カシオ計算機が正念場に立たされています。
コロナ禍で主にG-SHOCKの販売店が集客力を失い、2021年3月期は売上高を前期と比較して2割近く落とします。そこから2期連続の増収となったものの、2024年3月期は売上高を2,650億円と予想。2,600億円台で足踏みしています。3,000億円近かったコロナ前の売上高に遠く及びません。
カシオは主力のG-SHOCKをメタル化し、高付加価値路線で立て直しを急いでいます。
早期退職者の募集で経費削減に奔走
カシオは2019年3月期の売上高が2,982億円でした。営業利益率は10.2%。G-SHOCKの世界的なブームが去って、6,000億円以上あった売上高が半分ほどに縮小していたものの、ブランドの構築に成功して利益率を高め、業績は堅調に推移していました。
2023年3月期の売上高は、2019年3月期の9割にも届いておらず、営業利益率は3.3ポイント低くなっています。
※決算短信より
2024年3月期の売上高は横ばい、営業利益率は0.9ポイント低下する見込みです。
カシオは2023年5月11日に早期退職優遇制度を発表しています。50歳以上の社員を対象に早期退職希望者を募るというもの。これには78名が応募しました。
カシオはこの人員削減策によって12億円の特別損失を計上し、退職金に充当します。1人当たり1,500万円程度の退職金が支払われる計算。カシオは2024年3月期を変革・イノベーション創造期と位置付け、収益基盤を強化する時期に位置付けています。
すなわち、赤字事業の構造改革や早期退職を促すことによって利益が出る体質へと生まれ変わる過渡期としているのです。
国内の売上回復は絶望的か
カシオは時計と楽器などのコンシューマ、システムの3つの事業で構成されています。その中でも時計の売上高は1,500億円を超えており、全体の6割を占めています。時計事業の売上高の半分以上をG-SHOCKが支えています。
エリア別の売上高を見ると、日本以外のアジアの比率が高くなっています。これは主に中国です。
■カシオエリア別売上高
※決算参考資料より
上のグラフで注目したいのが日本の売上高の推移。2021年3月期に売上高は前期比23.9%減の657億円となりました。そこから回復することなく、微減が続いています。
カシオは2022年3月期、2023年3月期ともに売上高が期首予想を下回っています。決算説明においては、中国のゼロコロナ政策に伴う需要低迷を挙げていますが、むしろ日本以外のアジア圏の回復は顕著。日本の販売不振が売上高の伸び悩みの要因の一つになっていることは間違いないでしょう。
デジタル時計はスマートウォッチに市場を奪われている領域。コロナ禍でリモートワークが推進されたことにより、自主的に運動する人は増えたと言われています。体の状態を詳細に確認し、運動量をコントロールできるスマートウォッチに移行する人が増えたとしても不思議ではありません。
MR-GでG-SHOCKのイメージは大きく変わる?
カシオの業績回復のシナリオは、高付加価値商品による収益力強化と、市場開拓の2つに分かれています。
高付加価値商品のカギを握るのが、メタルG-SHOCK。カシオは1983年にG-SHOCKの初号機DW-5000Cを世に送り出しましたが、35周年の節目にそのデザインを踏襲したメタル版のGMW-B5000をリリースしました。これがヒットします。
メタルは、G-SHOCK全体の売上高のおよそ3割を占めるまでになりました。
メタルケースのG-SHOCKは1996年に市場投入されており、一部のユーザーから支持を得ました。しかし、金属製のG-SHOCKは衝撃に弱く、持ち味の耐久性が失われるとうデメリットがありました。
カシオは金属のベゼルが沈み込んで衝撃を吸収する機構を開発。樹脂製の耐衝撃力をメタルG-SHOCKでも再現しました。
角型デザインを引き継ぎ、チタン合金などの高級素材を使ったMRG-B5000Bは46万2,000円。高級時計と変わらない付加価値の高い商品を開発しました。最上級ラインのMR-Gには90万円を超える時計もあります。
G-SHOCKはカジュアルで若者が身に着けるもの。あるいは、登山やキャンプ、サーフィン、ダイビングなど、タフな使い方をするものというイメージがありました。
カシオはその路線は堅持しつつも、新たなブランドイメージを構築しようとしています。トヨタ自動車のレクサスのように、MR-Gが高級ブランドとして広く消費者の認知を獲得できれば、カシオの収益構造は大きく変わるでしょう。
徹底したローカライズで計算機をヒット
カシオが販路開拓で狙っているエリアがインド。2023年3月期のインド・アセアンの売上構成比率は14%ですが、これを2026年3月期に18%まで高める計画を立てています。
カシオはかつて、計算機でインドの市場を席捲したことがあります。インドは桁表示が他の国と異なり、最初は3桁区切り、そこからは2桁区切りという特殊な文化があります。
カシオはその様式を計算機に取り入れました。これがヒットします。
ローカライズの極みとも言えるエピソードで、きめ細やかな仕事をする日本らしさがよく出ています。主力のG-SHOCKは、インド市場でどのような販売戦略を取るのか。注目すべきタイミングが訪れました。
取材・文/不破 聡