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ユニコーンの決済サービスStripeが日本のスタートアップに寄せる期待とは?

2023.07.28

Stripe(ストライプ)はインターネットで商品やサービスを売りたい企業に、オンライン決済の仕組みを提供するグローバル企業だ。いわば黒子のため、ユーザーがその名前を直接目にすることはあまりないかもしれないが、AmazonやGoogle、Zoom、日本企業ではトヨタ、ANA、KDDIなど、名だたる企業が同社の決済インフラを導入している。名前は知らなくても、利用している可能性は大というわけだ。2021年には評価額が10兆円を超え、米国のユニコーンランキングで1位となったことが大きな話題にもなった。現在もその上場時期を巡って、投資家から熱視線が注がれている。

Stripeとは一体どんな会社なのか。急成長の理由をStripe Japan代表取締役 のダニエル・へフェルナン氏に取材した。

Stripe Japan共同代表を務めるダニエル・へフェルナン氏

それぞれの国のルールや規制に合わせた地道な横展開

──Stripeは決済サービスで急成長していますが、BtoBということもあり、一般のユーザーにはあまり知られていません。どのような成り立ちの会社なのでしょうか?

Stripeはパトリック・コリソンとジョン・コリソンの兄弟が、共同創業者として起業しました。彼らはアイルランドの出身で、実は僕も同じ中学校だったのですが、パトリックとは1年違いで、当時インターネットとかプログラミングの話をして仲良くなりました。

アイルランドの教育制度は日本に近いのですが、イギリスには「A-Levels」というプログラムがあって、パトリックは独学でこれに合格してマサチューセッツ工科大学(MIT)に進学しました。一方のジョンはハーバード大学に進学したんですが、2人とも途中で辞めて、自分たちでビジネスを始めます。最初にやったのはオークションサイトの「eBay」で、パワーセラーと呼ばれる人達にオークションを管理するサービスを提供することでした。

その際に感じたのが、オンラインで課金する際のしくみの煩雑さでした。そのことがずっと頭にあって、最初の会社を売却して次のビジネスを考えていたときに、オンライン決裁が簡単にできるしくみを自分たちで作ることにしたんです。2009年にコード書き始めて、2010年に会社を登記しています。そうやって作ったものを当時、「Yコンビネーター」(編集部注:シリコンバレーの著名なアクセラレータープログラム)に参加していたスタートアップにプレゼンして、導入してもらったのがStripeの始まりです。最初は今とは違う社名だったんですが、わかりやすいように5文字と決めて、いくつかの候補から選んだのが「Stripe」という名前。ちなみに候補の中には「Llama」というのもあって、その名残で今でも社内のマスコットキャラクターがラマだったりします。

──スタートアップにオンライン決裁のしくみを使ってもらうところから始めて、今のように多くの大企業に導入されるまで、どのようにビジネスを広げてきたんですか?

どうやって大企業にサービスを提供するようになったのかというと、LyftやShopifyなど、支援していたスタートアップがどんどん成長して、大企業になったということです。日本では2014年に法人を作って、2015年からベータ版のサービス提供を始めましたが、スタートアップの間では知られる存在になっていたおかげで、請求書管理のサービスのMakeLeapsや、イベント管理のDoorkeeper、翻訳サービスのGengoなど、外国人ファウンダーを中心に、多くのスタートアップがStripeのことを知ってくれていて、「待ってました」と歓迎してくれました。

──国によって様々な規制があるので、一般的にFintechは横展開が難しいとも言われます。御社はその壁をどう乗り越えてきたのですか?

