『じゃらんリサーチセンター』研究員 松本 百加里氏の解説
高所得者層の誘致ポテンシャルが高い「中東地域」
「中東地域」は、アラブ首長国連邦(UAE)など世帯年収が高い層が多く、消費額アップへの期待値の高い市場として、注力ターゲットの増加幅が最も大きくなったと考えられます。
日本政府観光局(JNTO)でも、高所得者層誘致のポテンシャルを見越して、2021年にドバイ事務所を新規開設しています。
また、今後狙っていきたい市場で「豪州」が2位と順位を上げていますが、2019年度実績にて消費単価が最も高いことも後押ししているでしょう。
観光庁から発表の観光立国推進基本計画では、訪日外国人旅行消費額単価の目標が2025年までに20万円と提示されましたが、2019年実績は15.9万円と約4万円の差があり早急な対応が必要です。そのため、消費額アップにつながる施策の注目度はさらに高まると予想されます。
東北・九州は、地方空港を活用するリピーターのアジア、北陸信越・中部・近畿は、主要空港から東京~大阪間を横断する欧米豪を狙いやすい
北陸信越・中部・近畿は、主要空港から東京~大阪間を横断する欧米豪を狙いやすいエリアごとの注力市場の違いは、主に訪問経験率と空港・新幹線の交通アクセスが影響していると考えます。
訪日旅行初回は、東京や京都・大阪を中心にジャパンレールパスを活用した新幹線上の旅程を組み立てることが多く、リピーターになると地方空港を活用して初回に足を延ばせなかったエリアを中心に旅程を組みます。
そのため、東北や九州はリピーターが多いアジア圏を狙いやすく、東京~大阪間に位置する北陸信越・中部・近畿は欧米豪が狙いやすい構図になっています。
また、対象市場の人気観光テーマにも大きく影響します。北海道で上位の「タイ」や「豪州」は、スノーニーズとマッチしやすく、中国の「フランス」はアート、東北・九州の「中国」は温泉との相性もよいです。
このような特性を意識しつつ、各観光組織が狙う市場やターゲット像を可視化していけると、同じターゲットを狙うDMO・自治体の組織は連携しやすく、広域モデルルートの造成やプロモーションを連動することで誘客効果を高めやすくなるはずです。
消費額アップへの鍵は、具体的なターゲット像の設定とニーズの明確化
具体的なターゲット像の回答では、欧米豪中心に世帯可処分所得上位である高所得者層がトップに入っています。一方、具体的なターゲット像を明確に決めていないという回答も多数あることがわかりました。
東南アジアでは3割以上、特にベトナムは7割超え、アジアでも約3割が明確に決めていない状況です。消費額アップを実現するためには、ターゲットのニーズを見ながら地域資源の強みを生かしつつ磨き上げて高付加価値化する必要があります。
今回アンケートの選択肢は、JNTOが21市場に対して調査を行い、市場ごとに消費増や地方への来訪の可能性が高いセグメント等をターゲットに設定したもので、今後も定期的に調査を行う予定だと聞いています。
インバウンド旅行者の来訪実績が少なく具体的なターゲット像を設定しにく地域中心に、マーケティングの参考として活用することは有効な手段になるでしょう。
調査概要
調査期間 :2022年10月3日(月)~ 2023年1月10日(火)
調査対象 :広域連携DMO、令和3年度総合支援型DMO、都道府県庁
調査方法 :対象組織のインバウンド担当者宛に調査票を送付して、インターネット上でアンケートを実施
調査対象数 :73(集計率97.3%)
集計対象数 :71(広域連携DMO/10、令和3年度総合支援型DMO/19、都道府県庁/都道府県のプロモーション機能を担うDMO /42)
集計方針 :n数が20未満の場合は集計対象外とする
関連情報
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20230703_travel_01.pdf
構成/清水眞希