日本企業の課題は変革による成果期待の低さ
実際に日本でのTERに対する取り組みはどうなのだろうか。アクセンチュアが制作した各国のスタンスの分類表では、取り組みレベルは7%で調査国の中では中位。グローバル平均が約8%なので他国と大きな差はない印象だ。一方でビジネスケース以上の成果を求める野心的な意思が日本は非常に低いという。他国では再創造企業の方が総じて高いが、日本は変革途上企業の方が大きいという結果が出ている。
売上拡大のパフォーマンス改善率の期待についても部分最適企業を100とした時に、ドイツでは再創造企業が約2倍の成果を出しているが、日本は部分最適企業と再創造企業の求めている成果があまり変わらない。コスト削減でも日本は、再創造企業も部分最適企業も変革途上企業も目標設定がそれほど変わってない。常識的に考えれば再創造企業の方が野心的で大胆な取り組みをしているにもかかわらず、目指している効果があまり高くないのが日本の特徴といえる。その要因に挙げられるのが、主導しているリーダーの役職。諸外国ではCEOが圧倒的多数で、次いでCOOやCFOといった人たちが推進している。一方で日本は「乱暴に言うと企業全体のパフォーマンスについて責任をもって考えているCEOなど以外の人が推進し、ボトムアップ型の変革という形になりやすく、成果をすぐ出さないといけないので一過性や短期的な成果を求めるような取り組みになりがち」(アクセンチュア)だという。こういった面もTERに取り組むと言っている日本企業が必ずしも高い成果を出していくことに野心や自信を持てない一因と考えられる。
新興テクノロジーに対するスタンスも各国と日本企業では違いがあるようだ。「メタバース/ウェブ3.0」「次世代インテリジェンス」「次世代コンピューティング」という3つのカテゴリーを1年以内に導入すると回答した人を国別にグラフ化すると、日本が性能の見えやすいものに偏ることがみえる。
「6か国のグローバル平均で「メタバース/ウェブ3.0」について半分ぐらいの企業は12か月以内に導入したいと考えている。一方で日本は23%で一番積極性が見受けられないカテゴリーになっています。「次世代コンピューティング」は、グローバルで7割以上が年内に導入すると回答しているが、日本企業も71%でグローバル平均とほぼ同じぐらい。「次世代インテリジェンス」も日本は55%でグローバル平均よりも若干低い程度。これは日本企業が物や性能など評価しやすいものは導入したいと考える一方で、社会そのものを変える可能性があるテクノロジーには二の足を踏んでしまうようなところが見受けられます。そういったものを積極的に取り込むことで高い成長を実現しようという発想が少し乏しいのでは」(アクセンチュアリ)
そのほかの日本企業の特徴としては、企業の持続性成長のカギになる人材やカルチャー醸成に対する認知も高くない。TERを推進するための障壁や課題について、投資余力、技術インフラ/レガシーシステム、経営陣の一体感、部門間のサイロといった項目はグローバル企業と日本企業の問題意識はそこまで差はない。グローバル企業で課題意識の高かった「変化志向のカルチャー」「経営陣のケイパビリティ」「パートナーとのエコシステム」については、日本企業は大きな課題感を認識していない。こういった差が生まれるのは、日本独特の意識などにも起因しているかもしれない。
迅速な対応や企業の変革で重要なエコシステムパートナーについても、グローバルと日本企業では差があった。再創造企業はビジネスパートナーを重要視しており、ビジネスパートナーを積極的に使いながら変幻自在の事業運営をしていくこともポイント。国別では、インド、中国、米国はTER戦略パートナーとしてビジネスパートナーを活用しているが、日本は4割程度しか活用していない。一方でクラウドサービスプロバイダーは63%で6か国中3位に入り、ERPアプリプロバイダーに関しては一番重視していた。日本企業はエコシステムパートナーについて、クラウドやERPなどはITや技術を買ってくる発想が比較的強く、一方でビジネスパートナーとの連携に対する意識は高くないと言える。こういった面は、TERを推進する上で改善すべき課題といえそうだ。
「日本を俯瞰的に見ると、まだ世界最大級の経済規模があり、高密度で多様な産業が集積しており、横断型のイノベーションに関してはまだ余地があると思っています。これからの日本企業には、CEOをはじめとした経営者が変革を指導し、企業にとどまらない業界・社会の変革につながるようなデジタル活用を考えて、企業組織のサイロをビジネスパートナーと見ながら共創型の働き方を進めていくことが求められていくと思います」(アクセンチュア)
CEOなどの経営者が陣頭指揮を執って方向性を明確にして、レガシー産業や非テック企業でも積極的なデジタル活用を行い、会社の組織や業界の枠を超えてパートナー作りと共創することが不確実性の社会で企業が持続的成長を続けるための条件になりそうだ。
構成/KUMU