共通ポイントカードを日本国民に浸透させた立役者Tポイントが、2024年春に三井住友カードのVポイントに統合することが決定しました。
Tポイントはカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が2003年10月に開始したサービスで、累計発行枚数は2016年に1億9,000万枚を超えました。日本の総人口を超える数が発行され、アクティブ会員数は2人に1人と言われていました。
絶大な影響力を持つTポイントが、Vポイントに統合されるのはなぜなのでしょうか?
CCCにはメリットばかりのポイント統合
Vポイントは、三井住友カードのポイントプログラム。三井住友カードVISAにICカード機能が付いたことで、本格的な運用を開始しました。世界のVISAカード提携店でポイントが貯まり、1ポイント1円で利用できることからユーザーを拡大。有効会員数は2,000万人を超えています。
統合後の新たなロゴは、青地に黄色でVが描かれており、Tポイントを彷彿とさせるデザインになっています。しかし、Vポイントと名称が変わるため、Tポイントが力を失って消滅するような印象を受けます。
しかし、資本関係で主導権を握っているのはCCCの方。三井住友フィナンシャルグループは、CCCのポイント事業を行うCCCMKホールディングスに出資。40%の株式を取得しました。
※SMBC グループと CCC グループ新たなポイントサービス、青と黄色の「V ポイント」を来春より提供開始より
CCCMKは出資を受け入れたものの、依然として60%はCCCが保有しています。ポイント運営における主導者はCCCの方と考えて間違いないでしょう。
つまり、CCC側からすると、統合によって新たなアクティブユーザーを獲得できる上に、提携店を増やすことができるメリットがあり、主体者として継続的に事業運営できるのです。
CCCMKは消費者の購買データを取得し、それを分析・商品化してマーケティング支援を行っています。データは多ければ多いほど活用できる範囲は広く、コンサルティングの質を高めることができます。
ネガティブな印象があるVポイントとの統合ですが、実はCCCにとってメリットが多い内容なのです。
ヤフーとの提携も解消
CCCMKの設立は2012年10月。この会社はヤフーとCCCが戦略的資本業務提携を締結して誕生した会社です。両社は2010年7月にポイント連携をしていましたが、この提携によってポイントプログラムの運営事業を法人化したのです。
このころ、TSUTAYAのレンタルサービスの縮小が鮮明になっており、CCCはTポイントに期待をかけていました。Tポイントは加盟金や基本利用料、ポイント発行手数料をCCCに支払う仕組みになっています。主力のレンタルビジネスが縮小しようとも、加盟店を広げられれば収益性が確保できました。
しかし、次第に加盟店離れが鮮明になりました。店舗が独自のポイントサービスを立ち上げるようになったのです。
ヤフーとの提携により、TポイントはWebの世界に食い込むことができましたが、ヤフーは独自のPayPayポイントへと切り替えます。2022年3月にTポイントの連携を終了しました。提携関係も解消されています。
Tポイントは大口顧客を次々と失います。2019年7月にはファミリーマートが「ファミペイ」を導入し、独自のポイントシステムを採用。同年にドトールコーヒーもTポイントサービスを打ち切っています。
巨大なポイント網を構築
離反が進んだ背景の一つに、Tポイントの加盟店のメリットの少なさがあります。当初はポイントが貯まることをアピールすれば、集客に役立てることができました。「Tポイントはお持ちですか?」と、スタッフが当たり前に顧客に問いかけるようになったことで、Tポイントカードに加盟するのが小売店の常識となりました。
集客に役立つという触れ込みで始まったTポイントですが、いつの間にか本来のメリットが置き去りにされ、加盟するのが常識という幻想に包まれたとも言えます。
それを背景に加盟店を獲得できましたが、大手コンビニエンスストアや飲食店の離反が加速すると、本当に加盟するメリットはあるのかという疑問が立ち上がります。
CCCMKはデータを活用したコンサルティングサービスも行っていますが、追加の費用が必要。そして、CCCMKが取得しているようなビッグデータは、大手小売店や食品メーカーでなければ、マーケティングデータとして活かしきることができません。
加盟店離れが加速する中で、Vポイントとの統合という幸運をつかむことができました。
三井住友フィナンシャルグループもメリットは大きいでしょう。三井住友カードは、「Custella」という、クレジットカード加盟店向けのマーケティングサービスを提供しています。CCCMKが蓄積してきたノウハウを吸収することにより、サービスの精度を上げることができます。
そして何より、提携店や会員を獲得することが可能です。
Tポイントの統合は、日本におけるポイントカードの歴史の転換点と言えるでしょう。生き残りをかけるCCCがどのような事業展開を行うのか、注目の局面が訪れました。
取材・文/不破 聡