに対して、当事者の女性達にさえ嫌気が出ている風潮が少し感じられますね。一時みんなで『ダイバーシティ』『女性活躍』と繰り返し言っている中で、反動的に男性の方も『逆差別だ』と感じたり、日本のジェンダーギャップを埋める動きに対する揺り戻しみたいなものも見受けられます」(千林さん)

ドメスティック企業でも女性が昇格できたのは「トップの意志」が大きい

―女性社長は、やっぱり自分のお城を建てて社長になられた方が多いですよね。まずは特に女性向けの分野。新入社員から、世間でいう「叩き上げ」で現在の職務につかれていますが、世の中の風潮や価値観の変化の過渡期であったと思います。

「私が社長になった時には、トップの意志というのがすごくあって助かったのだと思っています。引き上げてキャリアを支援してくださる人が当社にはいました。そこはとてもありがたかったと思いますね。その叩き上げの(女性)社長が少ないというのは、私も実際になってみると外部から珍しいとすごく言われるんですよ。特に『THE・日本』みたいな企業でずっと来ていたアサヒグループなので。そういう意味でアサヒもグローバル化して徐々に変わってきたというところも、当然背景にはあります。女性自身もより積極的に取り組んでいるのもあると思いますが、そういう時代の流れからの応援をもらえたというところが一つありますよね。

帝国データバンク社が「女性社長比率」を発表されていますが、女性の社長比率は8%くらいになっているというものの、その9割弱は御家族の事業を承継された方、もしくは、ご自身で起業された方です。一方で、いわゆる内部昇格の比率を全体で見てみると、約0.6%ぐらい。男性ですと内部昇格はその17倍以上はいるという話なので、やはり大分違いますね。近年、外部招聘人財も多くなっているがゆえの、内部昇格の難しさという面もあります。弊社でも次から次に女性社長や役員が内部昇格で出ているかと言うと、そうではないですね。ただ、そういう素地はアサヒにはあったかのかなと思います。」

ジャングルジム型キャリアで自分の強みを主軸ともう1つ「倒れないキャリア」を持つ

―会社の中で上に昇っていく上で、こういうことが求められていると気づいたことはありますか?

「変化がすごく激しい時代の中で、外部環境の変化に強く、そういう中で生き抜いていける。そういう人間がやはり求められているのではないかと。従来型の日本の終身雇用制、年功序列みたいな中で、一本の道を争っていくようなやり方になってしまうと、ちょっと何か失敗した時にすごく変化対応力が弱くなってしまう。これをまっすぐ上に昇る梯子型キャリアとすると、対して複数の強みを柱に持ち、出産や育児など、ライフステージの変化に対してもしなやかに横に動いていけるジャングルジム型キャリアを築く方が柔軟に対応できると思います。

これは女性に限ったことではなく、男性も介護とか病気になるなど突然の変化があるのは同じだと思います。そういう中で強みとしての柱が一本だけではなく、複数あると他の業界にも行けたり、出向会社の中で色々渡り歩けるなど、常に外部環境の変化にしなやかに動いていける。そういうことで目指すキャリアのゴールも多様性があっていい。梯子型だと1つのゴールを目指せるのは一人とか二人だけになってしまう。ジャングルジム型が今求められているキャリアの姿だと思っています。

―そういったキャリア形成に気づけたきっかけはありますか?

「グループ内での出向が続いていた30代後半ごろですね。当時は同じ会社の中でずっと一本の梯子を上がっていくようなキャリアがまだまだ主流でした。その時に『倒れないキャリアを作るべき』と直属ではない上の方からアドバイスされました。『いやいや、これからは連峰型のキャリアっていうのがあるよ』と。富士山を登るのもいいけれども、山の連なりを横へ縦断していくような、そんなようなキャリア作りというのは、これからの時代には合っているのではないかと。そうすると何か変化があった時に横に移ることもできるし、たくましく生きていけるのではないか。また、女性だから尚更考えたほうがいいと強く言われました。日本の社会では性別の役割という認識がどうしても慣習的に強くあるので、おそらくそんなに楽なキャリアにはならないよと言われてきました。それがすごく心に残っていますね。」

筆者が取材で最初に働き方の中での「ダイバーシティ」という言葉に触れたのは、2008年。当時は女性の社会進出に関するジェンダーギャップを指して使われる言葉で、外資系企業からの流れでした。2023年現在、その言葉はLGBTQと人種や性差以外も含む言葉になっています。企業も労働者側も双方がより良い働き方を見つけるために、常にアップデートしながらしなやかに考えていくことが必要ではないでしょうか。

■千林 紀子(ちばやし のりこ)さんプロフィール
神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、アサヒビール入社。スーパードライブランドマネージャー、飲料、食品事業会社のマーケティング部長を歴任。アサヒグループホールディングスにてM&A業務を経て、カルピスに出向。2017年アサヒカルピスウェルネス(現・アサヒバイオサイクル)代表取締役社長就任。アサヒグループのバイオ技術で、世界の農業・畜産・環境分野の課題解決に挑むビジネスを手掛けている。

取材・文/北本祐子

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