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三菱地所リアルエステートサービスの30代社員が挑んだ不動産業界の商習慣改革

2023.08.04

組織にいながら起業家のように事業を立ち上げ、推進する。新規事業は不確実性が高いことの連続だが、現場の担当者はどのように働き、どのような学びを得ているのか。不動産の売却希望者と仲介担当者をマッチングさせるサービス「タクシエ(TAQSIE)」を立ち上げた、三菱地所リアルエステートサービス新事業推進部参事の落合晃さんに前編に続いて詳しく聞いた

三菱地所グループの30代社員が考案した「不動産売買のハードルを下げるマッチングサービス」で挑む商習慣の変革

日本では不動産を売却する場合、不動産会社は選べても仲介担当者(エージェント)を選ぶことはできない──そんな商慣習の変革に挑むのが、不動産の売却希望者と仲介担当者...

【新規事業のリアル】「0→1」は手探りの連続、「1→10」はスピードが命

サービス立ち上げにあたり、世の中からの追い風は吹いているか──。

組織の中で新規事業を立ち上げる際には3つのポイントがあると落合さんは話す。

「1つは、世の中の時流に合っているか、ニーズがあるか。次に、こういう世の中にしていきたいというビジョンはあるか。最後に、自社の進むべき方向性にその新規事業が合致しているかどうかです」

三菱地所リアルエステートサービスの新サービス・タクシエもこれら3つのポイントを体現している。「空家等対策特別措置法」が設置され「路線価は2年連続上昇」「国交省による既存住宅活性化の推進」といった世の中の時流・ニーズの高まりに沿いながら、「不動産取引の新しいスタンダードをつくることで、業界全体の活性化につなげる」というビジョンを標榜。それがそのまま自社の「不動産流通市場の発展と信頼性向上」に寄与する事業となっている。

タクシエのサイト。売主であるユーザーの要望にあわせて、いつ売却するかを踏まえて依頼できる。

新規事業が社内で認められ後は、0→1、1→10をどう推進していくかが課題となる。既存事業とは求められるスキルセットが異なる点もあり、ハードルが高く感じる人も多いだろう。落合さんは実際に何から始めたのだろうか。

「まず0→1の事業化するところまでは、とにかく手探りでした。数多くの人の話を聞いて回り、仮説を立て、答え合わせをすることを繰り返しながら準備を進めていきました。その過程で、自分の持っている情報を整理し、ジャッジする人にわかりやすく伝えるというスキルが、かなり鍛えられました。事業化を進める過程で最も大事なことは、事業の可能性を感じてもらえるだけの熱意をどう伝えるかだと感じています」

新規事業の着想を得るためのコツとしては、「そのターゲットになりそうな人の声を聞いて、自分自身がその人になりきること」を挙げる。落合さんは、入社して最初に配置された人事部で福利厚生の制度設計を担当し、社員の健康増進企画やリフレッシュ休暇などの制度を0→1で立ち上げた経験があった。とにかく行動することを大切にし、「最初に社員の方々の顔と名前を覚えて、いろいろな人とつながりに行って、どんなニーズがあるのかを聞いていた」と話す。

タクシエを推進する上でもやはり、ユーザーの声を徹底して聞くことがベースにある。「新しいサービスなので、どんなところが評価されるサービスなのか、タクシエで成約に至ったユーザーの声を発信することが重要になる」という考えから、成約者インタビューを実施し、サイト上に掲載。ユーザーに向き合い続けることで、信頼できる仲介担当者と出会えたということや、チャットで時間を気にすることなく快適にやりとりできたこと、担当者のプロフィールが開示され、安心感があることで踏み込んだ相談もしやすかったことなど、サービスの強みやユーザーの潜在的な悩みも明確化されたと言う。

落合さん提供。新規事業立ち上げ時から常にユーザーヒアリングは徹底している。

一方、現在進行形の1→10に関しては、とにかくスピードを重視してきた。

「競合サービスに負けないようサービス改善を回していくために、目的地に3時間で行くところを2時間で着かなければいけないような焦りを常に感じながらやってきました。状況は日々変化していくので、大まかな目的地を全員でしっかりと共有しておくことも大事です。決めなければならないことは無数にあり、上司の決裁が必要なものについては、判断材料となる情報を早めに渡しつつ、データ・ファクトに基づき、迅速な意思決定を大事にしながら進めています」

【マインドセット】新規事業には「感謝」と「つながり」が必要

社内で新規事業を推進する上では、マインド面も重要になる。落合さんが実感しているのは、既存事業への感謝の気持ちや姿勢、社内外の関係者とのリレーションの大切さだ。

「当たり前ですが、既存事業の利益があって新規事業のチャレンジ機会を頂いているわけです。不確実性の高い中でも成果を出し、会社に貢献できる意識は忘れてはいけませんし、それでは協力も得られません。この事業を成功させるために協力してくれているたくさんの人たちがワンチームで気持ちよくパフォーマンスを発揮して頂けるように、自分自身が率先して行動する必要性も感じています。

