■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、アメリカのスマホメーカー「orbic」の日本上陸について会議します。
ミドルレンジのスマホの開発が難しくなってきた
房野氏:2023年6月はモトローラやOPPOのミドルレンジスマホが相次いで発表されました。どう思いましたか?
石川氏:iPhone 14とiPhone 13しかり、「OPPO Reno9 A」しかり、ハイエンドモデルは別として、1つのチップセットを2年ぐらい使うというトレンドになってきつつあるのかなと。
法林氏:チップセットにお金をかけるんだったら、ディスプレイやカメラのイメージセンサーにお金をかけた方が得。
石川氏:そうですね。しかも、チップは毎年進化するものじゃなくて、むしろたくさん作って安くして、できるだけコストを上げない方向に行っている感じがしています。
石野氏:OPPO Reno9 Aや「moto g52j 5G Ⅱ」が使っているSnapdragon 695がちょっと特殊というか、クアルコムが後継をなかなか出せないというか出していない状況で、メーカーもちょっと困っているところがある。
法林氏:OPPO Reno9 Aは、発表直後に「買う必要性なし、前のモデルと同じ」と書かれている記事があって、かわいそうな気がするけどね。
石野氏:モトローラに取材に行ったんですけど、「ウチはガワだけ変えたようなものは出すつもりはありませんから」とキツい一言がありました。
法林氏:そういうモトローラも、「moto g13」と今度の「moto g53j/moto g53y 5G」は中味が同じで、5Gと4Gの違いだけだからね。
石野氏:前モデルの「moto g52j 5G」はメモリだけを増やした「moto g52j 5gⅡ」にして継続販売するらしいです。 Reno9 Aのように、ガワを作り直してメモリだけちょっと増やして出すんだったら、去年のモデルを安くしてもっと売るという手もあるのかなと思いました。新機種としてなぜ置き換える必要があったんだろうとは少し感じたところ。
石川氏:でも、メディアとしては新製品を出してくれた方がいい。出さなかったら出さなかったで「OPPOは大丈夫か」って話になるし。
石野氏:去年からの円安と物価高、半導体不足で、ミッドレンジモデルがすごく作りづらくなっていることを感じています。ヘタに作るとFCNTのように原価率が高くなり過ぎてつぶれちゃいますし、やり方によっては、OPPOのようにガワを変えただけとか、逆に値段が高くなっているとか、去年と比べられるじゃないですか。
モトローラはモントローラで、Y!mobileから専用モデルが出るmoto g53j/moto g53y 5Gは、チップがmoto g52jの時のSnapdragon 695から400番台のSnapdragon 480に下がっちゃっていて、安くはしているんですけど5000円しか違わないような状況になっている。
円安と物価高、半導体不足がまとめてきちゃったせいで、1年前の状況からガラッと変わって、ミッドレンジ端末を作りづらくなっている。今年買わせるミッドレンジを作ろうとすると大変だなとすごく思いましたね。
石川氏:総務省には早く割引の上限を4万円に上げて、安く買えるようにしてもらわないと。
法林氏:そうするとまた4万円割引で1円で売れるような端末が作られる。
石川氏:総務省が割引の値段を決めて、メーカーがそれに合わせて端末を作る。やっぱりあの仕組みっておかしいなと思いますよね。
法林氏:そうだよね。
房野氏:なぜどの端末も割引上限が決まっているんですか? 端末価格に応じた割合ではいけないのでしょうか。
石野氏:端末割引の上限はドコモ案が採用されて、ARPUと営業利益率の平均、端末の平均利用期間をかけ算したものになっています。それが、端末の利用期間が伸びている、ARPUは落ち着いている、利益率もちょっと上がっているということで、最新の状況に合わせたと。過去、割引上限が2万円になった時は、最初、ドコモが3万円と計算したのに、「もう一段下げよう」ということで2万円になった。なんだそれって感じ(笑) 会議では「もう一声」としか言っていなかったのに、資料を見ると「今後のARPUの低下などを見込んで」とか書かれていて、すごい理屈付けだと思った。
石川氏:そんなことでFCNTがなくなっているんだから、もっと責任を持ってくれと言いたいですよね。
日本のスマホメーカー存亡の危機
房野氏:FCNTの民事再生申請はショックでした。
石野氏:衝撃でした。
房野氏:BALMUDAが携帯電話事業をやめたのとは、ワケが違いますよね。
法林氏:全然違う。
石川氏:記事とかで一緒に扱いたくないなと。
法林氏:FCNT、BALMUDA、京セラの3社とも一緒にはくくれない。それぞれ事情が違う。
石野氏:違いますよね。FCNTは突然だし、京セラはそうなる前にちゃんと撤退している。
法林氏:FCNTは完全に破綻ですからね。お金が本当にないので払えない。債権ですでに問題になっている。
石野氏:債権、払わない方向に行っている感じですよね。
法林氏:FCNTの端末事業をどこかが買い取るという話が出るかと思いきや、誰も買えない。理由があって、FCNTとして独立する時、投資ファンドがお金を出したじゃないですか。あの800億円がデカすぎて、誰もお金を出せないそうです。
石川氏:FCNTのような通信技術を持っている日本メーカーがいなくなってしまうと、今後「IOWN(アイオン)」(NTTが発明した「光電融合技術」を用いる、大容量、低遅延、低消費電力を兼ね備えたネットワーク・情報処理基盤構想)をやる時にどうするのかなと思ってしまう。「IOWNの基礎技術ができました、端末を作りましょう」となった時に、「じゃあOPPOさん、お願いします」って流れにはならないと思うので。本来はNTTグループが日本メーカーを支えておくべきというか……ケータイ時代の4社(富士通、三菱電機、松下通信工業、NEC)じゃないけど。
房野氏:1社くらい残しておかないといけなかったんじゃないかと。