政府による電気代の厳しいチェックが行われる
ウクライナ情勢の行先が見えない中、電力会社がいつまでも赤字で事業を継続するわけにはいきません。東京電力は儲かっているというイメージを持つ人もいますが、2023年3月末時点で自己資本比率は22.8%であり、目安とされる30%を大幅に下回っています。決して過剰に儲けている会社ではありません。
そこで、規制料金の値上げを申請しました。
値上げを行った後の2023年4-6月の東京電力の純利益は1,362億円。電気代の値上げが、1,478億円の利益押し上げ要因となりました。ここで出た利益は、2023年3月期に出した純損失とほぼ同等の規模です。東京電力が負担して生じた損失が、相殺されたとも言えるでしょう。
東京電力は15.90%の値上げを行いましたが、これは会社が勝手に金額を決めているわけではありません。電力・ガス取引監視等委員会が審査を行い、経済産業大臣の認可を受ける必要があります。
東京電力はもともと29.31%の値上げで申請をしていました。しかし、足元の市況価格を反映して原価の再算定を行うよう経済産業大臣が要請。最終的に15.90%で受理されました。
※決算説明資料より
つまり、電力会社は自己判断で料金を引き上げ、暴利をむさぼるようなことはできない仕組みになっているのです。
エネルギー価格の高騰を受けて、政府は国民の負担軽減策として「電気・ガス価格激変緩和対策事業」を導入。電気や都市ガスの使用量に応じて料金の値引きを行う支援策を実施しました。これにより、東京の一般的な家庭における値上げ実施後の電気料金は、2022年11月と比較して20%近く下がったことがわかっています。
ここまでの流れを見ると、電気料金の値上げで国民は負担を強いられ、その代わりに電力会社が大儲けした、という話は2つの視点で間違いを犯していることになります。
1つは、電力会社はエネルギー高の影響を価格転嫁できず、一時的に負担を強いられていたこと。値上げ後の利益はそれを相殺したに過ぎません。もう1つは、北陸ではわずかな値上げになっているものの、政府の補助によってほとんどのエリアで電気代は実質的に下がっていることです。
更に2023年9月の東京電力の電気料金は、天然ガス価格の下落に伴って値下がりすることが明らかになっています。
東京電力は電力の77%を火力発電に頼っており、天然ガスが56%、石炭が21%を占めています。その一方で、関西電力の火力発電は45%ほど。これは原子力発電が20%を占めていることが要因の一つです。関西電力は2023年3月期に176億円の純利益を出しています。
原子力発電所が稼働できない東京電力は、エネルギー価格の乱高下の影響を受けやすい事業構造をしています。もし、原子力発電所を再稼働することができれば、資源高の影響を和らげることができるかもしれません。
取材・文/不破 聡