他の人が使っているから何となく定型文で使っている言葉というのは、使い方を間違えている場合がある。取引先へのお礼状やあいさつでよく使われる「ご健勝」も、そんな間違えて使いやすい言葉の1つ。相手と良好な関係を保つためには、言葉を正しく適切に使うことが大切だ。
本記事では「ご健勝」の意味と正しい使い方、使う際に注意すべきポイントや言い換え方などを解説する。
「ご健勝」とは?
「ご健勝」は、「ごけんしょう」と読む。メールや手紙での時候のあいさつや締めのあいさつ、乾杯のあいさつなどで使われることが多い。
「ご健勝」の意味
「ご健勝」とは、「からだに悪いところがなく健康なこと」を意味する。相手がいつまでも元気で健康でいられるように願いを込めたいときに使われるのが一般的だ。
「健」は「体がしっかりとして力強い」ことを表し、「勝」は「勢いが優れている」ことを表している。
「ご健勝」を使える相手
「ご健勝」は、健勝に「ご」をつけた尊敬語なので、同僚や部下だけでなく、目上の人や取引先にも使える。しかし、個人や複数人に対してのみ使える言葉なので、企業や組織などに向けて使うと相手に不快感を与えてしまう。企業や組織に対して「ご健勝」を使いたい場合は、似た意味の「ご清栄」や「ご発展」に言い換えるのがいいだろう。
「からだに悪いところがなく健康なこと」を意味する「ご健勝」は、ケガをしている人やすでに病気を患っている人にも使うべきではない。ご高齢の方への使用も、控えた方がいいだろう。手紙での時候のあいさつや締めのあいさつに使用されることが多い「ご健勝」だが、お見舞い状への使用は控えた方がいい。
「ご健勝」を使う際に注意すべきポイント
さまざまな立場の人が使いやすい「ご健勝」だが、主に書き言葉として使う言葉のため、日常会話には向いていない。日常会話で使いたい場合は、「お元気ですか?」「お元気そうで何よりです」「お体を大切になさってくださいね」など、自然な言い方に換えるといいだろう。
書き言葉としてメール・手紙・文書などで用いられることが多い「ご健勝」だが、結婚式や式典などの改まった場では、特別に話し言葉として使われることもある。
「ご健勝」の定型文の使い方
「ご健勝」の意味を理解しているだけでは、使いこなせるようにはならない。マスターするためには、具体的にどんな場面でどんな使い方をすればよいのか知っておくことが大切だ。
ご健勝のことと存じます
「ご健勝のことと存じます」は、相手の健康を願う意味の「ご健勝」に、「思います」の敬語表現である「存じます」を足した言葉。敬語表現を使うことで、目上の人にも失礼なく使うことができる。
「ご健勝のことと存じます」とは、「相手が健康に過ごしていると思っている」を丁寧に言い換えた言葉だ。メールや手紙などの冒頭で、「〇〇様におかれましては、ますますご健勝のことと存じます」のように使う。相手の健康を確認するあいさつ文なので、文末には適さない。
ご健勝のこととお慶び申し上げます
「ご健勝のこととお慶び申し上げます」は、相手が健康でいることをよろこんでいる、祝福しているという意味を持っている。相手の健康を気遣い今後も健康を願う言葉として、メールや手紙などの冒頭で使うのが一般的だ。
よろこびに「喜」ではなく「慶」の文字が使われるのは、喜よりも慶という文字の方が広く深い意味でのよろこびを表しているから。
ご健勝とご活躍をお祈り申し上げます
「ご健勝とご活躍をお祈り申し上げます」は、年賀状・あいさつ状などの締めのあいさつとして使える言葉だ。
「心より健康でいられるよう活躍できるよう祈らせていただきます」という意味を持つ。取引先や目上の人へも使えるが、「活躍できますように」という意味が含まれているため、人によっては不快に感じる人もいるだろう。
「ご活躍」とは、「生き生きと活動すること」という意味の「活躍」に尊敬語の「ご」を足した言葉。「ご健勝」と一緒に使うことで、相手の健康と活躍を願う言葉となる。「お祈り申し上げます」は、「祈る」の丁寧表現と「言う」の謙譲語である「申し上げる」を組み合わせた言葉だ。
ご健勝とご多幸をお祈り申し上げます
相手の健康と幸せを願う意味を持つ「ご健勝とご多幸をお祈り申し上げます」は、目上の人や取引先に使える表現だ。書き言葉として使うのが一般的で、メールや手紙などの文末に結びとしてよく使われる。