落合さんのところでボールを止めないように、すぐにレスポンスを返すことは基本として、小さなことでも感謝の気持ちを伝える。全体で滞っていることを察知して、ポテンヒットが起こらないよう積極的にボールを拾いに行くと言う。

「よい関係性を構築することで、関係者の方々からも期待や応援の声をかけて頂けたりすることもあり、それが自分のモチベーションにつながるという好循環も生まれています」

【仕事術】他人と比較せず、失敗を100%受け止めない

落合さんのキャリアは、人事部に始まり、住宅賃貸部門、賃貸マンション企画の各部門で着実に成果を上げ、経営企画部での事業開発を経てタクシエ立ち上げへと至った。「ずっと会社の本流とは別のことをやってきました」という自身のキャリアを踏まえて落合さんは、新規事業の担当者に求められるという「仕事の幅を広げ、前向きに仕事を楽しむためのポイント」を4つ挙げる。

1つ目は「他人とあまり比べないこと」。隣の芝生はどうしても青く見えがちだ。つい人と比べてモチベーションを下げてしまうこともある。そうならないためには、「目の前の仕事に全力で取り組み、何でも吸収する時期をつくること」、これが2つ目のポイントだ。落合さんも、そうやって仕事の量をこなし成果を上げることで、一定の自信がつき、他人のことを気にすることが少なくなったそうだ。また、量をこなすと、自分の得意不得意が認識でき、自分自身の客観的な評価もわかるため、自分に適したポジションがわかりやすくなり、成果も上がりやすくなる。

3つ目は「積極的に手を挙げてアピールすること」。落合さんは2020年に三菱グループの「三菱マーケティング研究会」に手を挙げて参加し、チームで新規事業プランを企画・提案し、グループ全体で最優秀賞を受賞した。また、それを社内でアピールしたことで社内でも表彰されている。「このように手を挙げてアピールすることは、セルフブランディングの観点からも大切だと思います」と話す。

4つ目は「うまくいかない時のマインドセット」。仕事でうまくいかない時は、どうしても気持ちが沈みがちだ。

「特に不確実性の高い新規事業を進めていると、失敗することも成果が上がらないことも多々あり、そのたびに100%受け止めていては、正直メンタルは持たないと思います。仕事の成果と自分自身の価値を連動させず、その間でうまくバランスをとって、『自分自身は目標に向かって着実に進んでいる』というマインドを維持することも大事かなと思います」

実際にタクシエでも、立ち上げ当初は新規ユーザーの集客施策はバナーやリスティング広告中心だったが、CPA(顧客獲得単価)を踏まえた結果、不動産売却の初心者が知りたい売却時の費用や不動産会社の選び方などプロの目線から解説するサイト「不動産売却マスター」を立ち上げてSEOによる中長期の集客を強化。同時に、タクシエの提供価値である質の高い仲介担当者の人となりにフォーカスするコンテンツを続々とサイト上に掲載する。またサービス運営を通じて見えた、早期売却などのニーズに応えるため、物件買取のマッチングサービスも新たにローンチするなど当初の計画に固執することなく試行錯誤を繰り返している。

【組織活性化】事業のグロースと足元のチャンス拡大を両立する

タクシエの事業化を実現した落合さんは今、タクシエを運営する傍ら、自身の経験を踏まえて社内で新規事業をさらに創出するための仕組みづくりを社内で提案している。

「現状は決められた期間の中で募集するのが一般的ですが、事業のアイデアを思いついたら、そのタイミングですぐ提案できる方がいいですし、企画を通す際も全役員の合意を取るのではなくて、賛同する役員が1人でもいれば、決められた予算の中でスモールスタートしてスピーディに検証できるような仕組みも必要だと考えています。こうした仕組みや行動を通して、新規事業に挑む社内の仲間を増やしていきたいという想いもあります」

タクシエで不動産業界に新しい風を起こすとともに、社内の新規事業の活性化にも取り組む落合さん。将来の不動産事業のあるべき姿を見据え、さらなる新たな価値の創出を目指している。

家の売却検討者と仲介担当者のマッチングサイト「タクシエ」サービス概要はこちら

(プロフィール)
落合 晃(おちあい・ひかる)
三菱地所リアルエステートサービス株式会社
新事業推進部参事
2008年入社。人事部門で福利厚生制度などの企画運営、住宅賃貸部門でタワーマンション営業所長、賃貸マンション企画などを経て、2018年より経営企画部で主に事業開発を担当し、複数の新規事業立上げに従事。2020年度三菱マーケティング研究会ビジネスプランコンテスト最優秀賞受賞。「TAQSIE」では初期構想から推進役を担い、現在もプロジェクト全般に関わっている。2022年4月より現職。

取材・文/稲本 圭

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