まずStripeは、そもそものアイデンティティがいわゆるシリコンバレーの会社という感じではなく、グローバルなんです。僕が入社した時には上司がオランダ人で、その上がホンジュラス人、その上がアイルランド人でした。決済のシステムも海外展開を見越して、最初の設計から多通貨への対応を想定していました。

じゃあ、簡単に横展開ができたのかというと、もちろんそんなことはなくて、イギリス、インド、シンガポールとマレーシア、UAEなど、どの国でもかなり苦労してきました。今は135以上の通貨、46ヵ国でのビジネスをサポートしていますが、その都度現地のライセンスが必要だったり、パートナーのシステムとの接続が必要だったり、もちろんローカライズも必要だったりで、多くの投資もしてきています。

日本でも三井住友カードさんとパートナーシップを組みましたが、当時は物理的に電話線で繋がる必要があったので、データセンターを探してサーバーを置いて、電話線をNTTに接続してもらって……。さらに銀行振込ではFAXが必要だったので、自動的に送信できるようにシステムを組んだり……。お客様にサービス提供できるところまで、かなり時間がかかりました。でも、もっと大変な国もあります。おかげで今では、Stripeを入れておけば、インターネットに接続可能な世界中の人に商品やサービスが売れる、という状態になってきています。

信頼されるグローバルな決済ネットワークを目指して

──日本ではここまで、どのようにビジネスを広げてきたのでしょうか?

2016年の10月に正式にローンチをして、そのタイミングで外貨で決済できる仕組みを導入したり、2017年にはローカライゼーションに力を入れて、2018年にはJCBとも提携するなど、徐々に機能を追加してきました。

一方で、日本ではこの間にすごいペースでペイメントのサービスが登場していて、それは今も続いています。Stripeとしてはそうした既存プレイヤーが戦っているところではなく、自分たちの強みを生かせる領域に力を入れてやった方が良いと考えてきました。たとえば2016年は、インバウンドや爆買いが話題になった時期でもあったのですが、日本から世界にSaaSを売りに行きたいというグローバルマインドを持つ企業も多かった。Stripeはそうした企業に、グローバルでビジネスができる多通貨決済の仕組みを提供するとともに、「Stripe Radar」のような、機械学習に基づくクレジットカードの不正使用対策のシステムも提供してきました。

決済サービス自体は競合も多く、コモディディ化もされてきていて、利用料の安さで競うような状況にもなってきていますが、そうしたところで勝負したくない。「Stripe Radar」のような機能や、いわゆるカゴ落ち(編集部注:商品をカートに入れたものの、購入に至らずに離脱してしまうこと)を防ぐための仕組みだったり、そういう価値を理解し、評価いただいていると考えています。

たとえばオンライン決済って最適化するのが難しくて、オーソリの成功率 (編集部注:送信した取引のうち、カード発行会社によって承認される割合) は8~9割と言われますが、僕たちのシステムはもっと高い。またアップデートの際も普通は数秒とか数分間、システムが止まるんですが、僕たちのシステムは99.9999%のアップタイム(システム稼動時間)です。グローバルで動かしているので、日本の深夜にメンテナンスをしても別のところでは稼動している。止まっている時間は数字にすると、1週間に0.6秒以下ということになります。

──それは短いですね。ユーザーのストレスを減らすことで、カゴ落ちを減らし、取引の成功率を高めているということでしょうか。

そうです。ここまでそうした努力を積み重ねてきたということもありますし、ともに成長してきたスタートアップと一緒に、彼らのビジネスをサポートするしくみを一緒に開発してきたという実績もあります。たとえば、「Stripe Connect」というプラットフォーマー向けのソリューションでは、プラットフォーマーが自身の登録事業者に対して、決済のしくみを提供できます。

Shopifyの「Shopify ペイメント」のように自社の決済サービスのような形で提供できるというもので、スペースマーケットもこのソリューションを使って、スペースを貸したいオーナーに対して決済のしくみを提供しています。Connectはつなぐという意味ですが、その名の通りちゃんと全部つながって、それぞれの事業者さんが決済を管理できるしくみになっています。最近では大手企業にも採用されるなど、今最もパワフルなソリューションで需要が高まっているもののひとつです。

──「Stripe Connect」のように、Stripeならではの強みを活かして、日本で伸びているサービスはあるのでしょうか?

