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東映が挑むグローバルを見据えたシン・キャラクター戦略

2023.08.09

日本を代表する映画会社である東映株式会社が、同社の「主力ビジネスの1つであるキャラクタービジネスをより強化し、収益の最大化を目指す」ことを目指して7月1日付で「キャラクター戦略部」という部署を新設した。

これは、今年2月に東映が発表した中長期ビジョン「TOEI NEW WAVE 2033」で示した重点施策「映像事業収益の最大化」「IPライフサイクルの長期化」「グローバル展開へのチャレンジ」を推進するため、キャラクタービジネスを戦略的かつ統合的に展開していくことを目的としたものだ。

『仮面ライダー』シリーズや『スーパー戦隊』シリーズをはじめとする東映が誇る数々のキャラクターがこの「キャラクター戦略部」の設立によってどういった展開がされていくのか、後編ではグローバル戦略とキャラクタービジネスの未来に関して、引き続き同社の上席執行役員であり、キャラクター戦略部の部長を務めることとなった白倉伸一郎氏に話を聞いた。

前編はこちら

白倉伸一郎氏
1965年、東京都生まれ。90年、東映に入社。翌年『鳥人戦隊ジェットマン』よりプロデューサー補として参加。92年の『真・仮面ライダー 序章』以降、『平成仮面ライダー』シリーズを手がけ、成功に導く。2022年6月より上席執行役員テレビ営業部ヘッドプロデューサー兼テレビ営業部長を務める。近年ではアマゾンプライムオリジナル『仮面ライダーBLACK SUN』に続き、『シン・仮面ライダー』にもエグゼクティブプロデューサーとして携わった。

グローバル化を目指す上でも重視すべきは「オリジナリティ」

すでに『仮面ライダーアマゾンズ』『仮面ライダーBLACK SUN』、さらには庵野秀明監督の『シン・仮面ライダー』をはじめ、配信ではグローバル企業とタッグを組んでいる東映だが、今後もそういった展開はやはり視野に入れているのだろうか。

白倉:『シン・仮面ライダー』はアメリカも含めて海外各国で劇場公開されていますし、7月21日からはAmazon Prime Video の対象エリアは世界で配信になっているんですよ。ただ、こういった動きは本格的に世界に向けて打って出るというよりは、まだ観測気球の段階だと思っているんですよね。どこにどういう問題があるのか、あるいは思いもよらないような反響がどういう風に現れるのかっていうことも見ようとしています。

出典:「TOEI NEW WAVE 2033」

中国ではこうだとか、アメリカではこうだとかっていう知見は溜まってきてはいるんですけど、本当のところはわからない。その「本当のところ」をクリアするのが我々の役目かというと、それもまたちょっと違う気がするんですよね。海外での日本のアニメの受け入れられ方がそうであるように、受け手の国々ごとにいろいろ違いがあったとしても、「これは日本の作品だしオリジナリティがすごいから価値があるよね」って思われたら勝ちだなと思っています。そうすると、どうしてもその国では受け入れられないっていうところだけ微調整すれば済みますし。

『パワーレンジャー』がアメリカで当たった、というか始まったのが1993年で、ちょうど30年なんですよね。アメリカの人たちが日本のものだと思って受け入れたというわけでもないんですけど、受け入れられてもう30年も経つ。だから、当たり前のような気がするけれど、じゃあたとえば我々がどこか他国のヒーロー番組を買い付けてきて、日本人で撮り直して商売していこうという発想にはなかなかならないじゃないですか。それはやっぱり画期的なことだったと思うんですよ。当時、戦隊に目をつけたハイム・サバンという人がいかに慧眼だったかというか、いかにそのオリジナリティを認めていたかっていうことですよね。グローバル化を目指すということで『パワーレンジャー』の初心に戻るのであれば、相手のローカルに寄っていくよりも、本当に世界的に見てもオリジナリティが高いものをまず作っていく、それが一番なんだろうなっていうことを、改めて考えなきゃいけないな、と。

具体的なものを早いことやりたいんですよね。そうするとわかりやすいですし。先ほどは10年後を目指してなんて悠長なことを言いましたけど、1年以内に「あ、そういうことをやるんだ」という実例を社内外に示していくっていうのが急務だと思っています。早ければもう来月ぐらいには成果が出てくるようにしたいですよね。

『平成仮面ライダー』シリーズのプロデュースで知られる白倉氏だが、『仮面ライダー』シリーズのグローバル展開に関してはどのような戦略を描いているのだろうか。

白倉:仮面ライダーってやっぱりすごく変だと思ってるんです(笑)。バッタですしね。バッタだから日本であれだけヒットしたとも言い切れないと思うんですよ。私なんかドンピシャで初代『仮面ライダー』の世代ですけど、仮面ライダーを通じてバッタが好きになったとかないですからね。逆にちょっと悲鳴を上げて逃げるくらいで。

だから、あの不可思議な仮面ライダーっていうものは、その本当の魅力っていうのがどこにあるのかっていうのを常に追究し続ける必要があるんだろうなと思います。伝統とかブランドとしての知名度とかにあぐらをかいていたら、グローバル展開どころか日本においてもお先真っ暗だと思うので。恒常的に現行シリーズとして回している以上、もっともっと日々真剣さを持って仮面ライダーを見つめ直すべきだと思います。

毎年新作がつくられていくっていうことは、毎年薄まっていくっていうことでもあるんです。かつては唯一絶対の仮面ライダーだったものが、いまや仮面ライダーは何十人、数え方によればもう何百人になるのですけど、そのうちの1人じゃなくて、この人こそがまさに仮面ライダーだっていう魅力とオリジナリティは常に持っていなければいけない。大変なことだと思います。私自身が直接担当してないのをいいことに、担当者には、大変だねっていつも言っています。応援してるよって(笑)。

グローバル展開という意味で言うと、基本的には大人っていうか、もっと言うとマニアと言われるような層を足がかりにして、そこから裾野を広げていくというやり方しかないなという風には思っています。かつて『パワーレンジャー』が全米を席巻したみたいな、突然子どもに大当りするっていうような幸運っていうのは、当時ちょうどアメコミヒーローが端境期でブルーオーシャンだったからできたことですし。

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