こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
▼ 本日のポイント
退職勧奨のお話です。
「ユー、辞めてくれないかな?」
は、どこからがアウト?どこまでがセーフ?
裁判例をもとに解説します(日本アイ・ビー・エム事件:東京地裁 H23.12.28)
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
登場人物
▼ 会社
・情報システム関係の商品の販売など
▼ Xさんたち(4名)
・社員さん
どんな事件か
会社がXさんたち4名に退職をススメました。会社は「この4名の業績は不振だ」と判断したようです。1名を例に挙げると以下のようなトラブルもありました。
・上司が注意しても「私はガンコですから」と拒否
・営業担当者を支援する努力をしない
・ほかの社員にカナリ不親切、非協力的
ーーー Xさんたち、今回は何をお怒りで?
Xさんたち
「退職をススメられたなんてもんじゃありません。退職を【強要】されました。慰謝料300万円を請求します」
裁判所
「無理ですね。退職強要じゃないからです。今回は合法な退職勧奨です」
退職勧奨 or 退職強要?
退職勧奨とは「ユー、辞める気ない?」という勧誘です(正式には「労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動」)。
この退職勧奨、やりすぎじゃなければOKなんです(正確にいえば「手段・方法が社会通念上、相当と認められる範囲を逸脱しない限りは正当な業務行為」)。
Q.
どんな場合にアウト(退職強要)になるんですか?
林.
やりすぎたらアウトです!
Q.
弁護士なのにザックリしてるな!裁判官さん、キチンと教えてくれませんか?
裁判所
「はい。社会通念上、相当と認められる限度を超えて労働者に不当な心理的圧迫を加えたり、または、その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって、その自由な退職の意思の形成を妨げるに足りる不当な行為ないし言動をすることは許されず、そのようなことがされた退職勧奨行為が違法となります」
Q.
ありがとうございます。要は、やりすぎたらアウトってことですね。
今回のセーフポイントは?
ーーー 今回の退職勧奨は【セーフ】と判断したポイントはどこにありますか?
林.
たいして能力もないくせに高給の大企業にしがみつく人っていますよね。そんなときは会社が「ユー辞めた方がいいって。いやマジで。今なら退職者支援が充実してるしさ。ちゃんと検討した?」としつこめに勧誘するのはOKってことです。
裁判所
「(そんな乱暴なこと言ってませんが…)ゴホンッ。正確にいいますと、今回のケースでは大企業での高い待遇を受けることに固執し、自分の置かれた立場を理解していない社員がいる可能性があったんです。さらに、この会社では退職者支援策が充実していたのに、その支援策を十分に検討せず退職勧奨を断る者がいた可能性があったんです」
裁判所
「となると『退職はちょっと…」と難色を示す社員がいたとしても、会社に残り続けたときのデメリット、会社を辞めた時のメリットを根気よく説明し、『真摯に検討してもらえましたか?』と念を押すことは社会通念上、相当と認められる範囲を逸脱しない限りセーフです。検討した結果、今回はセーフです」
Q.
「なんでオレが辞めなきゃなんないんだ!」と取り乱すヤツもいるでしょうね
裁判所
「戦力外と通告された社員が衝撃を受けたり、イラだって平静でいられないことがあったとしてもそのことから直ちに違法と判断されるわけではありません」
どんな場合に違法?
Q.
どんな場合に違法になりますか?
裁判所
「社員がメリット、デメリットをキチンと検討した上で退職勧奨を拒否することを明確に会社に伝えている場合、退職強要として違法となる可能性があります」
退職強要だ!の裁判例
▼ 自分、ゼッタイに辞めないっス!
みたいな感じで断っていたケースはコチラ。
裁判所は「退職強要だ」と認定。慰謝料30万円が認められています。
▼ 雑魚は、いらねえんだよ!
と退職に追い込んだ事件もあります。ほかにはこんな言葉を浴びせました。
「チンピラいらねえんだよウチは」
「じゃあ書けよ、書けよ!退職願を」
「どっかへ行けよ。それで終わらすべよ」
慰謝料60万円
(東武バス日光ほか事件:宇都宮地裁 R2.10.21)
さいごに
セーフな退職勧奨? or アウトな退職強要?は微妙なケースが多いです。面談のときの上司の発言がポイントになることが多いので、きなくせぇ〜面談が行われる時は録音しておきましょう。黙って録音してもOKです。
▼ 相談するところ
しつこく会社から「退職してくんないかなぁ〜」とオラつかれてる方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。
webメディアで皆様に知恵をお届け中。「
https://hayashi-jurist.jp(←
https://twitter.com/