そうですね、日本で……というところで言えば、たとえばこういうケースはStripeならではなのかなと思います。シリコンバレーで新しいビジネスモデルが出てきて、その波が日本にくるときに、日本の事業者がアメリカでベンチマークにしている先が、Stripeと一緒に決済のしくみを作っているような場合ですね。たとえばギグエコノミーとか、ギグワーカーみたいなところで利用されている決済は、StripeがLyftと一緒に作ってきたものです。またサブスクリプション向けの「Stripe Billing」というサービスもそうですね。

サービス提供を開始した当時は、日本ではまだサブスクリプションが一般的ではなかったので、「定期支払い」という言葉を使っていたのですが、今ではみんなが使っています。それだけ日本でこの仕組みを導入する事業者が増えているということです。

──日本だけに限らないかもしれませんが、コロナ禍には小売店がオンライン対応を迫られたということもあったと思います。コロナ禍に伸びたサービスはありますか?

「Payment Links」というサービスは、そのひとつかもしれません。ノーコードで支払いページを作成して、そのURLをホームページやSNSにコピペするだけ。インターネットでものを売るためのスモールスタートというか、チャレンジしたい人向けのサービスで、URLをシェアするだけで事業が始められます。

ものすごく簡単ですが、その先ではちゃんと豊富な支払い方法が選べて、スムーズな支払いのために最適化されたStripeの決済サービスが利用できます。さらに言うと、最適化のために実はマニアックなこともたくさんやっていて、たとえばユーザーが利用するパスワード管理ツールがちゃんと動くようにするとか、郵便番号で住所の入力を簡単にするとか、Apple PayやGoogle Payへの対応とか、本当にいろんなことをしている。この「Payment Links」は、日本で特にシェアが高いサービスのひとつになっています。

日本のスタートアップにはまだまだ伸び代がある

──クリエイターエコノミーのように、個人でビジネスを始めたい人にも良いサービスだと思いますが、まだStripeのことを知らない人も多いと思います。ブランディングについてはどのように考えていますか?

すごく大事だと考えています。ユニコーン企業として注目されたことで、スタートアップ界隈では知られていたので、英語圏での展開はそれ以外の地域よりはやりやすかった面もありました。日本でも一部外国人ファウンダーが注目してくれていたものの、ここまでくるには時間がかかりましたし、ブランドとしてはまだ成長過程だと思っています。

──Stripeはスタートアップと共に成長してきたということですが、日本のスタートアップには?

日本のスタートアップには非常に期待しています。年々投資額が増えてきているというのもありますし、タクシーに乗ると大体スタートアップのCMが流れています。先日京都で行われたスタートアップのイベント「IVS2023 KYOTO」に行ってきたんですが、すごく盛り上がっていました。Stripeを利用しているスタートアップの伸び率を、都市別に比較したデータがあるんですが、2021年と2022年の比較では東京が抜群に伸びています。成長率の比較なので、もともとが少なかったっていうのはあるのかもしれないですが、それだけ伸び代があるということだと思います。

「インターネットのGDPを増やす」とのミッションを掲げる

──最後にStripeでは、「インターネットのGDPを増やす」というミッションを掲げられています。その目指すところを教えてください。

全世界のコマースのうちオンラインになっているものはまだ少なくて、日本でもようやく8%ほどです。日本より人口が少ないイギリスの方がオンライン化率は高く、確か14%ほどだったと記憶しています。日本もこの先、14%ぐらいまではいけると思いますし、今実際にオンラインへのシフトが起きています。

「インターネットのGDPを増やす」が意味するのは、他のプレイヤーから奪うのではなく、市場全体を大きくしていくこと。Stripeがなければ、この事業はなかったというクリエイターやスタートアップ、Stripeがなければ、ここまでの投資はできなかったという企業を増やすことで、全体のパイを大きくして、インターネットの経済圏のGDPを大きくしたいということです。先ほども言ったように、日本はスタートアップも含めてまだまだ伸び代があると思うので、そこは本当に期待しています。

取材・文/太田百合子

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