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株式会社ポケモンの宇都宮COOが語る「世界をつなげるポケモンの魅力」

2023.09.07

株式会社ポケモンが目指すのは、「〝生き物〟としてのポケモンと、私たちがともに過ごせる世界」だという。その実現の背景には、様々な業界のポケモンファンたちを巻き込んだ取り組みがあった(取材・執筆は2023年6月末時点のものです)。

宇都宮崇人さん株式会社ポケモン 代表取締役、最高執行責任者
宇都宮崇人さん
2005年、株式会社ポケモン入社。小売店舗、カードゲーム、ライセンス、ビデオゲーム開発など、各種事業を担当。『ポケモン GO』の立上げ、事業責任者を経て2017年より最高執行責任者(COO)。

株式会社ポケモンの使命はポケモンの「最大化」

 株式会社ポケモンはその名のとおりポケモンのためだけに存在しています。そもそもポケモンが生まれた時には弊社は存在していませんでした。ポケモンが先にあり、後から弊社ができたのです。普通であれば、会社があり商品が生まれる。でも私たちはポケモンが目的であり、手段として会社が存在する。ポケモンの現著作権者であるゲームフリーク、クリーチャーズ、任天堂から権利をお預かりしてポケモンの「最大化」を目指すのが目的です。私たちはポケモンの価値を長期的に高めていくことができれば存在が許され、できなければ存在しないほうがいい。ポケモンのために何ができるのかを宿命づけられている組織ともいえます。

 担っている役割はポケモンに関するすべてです。ゲームフリークはポケモン世界の大本を作っているゲームの開発を、クリーチャーズはポケモンカードゲーム等の開発を、任天堂はポケモンのゲーム本編を発売するプラットフォームを開発・販売しています。私たちは彼らのやりたいこと、戦略をマッチさせながら全体を最大化していくようにプロデュースすることが仕事です。ポケモンを「最大化」するとは、簡単にいうとファンを増やしていくということだと考えています。私たちがやらなければならないことは、ポケモンを永続させるという時間的な拡大と、より多くの人にポケモンを好きになってもらうという面積的な拡張。この〝縦〟と〝横〟の広がりを大きくしていくことがポケモンを最大化することだと思っています。

 ポケモンを通して社会で大きな役割を担いたいというふうにはあまり考えていなかったのですが、永続していくものは社会と良い関係を築いている。『ポケモン GO』のプロジェクトを進めている中でそれを痛感しました。ポケモンの最大化において、社会に貢献できる存在であることは必要な条件かもしれません。『Pokémon Sleep』は睡眠をエンターテインメント化するという新たな可能性に挑戦をしています。このプロジェクトも社会貢献や社会福祉の観点から始まった企画ではありませんが、ポケモンと睡眠をかけ合わせることで、人々の生活に寄り添い、みなさんの健康に貢献できるようなものになることを願っています。

ピカチュウ

ポケモンで育った世代がポケモンの世界を広げてくれる

 私たちはポケモンをキャラクターやIPではなく「生き物」だと思っています。キャラクターコンテンツとして広げていくのではなく、生き物としての生態、生き物としての魅力を浸透させていきたいと思っています。昨年発売された『Pokémon LEGENDS アルセウス』や『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』では野生のポケモンたちが様々な生態を見せてくれます。例えばタマザラシは「転がって移動する」とポケモン図鑑のテキストに書かれているのですが、残念ながら今までのゲームでその表現はできなかった。それが最新の技術であれば本当に転がって移動していて、より生き物としての魅力が伝えることができるようになった。ポケモンを生き物として考えているという話はゲーム内での表現に限った話ではありません。香川県ではヤドンが地域活性化の取り組みに協力をしています。「ヤドン」と「うどん」の響きが似ているからというのもありますが、それだけではない。香川県の職員の方がおっしゃっていたんです。「ヤドンはあくびをすると雨が降るという生態がある。香川県はかつて水不足が多く、ダムの貯水率が報じられることもあった。だからヤドンは私たちに向いているんだ」と。私はこれを聞いた時に、ヤドンの生き物としての魅力が深まっていくと感じました。地元の人たちにとってヤドンがもっと身近になって、ともに生きていると感じられるようになるだろう、と。

 こうした考え方は私たちの戦略というよりは、もともとポケモンが持っていたものなんです。ポケモン図鑑のテキストにも書いてありますからね。皆様の中にも、子供の頃に「裏山に行けばポケモンに出会えるんじゃないか」と思った方はいるのではないでしょうか。時代の進歩とともに、ポケモンがもともと持っていた魅力を、いろいろな形で表現できるようになってきたんです。

 同時に、ポケモンに関わる人たちとも、この認識を共有できるようになったことがうれしい。今、ポケモンは30周年を迎えようとしています。子供の頃、ポケモンで遊んだ世代が30~40代となり、組織で意思決定できる立場になってきました。彼らは私たち以上にポケモンに対する理解、熱量を持っていることがある。その結果、私たちが考えてもいなかったプロジェクトがたくさんの人の力で実現し、ポケモンの世界が広がっていく。今年行なわれた「ポケモン×工芸展」でも、ポケモンで育った若手世代が、その熱量で人間国宝級の作家たちも唸らせるような作品を生み、あれだけのものが出来上がった。今まさにそのようなフェーズが訪れていると実感しています。

 1000匹以上いるポケモン一匹一匹をもっと好きになってもらいたい。世界中でポケモン好きが増えれば、「ポケモン」を通して世界をつなげることができると私たちは信じています。これが、私たちが創りたい世界です。

「ポケモンの魅力が、世界をつなげられると信じています」

宇都宮さん

宇都宮さんの好きなポケモンは「コイキング」。「コイキングは最弱です。でも、どこかユーモラスでみんなに愛されていますし、弱いものへの優しい目線が感じられる気がします」

※取材・執筆は2023年6月末時点のものです

取材・文/峯 亮佑

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