■連載/阿部純子のトレンド探検隊
労働力不足が深刻化する日本では清掃ロボット導入の好機と判断
食品配送ロボット「BellaBot」、ディスプレイ付きの配膳・案内ロボット「KettyBot」など日本市場で導入実績のある「Pudu Robotics Japan」が、新たに清掃領域への参入を発表。商用清掃ロボット「CC1」「SH1」の2製品をリリースした。
PUDUは中国に本社のある商用サービス用ロボットのメーカーで、60以上の国と地域で事業展開し、発売数は6万台を超え業界トップ。レストラン、ホテル、オフィスビル、商業施設、病院、学校等幅広い領域で活用されている。2021年には日本法人を設立し、ネコ型配膳ロボット「BellaBot」を中心にこれまで計6つの配送用ロボットを展開。日本での発売数は7500台を超える。
Pudu Robotics Japan CEOの張涛氏(下記画像右)は、清掃領域への進出に関してこう話す。
「日本市場における清掃ロボットの可能性は非常に高いと考えています。理由の一つが少子高齢化による労働力不足の問題。清掃業界では2023年5月の新規求人倍率が2.94倍と労働市場が激化し、人件費の高騰で労働コストが上昇しています。特に中小企業や地方の企業で労働コスト上昇の影響を大きく受けています。
理由の二つめが、世界の中でも日本が一番ロボットを導入している国だということ。ロボットに親しみがあり、ハイテクなデバイスを受け入れやすい社会であることから、調理から配膳、ホテルの受付、配送、清掃を担うロボットが一般生活に浸透しています。
労働力不足とロボットが身近にあるということが、清掃ロボット領域に参入する重要な要素になりました」(張氏)
36年前から医療施設を中心にした清掃事業を展開、千葉県鴨川市の亀田総合病院の清掃マネージャーを務める医療環境管理士の松本忠男氏(上記画像左)は、病棟を中心に清掃ロボットの導入を検討しているという。
「施設やオフィスの清掃は清掃会社への委託が非常に多いことから、清掃業界の人手不足が加速しています。現場は忙しさから新しいものを導入する余裕がなく、またロボットに対する知識や経験もないため、こうした面をサポートしながらロボット導入を進めていく必要があります。
ロボット導入にあたってはロボットと人の役割分担を明確に分けることが重要だと思います。施設の清掃は、面積が広く目立つ場所である床に時間を取られることが多いですが、きれいな空気を実現するために高所のほこりや、手で触れる場所など、人にしかできない場所の清掃も重要になります。床といったロボットが得意なところは任せて、人しかできないところは人手で行う明確な仕分けが大事です。
ロボットが人をカバーするだけでなく、人がロボットをカバーする視点も考慮して、施設全体の清掃活動を見直すことが、ロボット導入の際には必要になる条件だと考えています」(松本氏)
同社が配送業務で培ってきた経験と技術を開発に活かし、より優れた性能や安定した動作、簡単な操作の清掃ロボットを実現したのが商用清掃ロボット「CC1」「SH1」の2製品。2024年までに3000 台の導入を目標にしている。
〇「PUDU CC1」
スイープ、床洗浄、吸引、乾拭きの多機能を1台に集約した、床掃除に適した商用清掃ロボット。人力に比べて3倍の作業頻度が実現できる。基本は自動掃除だが、手動に切り替えることもでき、労働人員や労働環境に応じた選択が可能だ。
屋内の様々な材質、硬度の床に適合しており、1回の充電で最長8時間の連続清掃が可能。タイマータスクで指定時間に自動的に起動する。清掃中に電力が低下しても、ロボットが清掃の進捗状況を記憶しているため、フル充電後に前回終了時のポジションから再開できる。
マルチフュージョンセンサーを搭載し、どの角度で障害物に遭遇しても、すぐに停止して離れることが可能。専用のワークステーションにて自動給水・排水、自動充電を行い、各ユニットの作業状態を収集・要約し、清掃レポートを自動生成することで洗浄効果の数値化と可視化する。
〇「PUDU SH1」
油汚れや滑りやすい環境向けに開発された手動式の商用床洗浄ロボット。重さは22㎏だが自走アシストするので女性や高齢者でも操作が簡単。CC1も同様だが、汚れを拭き取った後はさらっとしていて滑る心配もない。
自重22kgの地面への圧力と、ブラシ速度350rpm(1分間の回転数)の高速ダブルディスクブラシを組み合わせることで、頑固な汚れを迅速に分解する。
強力な吸引力で汚れや汚水を一度の吸引で完全に除去して洗った瞬間に乾燥まで行う。片手でもコントロール可能で、複数の場所に簡単に移動できる。 清掃タスクの履歴や、水、電力の使用状況も手持ちのスマートフォンで確認できる。
【AJの読み】女性や高齢の従業員でも使いやすい安定感と操作性
清掃業界は深刻な人手不足が大きな課題となっている。清掃スタッフは非正規雇用が多いため離職率が高いことや、若い世代の採用が難しくスタッフが高齢化しているなど、様々な要因がある。
清掃ロボット導入は清掃業界の人手不足を解決する手段のひとつではあるが、松本氏は「人とロボットが共に働くことで、清掃業界自体のイメージチェンジを図って雇用促進につなげていきたい」と話す。
「CC1」は24時間稼働できるため、人がいない時間帯の自動掃除が可能で効率が良く、人件費のコストも抑えられる。また、病院のように常に人がいる場所で無機質なロボットが動いていると驚かれることもあるが、「CC1」は“まばたき”しながら動く愛嬌のあるデザインで、親しみやすさがある。
「SH1」は家庭用の水拭きクリーナーのような感覚で動かす手動式のタイプ。22㎏もあるので、高齢者や女性でも使えるのかどうか、実際に動かしてみた。自走していくので軽い力だけで動き取り扱いはとてもスムーズ。「CC1」のタンク交換も同様だが、高齢の従業員でも使いやすい仕様になっている。
文/阿部純子