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日本のマーケティングは周回遅れ、世界との差が開いている理由

2023.07.07

短期集中連載/シン・マーケティング論

第1回:日本のマーケティングは周回遅れで、その差は開いている

日本企業の世界での競争力が弱くなったと言われますが、その大きな理由として特に法人を相手にするB2Bマーケティングの弱さがあげられます。世界のB2Bマーケティングと比べると日本の同業種・同規模の企業のマーケティングは10年以上の周回遅れで、その差はCovit-19によってさらに開いています。ここでいうマーケティングとは「デマンドジェネレーション」と呼ばれる案件創出のプロセスで、営業部門や販売代理店に商談を安定供給する役割を指しています。なぜ日本企業のマーケティングは遅れたのでしょうか。

それは「必要無かった」からなのです。

戦後の日本企業の法人営業は既存顧客からの引き合いに依存していました。製造業を中心とする日本のGDPを支える多くの企業は、上位20%の顧客からの売上が全体の80%を超えていました。2:8の法則(パレートの法則)がそのまま当てはまっていました。

上図はイゴールアンゾフ博士が提唱したアンゾフマトリックスという、成長戦略を検討するためのフレームワークです。自社の成長の可能性やリソースの偏在を検討する際に使用します。

このフレームワークの中で日本企業は左上の「既存×既存の象限」でビジネスをしてきました。顧客軸でも商品軸でも既存に大きく依存した構造で、これは良い悪いではなく日本企業の特徴なのですが、ひとつだけ問題があるとすれば4つの象限の中でここだけはマーケティングが必要無かったのです。

付き合いの長い既存顧客が良く知っている製品やサービスのリピートオーダーをかけてくるので、「正しく知ってもらう」事を目的にしたマーケティングは要らないのです。この既存×既存の象限を守るために何より重要な事は「納品」です。納期を守る、欠品を出さない、不良品を出さない、品質改善に努めるなどを行って顧客を守る事が何より優先されました。そしてその重要な顧客の担当者をより強くグリップするために、ゴルフや接待は営業にとって必須の活動でした。

しかし「リーマンショック」と呼ばれる世界的な景気減速のタイミングでこの「既存×既存の象限」の成長が鈍化し、多くの企業が納品先から、「これからはウチだけに依存するのは辞めて欲しい、自分の餌は自分で探して下さい」と言われました。日本企業にとっては驚天動地の出来事です。成長を続ける、あるいは生き残るためには他の象限に進出しなければなりませんが、残りの3つの象限はいずれもマーケティング力が無ければどうにもならない象限です。日本企業の低迷の理由はそこにあります。

日本企業は未だに製品開発力や生産技術、メンテナンスサービス、そして営業部門の質は世界トップクラスです。しかし、既存顧客向けに開発した新製品(右上の象限)でも、相手が大企業になれば今までとは違う事業所や部署に持って行かねばならず、そこは新規営業と同じ工数がかかります。無論そこには既に競合がガッチリくい込んでいる事が多く、それを覆すにはマーケティングが必要なのです。

さらに苦戦しているのは既存製品・サービスで新市場を開拓する左下の象限で、ここは同じ10億円の受注を獲得するにも既存から受注するおよそ20倍の工数が必要と言われています。日本企業の営業体制は既存顧客に圧倒的に多くのリソースをわり当てていますから、新規市場の開拓に割くリソースは限定されており、とても20倍の工数をカバー出来ないのです。

低迷しているのはこれが理由です。もう製品やサービスの品質だけでは生き残れない時代になったのに、その変化に気付くのが遅れ、生き残るために絶対に必要なマーケティング力がとても弱く、社内にマーケティングを体系的に学んだ人もいないのが現状です。ここを大至急強化することが、日本企業が再び世界で活躍するために絶対に必要なことなのです。

また、およそ50年にわたって既存顧客中心の営業活動をしてきて、マーケティングやインサイドセールス、カスタマーサクセスといった機能を持っていないため、欧米と比べると営業部門の業務範囲が極めて広く、それが原因で営業生産性を上げにくい、という現象があります。日本企業では新商品の発売が決まると、狙う市場や企業を見つけ、そこらか案件を見出し、クロージングし、納品し、代金を回収し、さらにアフターフォローまでをすべて営業部門が担っています。

しかし、欧米の企業はそれを4つのプロセスに分解し、それぞれのプロセスの専門性を持ったスタッフや部門がリレーをしています。

そして世界のマーケティングはさらに進化の速度を上げています。当社ではCovit-19が明けた昨年から計6回米国、欧州、そしてAPACで開催されたB2Bマーケティングのカンファレンスに参加しましたが、AIやシリコンバレーのテックジャイアントのリストラなどの影響でさらに劇的な進化を遂げています。この遅れを取り戻すために、各社が経営の最優先課題としてマーケティングに取り組むしかないでしょう。

文/庭山一郎

https://www.symphony-marketing.co.jp/

シンフォニーマーケティング株式会社 代表取締役。1962年生まれ、中央大学卒業。1990年9月にシンフォニーマーケティングを設立。データベースマーケティングのコンサルティング、インターネット事業など数多くのマーケティングプロジェクトを手がける。30年以上に渡り、大手B2B企業をメインに国内・海外向けのマーケティングサービスを延べ500社以上に提供している。ライフワークとして、ブナの植林活動など「森の再生」に取り組む。中央大学大学院ビジネススクール客員教授、IDN(InterDirect Network:インターダイレクトネットワーク)理事。「BtoBマーケティング偏差値up」、「究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベースドマーケティング)」など著書多数。

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