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過酷な宇宙に耐えられるのか?住友林業が挑む世界初「木造人工衛星」の打ち上げ計画

2023.07.20

木造の人工衛星――、本当にそんなものが可能なのか。NASAも、JAXA(宇宙航空研究開発機構)も、宇宙で木を使う発想はどこにもなかった。国際宇宙ステーション(ISS)の船外に、約10か月間さらした木片が2023年1月帰還。ほとんど劣化のないことが証明され、来年、木造の人工衛星の打ち上げを計画する日本人たちがいる。数千基の衛星で地球を広範囲にカバーするメガコンステレーション構想の具体化で、木製の衛星は斬新なイノベーションの可能性を秘めているのだ。

住友林業株式会社、筑波研究所住宅・建築2グループチーフマネージャー苅谷健司さん(53歳)。このプロジェクトの主要メンバーである彼の解説を聞いた。木の香りが漂う3階建ての研究所は、この会社の木造のビル建設の要となる工法を用い、2019年に竣工した。

“火星に植林”がそもそものきっかけ

「もともとは宇宙飛行士の土井隆雄さんが、京都大学の特定教授に就任し、『有人宇宙学』いう講座をはじめたことがきっかけでした。人間は大昔から木とともに進化してきた。火星に人類が移住するなら、樹木がなくてはならない。火星に植林して育った木で木造住宅を造ろうというのが土井さんの持論です」

苅谷健司は宇宙飛行士の土井隆雄の発想を語る。住友林業と京大農学部は木質空間が人間に与える影響等について、15年以上に渡り共同研究を行っている。担当の先生が土井隆雄のプロジェクトのメンバーだったことで、苅谷健司たち住友林業の研究員も、宇宙と木材というテーマに取り組むことになった。

酸素濃度が非常に少ない火星では、かえって地球より木の成長は早いかもしれない等、火星で木が育つかどうかのテーマは、資源グループの研究員が取り組んだ。宇宙と木に関して、京大グループと苅谷たちの議論は発展していく。

木は宇宙の環境にもやさしい

「今後、人類が宇宙に進出するにあたって、必ず宇宙の環境問題がクローズアップされる」 

NASA等が推進する有人宇宙飛行計画のアルテミス計画や、イーロンマスク率いるスペースⅩやアマゾンが開発する数千の小型人工衛星が結ぶ衛星ネットワーク、メガコンステレーションの計画が進行中である。

「“スペースデブリ”(宇宙ゴミ)は、すでに問題になっています」

「小型の人工衛星は1年ぐらいが寿命ですよ」

役目を終えた衛星が大気圏に突入する際、従来の金属などを使った衛星は微粒子を成層圏に残してしまう可能性もあります

「でも、木は大気圏に突入し燃え尽きても、CとOとHに分解されて、環境に悪影響を及ぼすことはありません」「地球にやさしい木材は宇宙にも優しいというわけか」

「よし、研究してみようじゃないか」

京大のグループと苅谷たち研究員の士気は、大いに盛り上がった。2020年4月には京都大と住友林業の共同研究、「宇宙木材プロジェクト」がスタートする。

宇宙に適した木材は?

木には温もりがある。揺らぎのある木目模様はメンタルヘルスにも、好影響を及ぼす実験データがある。

「クリーンなだけではなく、例えば木材をISSの内装に使えば、宇宙飛行士のメンタルに癒しを与え、国柄が異なる飛行同士の円滑なコミュニケーションの手助けになるのではないか」「木は熱伝導が低いので断熱性がいい。軽くて揺れても応力が小さくてすむ」研究を進める中で、木材を衛星に使う利点が次々と浮き彫りになった。

さて、人工衛星にはどんな木材が適しているのか。苅谷健司は言う。

「広葉樹の中の散孔材という種類の木の幹は、根から吸収した水分や養分を上部に送る、道管という細かい穴が散らばっている。反り返ったり割れたりしにくいのです。加工もしやすい特徴があって、版画の板、和菓子の型、野球のバット、ボウリングのピン等に使われています」

人工衛星の素材には、散孔材が適していると判断。住友林業は日本の山林の約800分の1、およそ4万ヘクタールほどを保有するが、全国に分散する自社林から20種類以上の散孔材を採集。宇宙に旅立つのに適した木を選別するため、京大の研究室で高温低温試験、真空試験等が繰り返された。

その結果、ダケカンバ、ヤマザクラ、ホウノキの3種が、寸法が変化しにくく割れにくい、人工衛星に適した木材としてピックアップされた。ダテカンバとホウノキは北海道・紋別から、ヤマザクラは愛媛県新居浜のいずれも社有林から切り出したものだが――。

宇宙に木材をさらす、曝露実験への道

選んだ木材に、放射線照射試験や振動試験を繰り返しデータ採集しても、実際に宇宙空間に木をさらしてみないと、本当のところはわからない。出来るなら宇宙空間で木材の曝露試験を行いたい。

それは研究グループの面々の一致した想いだった。ある日のことである。京大のグループが、宇宙での曝露試験のプロジェクトを可能にする道を見つけ出す。 

JAXAから選定された「ISS実験サービス」を提供する民間事業者を介すれば、ISSの日本の実験棟、「きぼう」の船外に木片をさらす、宇宙空間での曝露試験が実現できるというのだ。

道は大きく開けたのだが、この時点でNASAもJAXAも宇宙で木を使うという発想は、1ミリもなかった。宇宙空間に木片をさらす、人類初のプロジェクトである。当然、宇宙界隈の関係者から危惧の声が上がった。

万難を排して木片をロケットに積み込み、ISSの「きぼう」に運び、294日間の宇宙での曝露試験を経て結果を出し、次につなげていく物語は、明日公開の後編で詳しく。

取材・文/根岸康雄

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