国家公務員の人事を管理する「人事院」の発表によると、2023年度春の国家公務員総合職試験の申込者数は過去2番目に少ない14,372人で、昨年の申込者数15,330人からも大幅に割る結果となった。
大学別の合格数では、東京大学を卒業した学生の合格数は過去最も少ない193人で、この10年間で半分以下となった。国家公務員総合職、いわゆる「キャリア官僚」は国の中枢を担う、かつては東大生の就職先の代名詞とも言われていたが、長時間労働や国会対応といった「働き方」に関する部分で、東大生に限らず就職先として学生から忌避される傾向があるようだ。
そんな中、転職・就職のための情報プラットフォーム「OpenWork」を運営するオープンワークはこのほど、「国家公務員の働き方10年レポート」を発表した。
今回の調査レポートでは、「働き方改革」を推進する立場である国家公務員の働き方に着目。前半では、OpenWorkに蓄積された「官公庁業界」のデータを、10年前の2014年と2023年現在とで比較することで働き方の変化を確認していく。後半では、1府11省のOpenWork上の各スコアをもとに、国家公務員が投稿した社員クチコミを分析することで「官僚が士気旺盛に就業できる環境」の実現につながる要素を探る。
官公庁業界と日本全体の平均スコア比較
国家公務員の働き方を探るべく、まずはOpenWork上での「官公庁業界」のスコア特徴を探る。下記の表は2023年に投稿されたデータ(2023年1〜7月累計)を集計した、官公庁業界と日本全体(全業界)の平均スコア比較だ。(※OpenWork上での「官公庁業界」は中央省庁並びに地方自治体も含む)
日本全体と比べ、官公庁業界は「法令順守意識」が高いものの、「20代成長環境」「社員の士気」「人材の長期育成」「人事評価の適正感」のスコアは低い傾向にある。
これらの4項目に関して、経年での変化を探るべく2023年の10年前である2014年時点での各評価項目スコア平均を比較する。
官公庁業界で特に低い4項目(「20代成長環境」「社員の士気」「人材の長期育成」「人事評価の適正感」)に関しては、10年前から大きく悪化したことがわかった。また、「風通しの良さ」に関しても悪化していることがうかがえる。日本全体で大きく悪化したのは-0.44となった「20代成長環境」のみという結果を鑑みると、官公庁のこれらのスコアの悪化は業界ならではの特徴であるということが考えられる。
残業時間と有休消化率に関しては、働き方改革に牽引された結果か、日本全体/官公庁業界で比較しても両者にはあまり差がない結果となった。これらの「働きやすさ」に関する指標は官公庁業界に限らず、日本全体でも改善している。この結果から、「働きやすさ」と「働きがい」は比例しないことが明らかだ。
国家公務員の働き方を分析。経済産業省は総合評価3.52と、高評価の理由は?
この10年をかけて官公庁業界では「20代成長環境」「社員の士気」「人材の長期育成」「人事評価の適正感」「風通しの良さ」に関して悪化している傾向がわかった。ここからは国の中枢を担う1府11省をピックアップし国家公務員の働き方を分析していく。
※以下の表はOpenWorkに2023年7月12日時点までに投稿・公開されたレポート回答全てを対象データとし算出したスコアのため、前半パートで触れた「官公庁業界平均(2023年)」スコアとは多少数値が異なる。
1府11省に当たる内閣府、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省(行政機構図順)の総合評価を、2023年7月時点の官公庁業界平均の総合評価で比べた際、上回ったのは経済産業省(3.52)、財務省(3.17)、環境省(3.16)、防衛省(3.11)の4省のみとなった。
特徴的なのは、経済産業省と環境省の「風通しの良さ」と「社員の士気」の高さだ。「風通しの良さ」に関
しては11省中8省が2点台という中、両省は4点超えという高い結果となった。また、「社員の士気」に関しては、両省のみ3点を超える結果となった。
「風通しの良さ」や「社員の士気」といった、ソフト面に関する評価スコアは、府省によって差異が生じる結果となった。では、経済産業省や環境省にどのような社員クチコミが挙げられているか見ると、若手の成長を歓迎するフラットな文化、霞ヶ関以外でも通用しそうなスキル、自省庁以外の交流やつながりといった要素をあげる声があった。
人事や評価制度に関する改革は全国家公務員にとって共通課題であり国家主体の改善が求められる一方で、ソフト面の改善も合わせて取り組むことで、提言書で掲げられた「士気旺盛に就業できる環境」の実現につながると言えるのではないだろうか。
OpenWorkに投稿された国家公務員による、「士気旺盛に就業できる環境」実現のヒントになりそうな社員クチコミは、以下の通り。
「若手を育てようという文化があるので、社会人としての基礎力はかなり鍛えられる。文章の書き方、根回しのコツ、論理的思考力などは徹底的に教わったので、これは霞ヶ関以外の職場でも財産になると思う。(総合職、女性、経済産業省)」
「国際的な業務に携わることも多々あるので、日本のために仕事をしていると感じる。他機関への出向や留学を経て、外部の知見も得ながら成長できるので、そういった環境をうまく使ってキャリア形成を図ることもできる。(係員、男性、経済産業省)」
