『Apple Watch』以来の新ジャンルとなる『Apple Vision Pro』など、久々の大型発表もあったWWDC。発表内容やここ最近の動きから、アップルが次に目指すのはどのような世界なのか、テックカルチャー専門家に持論を展開してもらった。
プライバシー保護のため、ローカルでのAI実装が課題
ずっと噂されていたので、『Apple Vision Pro』(以下Vision Pro)の発表に驚きはなかったですが、アイトラッキングやジェスチャーを使ったインターフェイスには、衝撃を受けました。バッテリーを外付けにしたのは、重さもあると思いますが、期待値コントロールというか、今後いろんな外部デバイスとつながる、伏線だと思っています。
アップルはずっと、よりパーソナルなコンピューティングデバイスを作ることを目指してきました。短期的には『Vision Pro』が『iPhone』に置き換わることはないですが、もっと先の未来はわかりません。パフォーマンスを落とすことなく小型、軽量化できれば、3Dカメラで見たままの風景が残せて、パススルーでリアルとバーチャルを行き来できるデバイスを身に着けて、外を歩くような世界観もあるのではないかと思います。
生成AIについて、アップルはほかのIT企業ほど積極的には見えないですが、昨年末には「Stable Diffusion」対応のOSアップデートを行なうなど、オープンソースのソフトウェアにも、投資を始めているように見えます。ただしアップルの場合は、プライバシー保護のため、AIもクラウドではなくローカルで処理することが課題になる。オンデバイスでどこまでできるかを、じっくり見極めているのだと思います。
そのAIの活用先として、音声アシスタントの「Siri」もありますが、注目しているのはヘルスケアです。アップルは『Apple Watch』などを通じて、パッシブにヘルスケアデータを収集しています。『Vision Pro』では周辺環境など、より多くのデータを収集できる可能性がある。プライバシー保護のためにそれが外に出ることはありませんが、ではこのデータをどう活用していくのか。例えばAIが日々のヘルスケアデータをもとに、個人に合わせた適切な医療情報をフィードバックできるようになれば、本当にパーソナルなデバイスになりますよね。ティム・クック氏は以前インタビューで、「将来、過去を振り返って『アップルが人間に最も貢献したことは何か?』という問いの答えは、『ヘルスケア』かもしれない」という発言もしています。
ほかにも決済など、アップルは引き続きサービス領域でビジネスを広げていくと思います。一方で最近は、衛星通信にも大きな投資をしている。アップルのエコシステムをプッシュするためには、デバイスがしっかりつながることが、重要だということでしょう。
大幅アップデートの噂もある「Siri」。大規模言語モデルの活用は「ローカルでどこまでできるか次第」と宮武さん。
次期OS「iPadOS 17」で「ヘルスケア」アプリが『iPad』でも利用可能に。様々な情報をまとめてチェックできる。
『iPhone 14』では、北米で衛星経由の緊急SOSが可能に。このインフラ開発に4億5000万ドルを投資している。
Off Topic 運営
宮武徹郎さん
事業会社の投資部門で北米スタートアップ投資に従事。Off Topic株式会社を立ち上げ、最新テックニュースやスタートアップ、ビジネス、カルチャーを解説するポッドキャスト番組「Off Topic」を運営。
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