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世界で注目を集める対人能力を伸ばす教育メソッド「SEL」は日本でフィットするか?

2023.07.25

他者認知(対人認知)やヒューマンスキル

他者認知は前述の自己認知とは対極にある言葉で、「対人認知」ともいわれる。他者認知能力は、他人の発言や行動などをもとに内面的な特性を読み取る “感度の高さ” を指す。

自己認知よりも歪みや誤解が発生しやすく、他者認知で生まれた認識と実際の人物像とで齟齬が生じることも少なくない。他者認知能力が高まると、実際の人物像に限りなく近い形で他者の内面をとらえることができたり、少ないヒントから他人の気持ちを慮ることができるようになる。

ヒューマンスキルは、他者認知を基に良好な関係性を築き、場を円滑に進めるためのスキルだ。「対人関係能力」や「コミュニケーションスキル」と言い換えられる。

これらは特にマネジメントを行う立場の人間にとって重要なスキルだといわれることが多い。

意思決定力

意思決定力とは、何かを判断し、選択する力のことだ。「決断力」などとも言い換えられる。意思決定をスムーズに行うためには、問題(決断が必要な事柄)に対する素早い認識や理解、分析と判断をするための知識や地頭が必要になる。最終的な意思表明をするためには対人能力も重要だ。

この場合の「意思決定」によって導き出される最適解は、自分の利益のみを優先したものではなく、他者のことを考えた倫理的なものでなければならない。無責任な決断をするだけでは意思決定力があるとはいえないのだ。

意思決定力が高い人は、導き出した解に対して責任をとる覚悟がある人だ。一時は誤った解を出してしまったとしても投げ出さず、リカバリーしながらやり遂げる忍耐力や対応力なども兼ね備えている。

SELの具体的なトレーニング内容

非認知能力の向上を目指すSELでは、一般的な教育のように偏差値アップやSTEM分野の能力向上のための指導を行うことはない。

多くのSELのプログラムでは、以下の5つの領域の実践が目標として設定され、それに沿ったトレーニング内容が組まれる。

1. Self-awareness(自己認識)
2. Self-management(自己管理)
3. Social-awareness(他者認識)
4. Relationship skills(対人能力)
5. Responsible decision-making(責任ある意思決定)

実際に行われている自己認識のトレーニング例として「信号機」のイラストを使ったものがある。信号機の赤・黄・青をそれぞれ感情に見立てて、自分の気持ちを分析するのに使うのだ。

※画像はイメージ

赤→激しい怒り、不安、恐怖
黄→鬱屈している、不満が募っている
青→リラックス

例えば「赤」のときに自分はどのような行動をとってしまうのか、どのような場面で自分は「赤」になってしまうのかなどを書き出したり、子供同士でディベートしたりする。子供たちが客観的に自分の感情を量ることができるように、「こころの信号機」と題したイラストが教室の目につく場所に貼ってあることもある。

他にも、自己管理のトレーニングで「Comfort Corner(Comfort Station)」と呼ばれるスペースを利用する方法がある。教室の一角の静かな場所に椅子やソファ、テーブルなどが置かれ、怒りや不安などで子供の感情が高まったときに「安心できる」場として使われるのだ。

Comfort Cornerはいつでも誰でも利用することができ、自分から行くこともあれば行くことを促されるケースもある。本や五感を使ったおもちゃなどが一緒に置かれ、Comfort Cornerに移動した子供は自分を冷静にすることができるまでそこで静かに過ごすのだ。

海外と日本のSEL導入事例

アメリカの教育現場では1960年代頃からすでにSELを導入しており、1990年代頃から本格的にトレンド化した。スタンフォード・オンライン・ハイスクールの学習プログラムのなかに、SELの要素がふんだんに取り入れられていることは有名だ。

近年は北米を中心にヨーロッパやアジア諸国にも広がりを見せており、株式会社グローバルインフォメーションの市場調査レポートによるとSELの世界市場規模は2027年に58億米ドルに到達する予測(※)だ。

世界中で注目を集めているSELだが、これまで日本ではあまり注視されていなかった。というのも、「他人の気持ちを思いやる」ことや「衝突が起きないように自己表現をする」ことは日本では教育によって学ぶものではないという考え方が定着していたからだろう。昭和・平成世代では特に、家庭や学校での日常生活の中で自然と身に着けるべきものという意識が強かったのではないかと思う。

2023年現在は、日本でもSELへの関心が高まっている。2009年に発足された日本SEL研究会では、日本の学校事情に合わせたSELプログラムの開発や提供を行っている。

EQ(感情知能)の活用を広める活動を行うシックスセカンズジャパンでは、世界的なSEL先進校のメソッドを体系的に学べる教育者向けサマーキャンプの開催を予定している。岡山県総社市ではSELを小中学校の教育プログラムに積極的に取り入れる取り組みをしており、年間8~10単位時間程度の取得を目指すよう提唱している。他にも自由ヶ丘学園高等学校では教員向けSELワークショップを開催するなど、自治体や団体レベルでのSELに対する取り組みが広がっている。

※参照:SEL(社会性と感情の学習)の市場規模、2027年に58億米ドル到達予測|PR TIMES

SELは今後ますます発展が予想される教育トレンド

2018年には小中学校で道徳科が必修科目になるなど、日本でも子供の内面的な能力を教育によって伸ばす動きが出はじめた。

学力や技術的なスキルだけでなく、人間力や対人スキルがデキる社会人の能力として扱われはじめたこともSELのニーズが高まっている背景にあるだろう。

さらに近年では、「SEL 2.0」とも呼ばれる「SEE Learning(Social Emotional and Ethical Learning)」も注目されている。SELに加え、Ethical(倫理)に焦点を当て、慈悲やモラルなど社会生活において守るべき道理・価値観に焦点を当てた教育だ。

世界でも日本でも今後過熱が予測されるSELは、教育関係者でなくてもチェックしておくべき分野といえる。SELによって能力を身に着けることは社会人にとっても、また社会にとってもメリットが大きいように感じる。教育現場はもとより、家庭での子育てや社内での人材育成など、積極的に取り入れてみてはいかがだろうか。

■参考:
日本SEL研究会
SEL-8研究会

文/黒岩ヨシコ

編集/inox.

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