ヘヴィメタルと聞いてどんなイメージを思い浮かべるだろうか?地の底から響くような重厚なサウンドと激しいシャウト、そして一見近寄り難い世界観…
そんなイメージを抱く人が多いかもしれないが、脳科学者の中野信子さんはヘヴィメタルの特徴について『天才が好み、天才を育む音楽』と、著書「メタル脳 天才は残酷な音楽を好む」で綴っている。
ヘヴィメタルには認知機能や知的好奇心、ストレス耐性の向上など、知育に欠かせない数々の効果が認められるのだとか。
天才が好むと言われるヘヴィメタルを、まさに天才的な発想で農業に取り込んでいるのが、『メタル小松菜』で一躍話題になった農業生産法人・ベジフルファームだ。
取締役の長山衛さん自ら作詞作曲したヘヴィメタル社歌「小松菜伐採」を小型スピーカーで流しながら、小松菜畑を周り、日々ヘヴィメタルを聴かせている。
ちなみに小松菜が聴いているのがこちらの曲だ。
このヘヴィな行動が話題になったのは今から2年前。小松菜にヘヴィメタルを聴かせることで「鉄分」を増やそうとしたそうだが「驚くほど効果がなかった」と自ら語っている。
だが、今なお聴かせているらしい。なぜ長山さんは無意味な育成を続けているのか?
「メタル小松菜は決してふざけているわけじゃなく、農業の現状に対する打開策の一つなんです」(長山さん)
彼は、農業の新たな未来を見据え、懸命に汗を流していた。小松菜にメタルを聴かせるのもすべては日本の農業のため。今回、メタル界の農業革命児にその想いを聞いた。
小松菜に浴びせるメタルは農業界の課題を謳う「業界歌」
–メタル小松菜が話題になってから2年。変わらずメタル効果はないのでしょうか?
「まず、本題の前にお伝えしておきたいのですがメタルを聴かせてはいません。“浴びせています”」
–失礼いたしました。
「いえいえ、とんでもないです笑。ご質問のメタル効果についてですが、2年経った今、びっくりするくらい何も変わっていないですね。少なくともメタルを浴びせていない小松菜(ノンメタル小松菜)と味を比べても違いが分かる作業員は一人もいません」
「おそらく今後、小松菜が特殊な進化を遂げない限り、メタル効果は無いと言えるでしょう。逆説的に数千万年も浴びせておけば、何かしらの効果はあるかもしれません」
–なぜ、今も続けているのでしょうか?
「正直、生産効率上、何一つメリットはなく、愚行と言っても過言ではないでしょう。しかし、こういった生産の取り組みが注目されて千葉市認定の特産品に選ばれたり、加えて色んな企業とのコラボを行った以上、辞めたくても辞められないのです」
–なるほど。乗りかかった船ということですか。
「ですね。気を抜くと辞めてしまいそうなので、解釈としては『小松菜にメタルを浴びせても何も変わらないという事を知ることに成功した』というところでしょうか。強引にも程があるポジティブ思考を常在戦場の如く意識しています。ですので「メタル小松菜」と言ってますが、要するに『メタルを浴びせても何一つ変わらない小松菜」の略ですね」
そもそも、小松菜にメタルを浴びせるようになったきっかけは、パンを美味しくするためにクラシック音楽を聴かせていることを紹介していたテレビ番組。『ならば、小松菜にメタルを浴びせたら鉄分が増えたりしないだろうか?』という珠玉の発想へたどり着いた。
そこで作られたメタル楽曲が先に紹介した「小松菜伐採」だ。元々、長山さんは『オリンポス16闘神』というメタルバンドでも活躍するギタリスト。愛する小松菜に自作曲を届けようと制作したという。
実はこの曲、長山さんの会社の社歌でもある。その発想もぶっ飛んでいる。なぜ社歌をメタル曲にしてしまったのか?以前、弊誌の社歌特集でも取り上げたのだが、改めてその真意を聞く。
「私共は社歌も時代に合わせるべきだと考えています。一般的には共通意識を芽生えさせるものかもしれませんが、個を尊重する時代に時代錯誤も甚だしいと思ったんです。そのうえ無理やり歌わされたらたまったものではない。「社歌はパワハラ」という声も良く聞きます」
「だったら『歌えない社歌を作ったほうが世のためだ』というコンセプトで制作しました。歌いたくもない歌を歌うより、聴きたくもない曲を聴く方がマシ。ジャイアンのリサイタルだと思ってもらえればこれ幸い」
「同時に従来の愛社精神を押し付けるような歌詞にはせず、むしろ農業界の課題、実状を赤裸々に伝える「業界歌」という位置付けで制作しました。過酷な現場を表現するにはメタルサウンドとの相性が良いという点もありましたが、実際のところは僕の楽曲能力としてメタルジャンル以外の引き出しが無いという事は言うまでもありません」