外食事業は依然として黒字化できないワタミ
居酒屋店の中でも、明暗はくっきりと分かれました。大型の店舗を運営する会社が苦戦し、路面店などの小型店が有利になりました。
ワタミは2023年3月期に14億7,400万円の営業利益(前年同期は35億7,700万円の営業損失)を出しました。2期連続の営業損失を計上していましたが、黒字化に成功しています。
ただし、利益を出しているのは宅食事業の方。国内外食事業は未だ17億8,200万円の営業損失(前年同期は68億7,200万円の営業損失)。赤字幅は縮めているものの、事業単体で黒字化ができません。
ワタミは駅前のビルなどに店舗面積の広い大型店を出店し、1組単価の高い宴会客を中心に獲得して利益を得ていました。宴会客が戻り切っておらず、苦戦しています。
ワタミと近いビジネスモデルで、「庄や」や「やるき茶屋」などを運営する大庄も、2023年8月期上半期は8億2,300万円の営業損失(前年同期は33億7,500万円の営業損失)でした。
業績回復が鮮明なのが、鳥貴族ホールディングス。2023年7月期第3四半期は8億5,700万円の営業利益(前年同期間は25億8,200万円の営業損失)を出しました。
鳥貴族は2022年7月期4Q(2022年5-7月)の早い段階で黒字化に成功しています。
■鳥貴族営業利益推移
※決算説明資料より
鳥貴族は駅前などの一等地からやや離れた場所に出店し、宴会客ではなく少人数のグループ客を中心に獲得していました。更に2023年1月には「やきとり大吉」を運営するダイキチシステムを子会社化しています。
「やきとり大吉」は小型の路面店で、フランチャイズ加盟店が中心。買収後の鳥貴族は更に利益を出しやすくなりました。
居酒屋企業が再生可能エネルギー事業に進出
資金繰りに窮した飲食企業が、居酒屋以外の事業に注力するケースも見られます。
その典型的な会社が「なつかし処昭和食堂」を運営する海帆。この会社は「幸せな食文化の創造」という経営理念を掲げ、飲食店の運営に邁進していました。しかし、2022年10月に突如として再生エネルギー事業への進出を宣言。子会社KAIHAN ENERGY JAPAN合同会社を設立すると発表したのです。
その後、太陽光発電所の買収や売電価格集計システムの共同開発など、この分野で意欲的に活動しています。
ただし、この急激な事業転換は株主の意向が強いように見えます。
海帆は2020年3月期に6億9,500万円の純損失を計上し、3億1,500万円の債務超過に転落しました。更に2021年3月期には10億6,600万円の純損失を計上。債務超過額が6億4,600万円まで膨らみます。
それを救済したのが、吉川元宏氏。この人物は海帆の第三者割当増資を引き受け、5億円の資本金組入に貢献しました。現在は筆頭株主で、海帆の株式を26.39%保有しています。
吉川氏は富士オイルなどエネルギー畑の出身者で、飲食経験者ではありません。
海帆は2022年3月に吉川氏を取締役の候補者に選出。臨時株主総会で選任されると、同年7月の取締役会で、吉川氏は代表取締役副社長に就任しました。
議決権においても圧倒的な支配力を持ち、代表権も持つに至ったのです。
上場企業を中心に、増資による資金調達を免れない会社も数多くありました。その影響で、事業転換や新規事業の立ち上げを行う飲食企業が今後も出てくるかもしれません。倒産、再編、別事業への進出と、業界地図が様変わりする可能性があります。
取材・文/不破 聡