こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
裁判例をザックリ解説します。
会社
「始末書を出してください」
Xさん
「・・・」
会社
「あれ、、、始末書を出してください」
Xさん
「・・・」
会社
「あの〜、始末書を出してください」
Xさん
「・・・」
会社
「だ・か・ら!始末書を出してください!」
Xさん
「・・・」
会社
「解雇だ!」
みたいな事件です。
ーーー 裁判所さん、どうですか?
裁判所
「たしかにXさんも悪いとこあるんだけど」
「解雇はダメだね」
「会社さん、バックペイ500万円支払いなさい」
以下、分かりやすくお届けします(カジマ・リノベイト事件:東京地裁 H13.12.25)
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
登場人物
▼ 会社
・土木建設構造物の補修などをする会社
・従業員 約20名
▼ Xさん(女性)
・工事現場のマネジメントを行う仕事
(見積もり、契約、出来高管理など)
どんな事件か
入社から約1年4ヶ月がたったころ。会社はXさんの仕事の進め方などに不満を持っていて、それが頂点に達したのでしょう。4回の【けん責】処分を発動させます。
Q.
けん責処分って何ですか?
A.
コラー!と叱って始末書を提出させる処分のことです。懲戒処分の中で軽めの処分ですね。
順に見ていきましょう
▼ 1回目のけん責処分
会社がXさんをけん責処分にした理由は、以下のとおり。
・理屈をつけて残業をする
早く切り上げるように指導しても聞き入れず
・副部長に向かって「あなたは頭が悪いのではないか」と発言
…etc
ーーー 副部長!何でこんなことを言われたんですか?
副部長
「Xさんの言い分によると『ある工事の支払条件について私が何度も同じことを聞いてきた』からのようです」
ーーー ブチギレましたか?
副部長
「上司に対する物の言い方として不適切でしょうと注意しました」
ーーー クール!私ならブチギレますね。人間できてないので。
Xさんは始末書を提出しませんでした。
▼ 2回目のけん責処分
2回目の処分理由は、以下のとおり。
・部長の業務命令を聞き入れず、終始、自己弁護。
独り言を声高に語る
・コピーを断る
社員からコピーをとるよう頼まれたが、上司から他の業務を優先するよう言われてるとして断る。その際、その社員に対して「居眠りばっかりして、そんな時間があれば自分でコピーしなさいよ」と答えた。部長は謝りなさいと言ったが、Xさんは謝らず
…etc
そして、今回も始末書を提出せず。
▼ 3回目のけん責処分
3回目の処分理由は、以下のとおり。
2回、始末書の提出命令を受けたが提出せず。
部長が催促したが、平然と「やっていません」と答えた
…etc
▼ シュレッダー事件
この3回目のけん責処分のときです。上司がXさんに通知書を手渡したんです。そして今回も始末書の提出を求めました。
すると!
Xさんは、部長の前で通知書をシュレッダーにかけました。
おめでとうございます!かなりのヤンキーで賞!
▼4回目のけん責処分
これまでのもろもろのXさんの対応を理由に、会社は4回目のけん責処分を出しました。今回もXさんは始末書を出さず。
▼ 解雇!
その約2ヶ月後、会社はXさんを解雇します。
ジャッジ
Xさんの勝ちです。
ーーー 裁判所さん、ご説明をお願いします。
裁判所
「まずですね。Xさんが起こした事件は、以下の、解雇事由に当たりますね。上司の指示、指導、注意に率直に耳を傾け、上司の意見を採り入れながら、円滑な職場環境の醸成に努力するなどといった姿勢に欠ける面があったからです」
就業規則
勤務成績または能率が著しく不良で、就業に適しないと認めるとき
ーーー え!じゃー解雇はOKなのでは?
裁判所
「いやいや、就業規則の解雇事由にあたる=解雇OK【じゃない】んです。そんなカンタンな話じゃないのです。以下の条文があるからです」
労働契約法16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする
■ 解説
解雇って、マジでムズいです。この法律がああるので、そんなに簡単にOKになりません。
裁判所
「そうなんです!今回の解雇は権利濫用なのでダメですね」
〈理由〉
・上司と部下の意見の対立や行き違いが原因にすぎない
・社会通念などの観点から重大な問題とまでは言い難い
・会社が、一連のけん責処分に対するXさんの反論を見極めて、Xさんと対話をするなどといった方策を十分に講じたとは認め難い
・けん責より重い減給、出勤停止などの懲戒処分ができたのに発動させていない
解雇ダメ〜となると、会社に鉄槌が振り落とされます。
▼ 衝撃のバックペイ
裁判所は会社に対して、過去の給料約555万円の支払いを命じました(4年半分)。これをバックペイといいます。
Q.
バックペイって何ですか?
A.
過去にさかのぼって給料がもらえることです。具体的には【解雇された日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料】のことです(民法536条2項)。
Q.
転職してしまった場合は、どうなるんでしょうか?
A.
転職したとしても基本、6割の給料をもらえます。ただし「元職場に戻る意思がある」と認定できる期間分だけです。裁判官が「もう戻るつもりないよね」と認定した時点以降はもらえません。でも、かなりデカイですよね。会社からすれば衝撃です。
▼ おまけ
解雇がOKになった裁判を1つ紹介します。オンライン会議中にゴルフスイングをした人が解雇された事件。詳しくはコチラ
さいごに
「始末書を出さねーから解雇!」は、ほぼ無理だと思います。
▼ 相談するところ
もし会社から「言うこと聞かないなら解雇しちゃうよ〜と」オラつかれてる方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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