再生可能エネルギー関連の会社が高値で取引されています。
火力発電所の運営会社であるJERAとNTTが、風力発電所などの再生可能エネルギー会社グリーンパワーインベストメントを共同で買収すると5月18日に発表しました。
驚くのはその金額。3,000億円もの巨額買収となります。
ENEOSホールディングスも再生可能エネルギーを扱うジャパン・リニューアブル・エナジーを2,000億円で買収していました。
火力発電所や石油関連企業など化石燃料に依存している巨大企業が、脱炭素化に向けた事業再構築を急いでいる姿が浮かび上がります。
再生可能エネルギー分野で遅れをとった国内トップの発電会社JERA
JERAとNTTが買収したグリーンパワーインベストメントは、2022年12月期の売上高が83億1,200万円、純利益が11億5,100万円の会社。純資産は217億7,800万円です。仮に一社が3,000億円で買収したとすると、2,800億円あまりがのれんとして計上される途方もない金額です。
JERAは2023年3月にもベルギーの洋上風力発電会社パークウィンドの全株を2,200億円で買収していました。
パークウィンドの操業中の発電容量は55.2万キロワット、グリーンパワーインベストメントは、(NTTの持分を含めても)33.7万キロワットに過ぎません。JERAが操業している全26の火力発電所の発電容量は6,600万キロワット。これだけ巨額の買収を仕掛けても、脱炭素に大転換できるわけではありません。
高値で取引されている背景として、風力発電の激しい勢力争いがあります。2021年末に秋田県、新潟県などの複数の海域で大型洋上風力発電プロジェクトの公募入札がありました。
このとき、三菱商事が異例の条件(安値)ですべての案件を獲得。JERAは敗退しました。
このプロジェクトの第2ラウンドの入札が今年の6月末に締め切りを迎えました。
グリーンパワーインベストメントが操業する青森県の陸上風力は、国内最大規模。小型の風力発電が中心の日本において、大型プロジェクトは希少価値があります。大型風力の実績を持つグリーンパワーインベストメントとタッグを組むことにより、JERAは入札を有利に進められる可能性があります。
JERAは再生可能エネルギー分野においては、他社に後れを取っており、焦りがにじんでいる様子もうかがえます。
三菱商事の成功パターンを各社踏襲か
三菱商事は2013年にオランダの風力発電所建設計画に乗り出しました。その後、中部電力と共同で、このプロジェクトを進めていたオランダのエネルギー会社Enecoを5,000億円で買収しています。
三菱商事は採算がとれるかわからない初期の段階からプロジェクトに参画し、M&Aによって立ち上げから建設、運用までの全工程を自社内に取り込みました。相当なリスクをとって、再生可能エネルギー分野に突き進んでいます。
リスクをとって得たノウハウが入札での総取りに繋がっているのだとすれば、その成功事例を踏襲すべく、他社が巨額のM&Aでノウハウを取り込もうとするのも頷けるでしょう。
2021年のENEOSホールディングスのジャパン・リニューアブル・エナジーの買収は2,000億円でした。この会社は2020年12月期に9億1,200万円の純損失を計上しており、純資産額は397億1,700万円でした。およそ1,600億円をのれんとして計上したことになります。
当時、ENEOSは再生可能エネルギーによる発電容量が13万キロワットほど。JERAと同じくこの分野では大きく遅れをとっていました。
ENEOSはこのM&Aを「時間を買った」と表現しています。買収で手っ取り早くノウハウを得る対価として、高い手数料を払っているという感覚なのでしょう。
ジャパン・リニューアブル・エナジーの売り手はゴールドマン・サックス。この会社は2013年に日本で3,000億円規模の再生可能エネルギー分野への投資を行う方針を示していました。
その先見性は流石の一言に尽きます。
旧村上ファンドから再生可能エネルギー事業のスピンオフを進言されたコスモ
再生可能エネルギー事業を巡っては、経営リスクになることも顕在化しました。コスモエネルギーホールディングスとアクティビストファンド・シティインデックスイレブンスとの対立です。
シティインデックスイレブンスは旧村上ファンド系の投資会社で、関連会社などとともにコスモの株式を20%程度保有しています。
コスモは「Vision 2030」において、グリーン電力の強化、次世代エネルギー、低炭素化で新たな価値を創造すると宣言していました。特に風力発電に対する意気込みは強く、現状の化石燃料に依存したビジネスモデルからの脱却を図るため、3,000億円規模の投資を行い、風力発電で150万キロワットまでの引き上げを目標に掲げています。
ただし、実際に稼働している風力発電は30万キロワットに過ぎません。コスモの経営陣は風力発電事業に強い期待をかけているのです。
シティインデックスイレブンスは、再生可能エネルギーをコスモから切り出し、独立させて上場するべきだと訴えました。
これは、コスモのPERが6倍、PBRが1倍を下回るなど、市場の評価が低いことと関係があります。シティインデックスイレブンスは再生エネルギー事業のPERは25倍程度であり、評価額は2,450億円になるといいます。コスモの傘下にあると、適正な市場の評価が得られないと主張しているのです。
コスモの経営陣はこれに猛反発しました。中長期的な成長を担う再生可能エネルギー事業を上場させる業務遂行上のメリットがないからでしょう。
コスモの経営陣はアクティビストからの株主提案で、混乱に陥りました。ひとたび目をつけられると、円滑な経営を行えなくなります。
再生可能エネルギーは、脱炭素という時代において、高値で取引されるようになりました。それだけに、巨額ののれん減損損失リスクや、アクティビストにつけ入る隙を与えるなど、経営上のリスクも孕んでいます。
取材・文/不破 聡