「ご多幸」は、「ご健勝」と同じく個人や複数人に向けて使える言葉で、複数人に向けて使う場合は「皆様」を文頭につけて使う必要がある。
益々+ご健勝
「益々」と「ご健勝」を一緒に使う場合、「ご健勝」の「元気で健康なこと」という意味に、「益々」の「いままでより一層」という意味が加わる。メールや手紙の冒頭では「時下益々ご健勝のことと存じます」と使い、文末では「今後益々のご健勝をお祈り申し上げます」などと使う。
「益々」は、「ご健勝」の意味をより一層強める言葉なので、相手の健康をより願ったり祝ったりしたい場合に「益々」をつけるといいだろう。
ご発展+ご健勝
「ご発展」+「ご健勝」は、個人と企業に対して同時に思いを伝えたいときに使える言葉の組み合わせだ。個人に使える「ご健勝」と企業や組織に使える「ご発展」を組み合わせることで、個人にも企業にも配慮した表現となる。
例えば、「皆様方のご健勝と貴社のさらなるご発展をお祈り申し上げます」と言えば、「相手の会社の人たちの健康と相手の会社の発展を願っている」と伝えることができる。
「ご健勝」の言い換え方
「ご健勝」は、個人のみに使える言葉で書き言葉として使うことが多いため、複数人や企業・組織などに対して使う場合や話し言葉として使いたい場合は言い換えが必要になる。
ご多幸・ご清祥・ご繁栄・ご清栄・ご発展の5つの言葉は、「ご健勝」と意味は異なるが同じような使い方ができる言葉だ。
ご多幸
複数人に対して「ご健勝」を使いたい場合は、「ご多幸」に言い換えることができる。「ご多幸」は「ごたこう」と読み、幸せが多い状態の「多幸」に尊敬語の「ご」を足した言葉だ。
「ご多幸」は、「皆様方のご多幸をお祈りしております」「皆様方のご多幸をお祈り申し上げます」などのように使われ、「幸せを祈っています」という意味を持つ。「ご健勝」と同じく、企業や組織に対しては使えない。
ご清祥
「ご清祥」は「ごせいしょう」と読み、「ご健勝」と同じく主にメール・手紙・文書などで書き言葉として使用される言葉だ。「相手が健康で幸せに暮らしていることを喜ぶ」という意味で使われる。個人に対して使う言葉で、相手が健康を害している場合にはつかえない。
「ご健勝」と異なる点は、文末には使えず文の冒頭でしか使えないこと。文の冒頭で、「ご清祥をお祈りします」「ご清祥を祈念いたします」などと使うのが一般的だ。「ご健勝」よりも少しかしこまった言葉なので、取引先とのメールや文書よりもフォーマルな場面での文書に使用されることが多い。
ご繁栄
「ご健勝を~」を企業や組織に向けて使いたい場合は、「ご繁栄」に言い換えるとよい。「ご繁栄」は「ごはんえい」と読み、「経済的に栄えている」という意味を持つ。
「ご繁栄を」を使う場合は、「ご繁栄のこととお慶び申し上げます」「御社のご繁栄をお祈り申し上げます」のようになる。
「お慶び申し上げます」とあわせれば、相手が栄えていることを慶んでいるという意味になり、「お祈り申し上げます」とあわせれば、相手が栄えることを祈っているという意味になる。
ご清栄
「ご清栄」は「ごせいえい」と読み、健康でいることや経済的に栄えていることを意味する言葉だ。主にメール・文書・手紙などの時候のあいさつとして使う言葉で、「ご健勝」と違い、個人にも企業にも使うことができる。
「ご清栄のこととお慶び申し上げます」なら、相手の健康や繁栄を慶んでいるという意味になり、「ご清栄のことと存じます」なら、相手が健康で繁栄していることと思いますという意味になる。
ご発展
「ご発展」は「ごはってん」と読み、勢いや力が伸び広がり盛んになることを意味する「発展」に尊敬語の「ご」をつけた言葉だ。
個人には使わず、企業や組織に向けた文書やメールの文末に結びとして使用する。
書き言葉として使う場合は、「ご発展を心よりお祈り申し上げます」「ご発展を遂げられますよう、ご祈念申し上げます」などと使う。どちらの例文も、相手の企業や組織が発展していくよう願う言葉だ。
乾杯のあいさつとして使う場合の例文は、「今後のご発展を願って、乾杯!」「ますますのご発展を祈念いたしまして、乾杯!」などがある。