次なる市場の担い手として、消費をけん引していくと期待されているZ世代。デジタルに慣れ親しみ、多様な価値観を持つ彼らの存在を抜きにして、今後のマーケティングを考えるのは難しいでしょう。
株式会社電通プロモーションプラス内で組織された「若者消費ラボ」は、若手メンバーを中心とした企画調査型ユニット。Z世代当事者も多く、世代ならではの視点で若者向けの販促課題のソリューションを提供しています。今回は、所長を務める五十嵐響介氏、若手メンバーの高橋ひなの氏、齋藤晃平氏の3名にインタビューし、若者消費ラボの取り組みなどについて詳しく話を聞きました。
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※こちらの記事はビジネスを成長させる「変革のヒント」をお届けするマーケティング情報サイト「Transformation SHOWCASE」からの転載記事になります。
若者の買い物体験を設計するプランナー集団
Q.若者消費ラボの中で、五十嵐さんは所長というポジションを務めていますね。まずは「若者消費ラボ」とはどのようなチームなのか、立ち上げの経緯について教えてください。
五十嵐:若者消費ラボは、今でこそ全社横断の組織として活動していますが、元々は、2020年頃に旧電通テックの中で若い世代が起点となり、数名で立ち上げた有志チームです。私たちの最大の強みである「若さ」を武器に、若手のプランナー集団を立ち上げよう、という思いでスタートしました。
Z世代やミレニアル世代は、消費の次期コアであると言われています。さらに、近年は「多様性」もキーワードになっている。多様性あふれる社会で、特定の商品やサービスを買っていただくためにはどうすればいいのか。そうした視点から、若者の買い物体験を設計し、企業が抱える販促課題を解決するソリューションを提供するチームとして活動しています。
株式会社電通プロモーションプラス 五十嵐 響介
統合プランニング事業部 プランニング・CR2部 / コミュニケーションプランナー、PRSJ認定PRプランナー
プランナーとして、SNS/PR/リテール・コマースを組み合わせた販促起点の顧客体験設計を一貫して手掛ける。2020年「若者消費ラボ」を立ち上げ。若年層攻略の企画立案に従事。
Q.立ち上げ当時は数名のチームだったとのことですが、現在は、どのようなメンバーで構成されているのでしょうか?
五十嵐:当初はプランナーを中心として活動していたのですが、いろんなお仕事を経験していく中で、いろんな役割を持ったメンバーがいる方が、より価値の高い仕事ができるという気づきがありました。今ではプロデューサーや、アートディレクターのようなクリエーティブに軸足を置いている人材も揃えています。現在は若手を中心に19名の組織になっていますね。
チーム内は「ユニット」で担当領域が分けられていて、現在は「SNS×店頭」「食」「コスメ」「アイドル」「コンテンツ」「SDGs」の6つがあります。食やコスメはZ世代にとって買いやすい消費財ですし、SDGsもまた、Z世代と切っても切り離せないキーワード。そしてアイドルやコンテンツが持っているパワーも強く、Z世代に響いていますよね。「自分たちがやりたいことは何か」という視点で、メンバー同士がフラットに話し合い、集まった意見をラベリングした結果がこの6つの領域だったのですが、結果的に若者消費ラボが扱うテーマとしてふさわしいものになったと思っています。
事例収集や自己分析を通して、Z世代の購買体験を調査
Q.齋藤さん、高橋さんは現在、入社2年目とのことで、まさにZ世代に当たりますよね。若者消費ラボの中では、どのような役割を担っているのでしょうか?
