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厚生労働省が基準見直しへ、カスハラが労災認定に向けて動き出す中で問われる企業姿勢

2023.07.17

近年、企業が顧客から受けるクレームの中には悪質なものがあり、中でもカスタマーハラスメントは、いわゆるカスハラとして社会問題の1つとなっている。

記憶に新しいところでは、休憩中にサービスエリアで食事をした高速バスの運転手が乗客からクレームが寄せられたという件がネットで議論となった。

今回はそんなカスハラについて、アイデムの研究部門である「アイデム人と仕事研究所」から法的観点などから解説したリポートが到着したので、その概要を紹介したい。

カスハラが労災認定される可能性

先日、厚生労働省の「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」において、労災認定基準の見直しの報告書案が示され、カスハラが追加されるとの報道があった。

具体的には、精神障害の認定基準として具体的な出来事を列挙した「業務による心理的負荷評価表」の中に、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」場合が追加され、カスハラが労災として認定される可能性が明確化されるという。

厚生労働省によると「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」がカスハラと考えられるとしている。

その具体例として、下記のようなものが挙げられている。

<例>顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合
・企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合
・要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合

<例>要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動
・身体的な攻撃(暴行、傷害)
・精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉棄損、侮辱、暴言)
・威圧的な言動
・土下座の要求
・継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動
・拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
・従業員個人への攻撃、要求

カスハラは増加傾向

近年、クレームは増加傾向にあるようだ。少なくない人が店舗スタッフや駅員に怒りをぶつけている場面や、無理な要求をしている消費者を、リアルにあるいはSNSなどで目にしたことがあるのではないか。

クレームが増加している理由としては、手軽に情報発信できるSNSなどのツールの浸透で不満や苦情を企業や世間に訴えやすくなっていること、また顧客の権利意識の向上で、企業に高度なサービスレベルを要求するようになったことなどが考えられる。

また、コロナ禍によるストレスでほんの些細な不満でも、販売スタッフやサービススタッフらに矛先を向けている面もあるかもしれない。

以下の図表は、日本労働組合総連合会(連合)が2022年11月に、18歳~65歳の被雇用者またはフリーランスで、直近3年間で自身もしくは同じ職場の人がカスハラを受けたことがある人1000名に実施した調査の一部だ。

(連合「カスタマー・ハラスメントに関する調査2022」より引用)

同調査で直近5年間で「カスハラの発生件数や深刻さに変化があったと思うか」を聞いた設問では、発生件数の変化について「新型コロナウイルス感染症拡大に関係なく増加した」が13.8%、「新型コロナウイルス感染症拡大で増加した」が23.1%となり、「増加した」は合わせて36.9%となった。

深刻さの変化でも、「増加した」は合わせて36.5%となり、「増加した」はそれぞれ約4割にも上っている。

また、直近3年間で自身がカスハラを受けたことがある人に聞いた別の設問では、「カスタマー・ハラスメントを受けたことで生活上に変化があった」は76.4%。さらに、生活上にどのような変化があったかでは、「出勤が憂鬱になった」38.2%、「心身に不調をきたした」26.7%、「仕事に集中できなくなった」24.3%、「眠れなくなった」17.6%と続き、「仕事をやめた・変えた」も10.5%となっていた。

これまで日本では、「お客様は神様」という価値観に基づき、顧客の過剰ともいえる要求を聞き入れてきたケースもあり、これらの対応が、カスハラを助長してきたようにも感じられる。

上記のアンケート結果からは、深刻な状況が垣間見え、冒頭の精神障害の労災認定基準にカスハラが加えられることは、大いにうなずける。

カスハラに対する企業取組の位置付け

職場におけるパワーハラスメントについては、2019年5月に成立した「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律(以下「改正法」という)」において、ハラスメント対策が強化された。

また、改正法により労働施策総合推進法が改正され、大企業は2020年6月1日から、中小企業は2022年4月1日から、事業主に対して、職場におけるパワーハラスメント防止のために雇用管理上講ずべき措置が義務化されたのだ。

一方、カスハラについては、改正法の付帯決議において、カスハラについての記載が盛り込まれたことなどを踏まえ、2020年1月に「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)が策定され、顧客等からの著しい迷惑行為に関し、雇用管理上の配慮として事業主が行うことが望ましい取組の例として、以下が規定された。

(1)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
(2)被害者への配慮のための取組(メンタルヘルス不調への相談対応、行為者に対して1人で対応させない等)
(3)被害防止のための取組(マニュアル作成や研修の実施等、業種・業態等の状況に応じた取組)

上記の取組は義務ではないものの、事業主が自社の従業員の就業環境を守るために雇用管理上の配慮として必要なものであり、また従業員の被害を未然に防止する上では大変重要だと考えられる。

従業員を守る企業姿勢が大切

2022年2月に厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を発表したことで、社内でのカスハラ対応の体制作りとともに、会社の基本方針、基本姿勢を明確に示す企業も増えてきているようだ。

2022年10月には、任天堂が「修理サービス規定/保証規定」にカスハラに対する項目を初めて盛り込んだことが話題になった。

本来、顧客からのクレームは商品、サービス、接客態度等に対して不平不満を訴えるもので、それ自体が問題ではない。クレームを業務改善や新たな商品・サービス開発に活かすことで、顧客とのつながりをより密接にするきっかけともなるからだ。

一方、不当で悪質なカスハラは、従業員に過度の精神的ストレスを感じさせるとともに、その対応に時間がかかるなど通常の業務に支障が出てく。

また、他の顧客の利用環境や雰囲気の悪化なども招きかねず、企業や組織に金銭、時間、精神的な苦痛等を与えることが考えられる。

そのようなことを回避するためにも、今後企業は、社内におけるカスハラ対応の取組とともに、カスハラに対する不当な要求や行為を「断る」という企業メッセージで従業員を守る姿勢を明確に社内外に示し、従業員に安心感を与えることが非常に重要になってくる。

企業がカスハラ対応に積極的に取り組むことは、離職を防ぐことにつながり、ひいては企業の対応に安心感を抱く人材の確保にもつながると考えられる。

出典/アイデム人と仕事研究所「労働ニュースに思うこと :カスハラが労災になる?~問われる従業員を守る企業姿勢~」(執筆者・東日本事業本部 データリサーチチーム所属 小杉 雅和氏)

関連情報
https://apj.aidem.co.jp/cgi/index.cgi?c=column_zoom&pk=2036&sk=1

構成/清水眞希

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