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【今月のマストリードな…5冊!】受賞作以外にも良作多数!第169回直木賞を振り返る

2023.07.27PR

渋谷駅の混沌状況が気になっている方へ 冲方丁『骨灰』(KADOKAWA)

渋谷駅の再開発事業にたずさわっている大手デベロッパーに勤務する入社10年の中堅社員・松永光弘を主人公にしたホラー小説です。

光弘が調査のために地下に潜った渋谷駅東口に建設される高層ビル、通称「東横」で起きた怪異が、やがて、光弘が妻子と暮らす家にまで波及します。小学校1年生の娘が「みえないおきゃくさん」と呼ぶ謎の存在。拭いても拭いても積もる灰のような粉塵。乾いた異臭。死んだはずの父親の出現。

舞台を今まさに混沌の極みにある渋谷駅とその周辺に選ぶことで、臨場感あふれる恐怖が味わえる作品といえましょう。

『骨灰』
冲方 丁/著 KADOKAWA 1980円

下北沢周辺の開かずの踏切が懐かしい方へ 高野和明『踏切の幽霊』(文藝春秋)

主人公はかつては全国紙の社会部遊軍記者だったのに、2年前に愛する妻を亡くして以来ふぬけのようになってしまい、「月刊女性の友」という雑誌で取材記者をしている54歳の松田法夫です。その松田が記者として雇い続けてもらえるかどうか、最後のチャンスとして編集長から与えられたのが心霊ネタの取材。

そのひとつが下北沢三号踏切で撮られた心霊写真で、松田は若手カメラマンの吉村と共に取材をすることになります。すると、この踏切では真夜中に何度か、電車が警笛を鳴らして急停車することがあることがわかるんです。

はじめのうちは軽い気持ちで取材をしていた松田だったのですが、夜中の1時3分にかかってきた電話で若い女の苦悶のうめき声を耳にするという恐怖体験をしたことから、この一件にのめりこんでいくことになります。

すると、下北沢3号踏切では過去2年間人身事件は起きていないにもかかわらず、電車の非常停止はこの1年間に集中していること、1年前に踏切の近くで若い女性が殺されるという事件があったことが判明。殺人事件が発生したのは1993年12月6日の午前1時3分。松田は殺人事件の被害者と心霊写真の女が同一人物であることを確認して総毛立ちます。女の身元が判明していないということを知った松田は、被害者である彼女が何者であるのかを知りたいと調査を続けるのですが——。

ここまでが全体の3分の1。以降は、女性の正体と事件の真相が明らかになる過程が描かれていくことになります。最初はホラー小説の雰囲気をまとっていますけど途中からミステリーの味わいが強くなり、女性の謎が判明していくにしたがって哀れを誘う人情噺のような方向へと変化していきます。幽霊で怖がらせようとするのではない、幽霊を悼むタイプの小説です。

『踏切の幽霊』
高野 和明/著 文藝春秋 1870円

ライトノベルやキャラクター小説が好きな方へ 月村了衛『香港警察東京分室』(小学館)

日本と香港の両警察間で締結された継続的捜査協力に関する覚書に沿って新設された部署「警視庁組織犯罪対策部国際犯罪対策課特殊共助係」。蔑称「分室」。その分室に与えられた任務が、日本に潜伏しているキャサリン・ユー元教授を捜し出し、香港に送還すること。ユー教授は2021年に香港で起きた422デモで大衆を扇動した首謀者であり、逃亡に際しては自分の助手を殺した殺人容疑をかけられているという設定です。

教授を探すため日本と香港の警察官10名がコンビを組んで捜査を行うのですが、そのキャラクター造型が見事にして魅力的。はじめのうちはお互い手の内を明かさないもんだからチームワークは最悪なんですが、そんな中、生きるか死ぬかというドンパチ事件が起き、それと共に、香港警察サイドも驚くような中国政府の思惑や、リー教授がデモを扇動したばかりか裏社会組織の密輸にまでかかわっていったという真相が明らかになっていくんです。

この物語の背景にあるのは、かつて「民主はないが自由はある」という自負を持っていた香港が、中国に返還されることによってかつての自由を失い、「一国二制度」という自治も失われていっているという現状です。で、終盤で、ある登場人物に「日本は香港と同じ道をたどっている。しかも恐ろしいまでの早足で、なんの疑いも抱かずに。何もかもが腐食し、こんなにも悪臭を放っているというのにです! 私達は分かっていた。だから全力で抵抗した。あなた達は権力に対してどこまでも従順であるばかりか、抵抗する人、疑問を投げかける人を皆で嘲る。進んで自由を投げだそうとする」と言わせることで、われわれ日本人にも問題提起しようとしている。そういう大きく深刻な問題を背景にしながらも、アクションシーンのド派手な描写とキャラクター小説のような筆致でエンタメとしての読みやすさを確保しているのが美点なのです。

シリーズ化必至。猛暑を吹き飛ばしてくれる痛快小説です。

『香港警察東京分室』
月村 了衛/著 小学館 1980円

文/豊崎由美(書評家)
暑いですねえ。やきとん屋でホッピーをがぶ飲みしたい、話題の宮崎駿の新作が観たいと思いながらも、外に出る勇気がなかなか出ない7月です。

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