株式会社電通プロモーションプラス 齋藤 晃平
OMOプランニング事業部 プランニング・CR2部
主に小売り・飲料メーカーにおいて販促施策を中心にオンライン・オフラインを問わない統合的なプロモーション提案を手掛ける。入社1年目から若者消費ラボに所属し、若年層向け施策の企画立案にも従事。
斎藤:私は統合プランナーとして、6つのユニットのうち「SNS×店頭」に所属しています。「店頭に送客するためにはどのような取り組みが効果的なのか」がわれわれの課題なのですが、最近の取り組みの例を挙げると、「SNS購買自己分析」が大きなところでしょうか。
SNS購買自己分析とは、Z世代である自分がSNSをタッチポイントにして、実際に購買につながった体験を、カスタマージャーニーを描くような形で資料化するというもの。私自身の購買体験を振り返って、「こういうところが購買に至ったポイントじゃないか」という、リアルな分析をしています。
例えば、私が実際に服を買った時のフローを挙げると‥‥‥
①SNSでフォローしているインフルエンサーの投稿を見て「こんなブランドがあるのか」と興味を持つ
②ブランドのアカウントを見に行くも、購買にはつながらなかった
③後日、そのブランドの服を店頭で発見
④フォロー中のインフルエンサーの投稿で見掛けた、というタッチポイントの記憶から、その場で衝動買いした
このフローにおけるポイントは、そのブランド自体を知らない人は「投稿したインフルエンサー」=「その服のブランド力」と認識するという点です。私はそのブランドについて他の情報を持っていませんでしたが、好きなインフルエンサーが着ているということだけで十分な購買の理由となりました。そこで、商材によっては「インフルエンサーも着ています」という店頭POPや投稿画像をディスプレーして、SNSと店頭を連動させるのも効果的では、と分析しました。こういった形で定期的に、各々の購買体験についてまとめ、ソリューションとして生かせるようにしています。
Q.そこから実際の提案・実践にその知見を生かしていくような活動をしているのですね。高橋さんは、どのような活動をされていますか。
株式会社電通プロモーションプラス 高橋 ひなの
統合プランニング事業部 プランニング・CR3部
エンタメ、食品、流通/小売業など幅広い業種で、オンオフ統合プロモーションの企画やクリエーティブ制作に従事。得意テーマは「食、アート、ユース・カルチャー、レトロ」など。血湧き肉躍ることを求めてまい進中。
高橋:私はアートディレクター職として入社しましたが、個人的には統合プランナーとの両立を目指して仕事をしています。ラボの中では、「SNS×店頭」のほか、「食」「コンテンツ」ユニットの3つに所属しています。
「食」ユニットについてお話すると、実際の食に関する販促施策の事例を取り上げて、その概要や「プロモーションの反応としてどういう結果があったのか」「この施策が若者に刺さるポイントはどんなところだったか」などを言語化して、実際の案件へのブリッジができるように日々情報収集に励みながら、「次の施策」に生かせるポイントを抽出しています。その上で、実際に食に関するご相談を頂いた際には、先ほどのインプットを踏まえて、若者に刺さるプロモーションをご提案できるよう業務を進めていきます。
五十嵐:特に食に関しては「若者向けにキャンペーンをやりたい」といったご要望も多いですね。飲食店としての認知率は高くても、「若者が来ない」「ファミリー層が来ない」といった販促・経営課題を抱えている企業から依頼をいただくこともあります。どういうコンテンツを作ったら若者に来てもらえるのか。単なるキャンペーンではなく、来店から購買、さらにその後も買い続けてもらうところまでの全体のプランニングを行っています。
感情の動きに価値が生まれる時代。「エモ×販促」でZ世代の心をつかむ
Q.若者消費ラボが収集した事例の中で、特に注目しているトピックがあれば教えてください。
高橋:齋藤がお話しした「SNS購買自己分析」の中でも触れましたが、Z世代はSNSでの出会いが1つのタッチポイントとなり、購買に直結することも珍しくありません。いかに直感的に興味を持ってもらえるかが大事なので、Z世代を攻略するには、商品やサービスとの「出会わせ方」が非常に重要になってきます。そこをプランニングしていくための最重要キーワードとして、われわれが提唱しているのが「エモ販促」です。
「エモい」という言葉は、少し前なら「ノスタルジー」や「懐かしい」という意味で使われることが多かったのですが、最近はどんどん多義化しています。特定の感情ではなく「なんか良い」といった、言語化できない気持ちの高まりや心の動きを「エモい」という言葉で形容している、とわれわれは認識しています。
マーケティング視点で見てみると、これまで「モノ消費」「コト消費」「トキ消費」という流れがあって、今は感情の動きに価値を見いだす、つまり「エモを買う」時代ではないかと思っています。Z世代が商品やブランドに好意を抱くきっかけに「エモ」が大きく影響している、ということです。そうした流れを踏まえて、商品のコンセプトやパッケージにいわゆる「エモい」と受け取られるような要素を落とし込んだ「エモ×製品」や、グラフィックやコピーを対象とした「エモ×広告」が広がりつつある中で、次なる段階として、われわれは「エモ×販促」を最重要テーマに位置付けています。プロモーションやキャンペーンにエモい要素を落とし込むことで、例え商品そのものが「エモ」から距離があったとしても、Z世代に刺さる購買訴求を可能にすることが狙いです。
Q.なるほど。「エモい」をフックに、Z世代の感情に働きかけるのが有効なのですね。具体的にはどのようなマーケティング手法なのでしょうか?