「他省庁に比べると、新しい領域への感度が高く、それを自負している感もある。他省庁の既存領域で新たなビジネスや技術課題が生じた場合に、事業者側の目線で規制緩和などを働きかけていく。テレワーク等もコロナ前から可能だったなど、先進的ではある。(総合職、男性、経済産業省)」
「役職が下の者でも、幹部と顔の見える関係で議論できる社風がある。新しいこと、前例のないことをやろうとする社風もある。また、優しい人が多いと思う。(事務、男性、環境省)」
「風通しが良く、若いうちから様々な業務に携わることができます。他省庁と比べ少人数であることから、1年目から大臣室に入ることができるなど、そのような点は魅力的なところかと思います。(総合職、男性、環境省)」
「穏やかな人が多く、風通しが非常に良い。若手職員の意見も積極的に取り入れてくれる。以前は若手職員と大臣とのフリーディスカッションを良くやっていた。(係長、男性、環境省)」
「幅広い分野の研修が定期的に実施され受講しやすい雰囲気があるため自分次第でいくらでも成長できると思う。組織としては出向を推している雰囲気もあり、特に若手への本省や他機関への出向を推進している。(事務、女性、財務省)」
一方で、「人材の長期育成」「人事評価の適正感」「待遇面の満足度」のスコア、いわゆる人事・評価制度といった内容に関する評価は1府11省のどこも3点を超えず共通課題であると言える。
実際に社員クチコミを見てみると、国会対応や紙文化・独自のルールなどを理由とした煩雑かつ膨大な業務の多さに関する声は当然ありつつ、加えて年功序列を指摘する声や、各府省ともに人事・評価制度は共通であるがゆえに「優秀な人・士気がある人ほど皺寄せが行く」といった声も散見された。
国家や国民のためという使命感を持って入省したからこそ、膨大な業務量をこなしてもそれが人事制度や評価制度の面で反映されにくく、結果的に報われない徒労感に陥っている様子が各府省問わず散見された。
OpenWorkに投稿された国家公務員による、人事制度・評価制度に関する社員クチコミは、以下の通り。
「とにかく年功序列である。細かい資料まで上に見せて直す必要があり、深夜まで対応が及ぶこともしばしばある。(事務職、男性)
「国会対応などの雑務に忙殺され本命業務が滞ったり、形骸化した文書の書き方などで決裁を差し止められ無駄な業務が多いです。(自分の所属する省では)紙文化が根強く、打ち合わせをする際にも他省庁と比べて電子化しているものが少ない。(係員、女性)」
「どこの公務員も同じだが、どれだけ頑張ってもあまり給与は変わらず、さぼればさぼるほど効率的に給与がもらえるので、言わば職員の気概やモラルだけで成り立っている。士気が高い職員に仕事が集中するため、優秀な者ほど失望して辞めていく、という悪循環となっている。(係長、男性)」
「優秀な者に業務が集中する一方で、ほとんど業務をしていないような者でも一定程度の評価となり、不公平感を感じることは多い。手間がかかっている割に人事評価制度がうまく機能しているように思えない。(一般、男性)」
「年功序列のため、どれだけやる気があっても周りと差がつくほどの出世はできない。半年に一度、所属課長による期末面談が実施され、その結果に基づいて評価を得られるが、ほとんどが似たような評価になり、あまり差がでない。(事務官、男性)」
最後に、実際に今まさに霞ヶ関で働く現職の国家公務員が考える、「経営者(国)への提言」に寄せられた社員クチコミを紹介する。
「国家公務員の不人気化による地盤沈下が進んでいて、総合職の試験がスクリーニングとして役に立っていない気がする。経産省はその中でも選り好んで採用しているがそろそろ限界が来るのでは。国全体として公務員への投資を考えるべき。(課長補佐、男性、経済産業省)」
「世界最先端を目指すには、まずAI導入より、あまりに遅すぎるインターネット回線速度、ハンコ文化の廃止、人事関係手続き書類の電子化など、すぐにでも取りかかれることはいくらでもあります。パフォーマンスのための取り組みばかりに手を出すのではなく、真に業務を高度化・効率化するために効果的な施策を検討していただきたいです。(行政事務、男性、財務省)」
「特に勉強の時間確保が難しいことに危機感を持っている。社会から批判され続け、日々の業務で疲弊した中、時間を惜しんで勉強する意欲を保ち続けられる人などほとんどいない。余裕があれば、自ら創意工夫で勉強したいと思うだろう。少なくともこの職場の職員は、就職前の学生の時点でそうした意欲を持っていたことが認められて就職選考に合格したはずである。(課長補佐、男性、厚生労働省)」
<対象データ>
【官公庁業界/日本全体の平均スコア比較】:
OpenWorkに投稿された2014年1月〜12月および2023年1〜7月累計の現職社員による回答を元に集計。(官公庁業界は1,057件、日本全体は45,815件)
【国家公務員の働き方】:
OpenWorkに2023年7月12日時点までに投稿・公開されたレポート回答全てを対象データとし、評価スコア及び残業時間・有休消化率をまとめている。2023年7月集計時点の数値となるため、OpenWork各企業ページで掲載している数値、ならびに前半パートで触れた「官公庁業界平均(2023年)」スコアとは多少数値が異なる。また、復興庁・デジタル庁は回答数が10件未満のため掲載していない。
出典元:OpenWork働きがい研究所
構成/こじへい