高橋:エモ販促を成功させるためには、
①Z世代ならではの価値観や背景(コンテクスト)
②「エモい」と感じられる世界観やトーン&マナー(クリエーティブ)
③「エモさ」に結び付きやすいモーメントやイベント(トピックス)
④「エモさ」を引き起こすきっかけとなる動作や体験(アクション)
以上4つのポイントを押さえていくことが重要だと考えています。
五十嵐:「コンテクスト」の例で言えば、コロナ禍で友人との会話を楽しむことも、外に出ることさえもままならない、卒業旅行にも行けないなど、前後の世代と比べて「青春」というものをあまり楽しめなかったZ世代は多かったかもしれません。「青春」と「エモさ」は密接に関わっているので、青春を商品やサービスの力で取り戻す、という考えは重要でしょう。また「アクション」については商材次第ではあるものの、Z世代に刺さるアーティストを招いてライブイベントをするといった施策も考えられますね。
Q.「エモ販促」を提唱して、クライアント企業からの反応はいかがですか?
五十嵐:そもそもエモ販促を提唱したきっかけは、ある企業の広告担当者の方から、「エモい商品・広告」といった言葉はいろいろと聞くけれど、実際、どのように商品開発やマーケティングに生かせば良いのかと質問を受けたことなんです。企業としても、やはり興味のあるテーマなのだなと感じました。
「エモ×製品」「エモ×広告」と比べて、「エモ×販促」はまだまだ黎明期。われわれがその領域を開拓していくことには大きな意義があると思っています。若者に商品やサービスに興味を持ってもらい、実際に購買につなげるところまでをトータルでプランニングすることで、企業が抱える販促課題の解決に貢献できるのではないかと考えています。
CX領域にこだわり、「生活者とメーカー、リテールをつなぐ存在」になりたい
Q.「エモ販促」を1つのテーマとして、より活動の幅を広げていこうという段階かと思いますが、Z世代のお2人は、若者消費ラボの活動をする中で、気付いたことや感じたことはありますか?
高橋:会社という組織の中だと、やはり年次が浅いうちは「自らが良いと思い、取り組んでいくべきだと感じること」を推進していくのは、なかなかハードルが高いことのように思います。しかし、若者消費ラボという組織の中では「若者の当事者」として自分たちを主語に活動することができるため、挑戦できる貴重な場であり機会だと感じています。
齋藤:メンバーの多くはZ世代の当事者ではあるのですが、同じユニットのメンバー内でも感じ方や考え方が違ったりして、やはりZ世代は捉えどころがないというか、簡単には一括りにできない、という性質があると思います。私自身の行動でさえも言語化が難しく、Z世代攻略に苦戦する気持ちはよく理解できます。だからこそ、若者のインサイトを解き明かし、ラボとして体系化した考え方を構築していく活動には価値があるし、これからさらに深化させていきたいと考えています。
Q.それこそ「エモい」という言葉に代表されるような、言語化しにくい概念を可視化することが、今後のZ世代マーケティングにおけるポイントということですね。最後に五十嵐さんにお聞きしたいのですが、若者消費ラボとして、新たにチャレンジしていきたい領域や今後の展望についてお聞かせいただけますか。
五十嵐:あらためて若者消費ラボの強みを整理すると、2つあると考えています。1つ目は、Z世代のメンバーが多く在籍しているので、当事者としてZ世代のインサイトを踏まえた施策設計ができる点。2つ目は、メンバー1人ひとりが、若者消費ラボの活動とは別で、それぞれ自分の所属部署の案件を持っているという点です。つまり、飲料や自動車など、業種や業態を問わず経験値がある、ということです。この2つの強みを組み合わせることで、若者心をつかむ施策ができると考えています。
そうした中で、若者消費ラボが目指しているところとしては、「生活者とメーカー企業、リテールをつなぐ」存在になることです。電通グループが強みとしているAX(Advertising Transformation)領域はもちろんですが、Z世代というものを1つのテーマとしつつ、CX(Customer Experience)の領域にも強いこだわりを持って、購買に直結する体験設計やソリューションを提供していきたい。そして、CXを起点として、広告や販促などのAXの施策をどのように作り替え、拡張していくかということにも今後、チャレンジしていきたいですね。
「エモ製品」「エモ広告」をさらに拡張した領域として、若者消費ラボが注目している「エモ販促」。「エモい」という言葉の多義化に象徴されるように、その時の心の動きや気分の移ろいによって購買行動が変化しやすいのがZ世代の1つの特徴と言えるかもしれません。そんな若者の心をつかむ商品・サービスとの出会いを演出し、購買、ファン化までをトータルで設計することが、これからの施策のカギと言えるかもしれません。
※本記事の記載内容は2023年3月取材当時のものになります。
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
※こちらの記事はビジネスを成長させる「変革のヒント」をお届けするマーケティング情報サイト「Transformation SHOWCASE」からの転載記事になります。
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