■石川真禧照のKカー徹底解剖
2000年代初めの頃、軽自動車の主役は、ハイト系ワゴンと呼ばれる全高1.6m前後のワゴンで、ホンダ「ザッツ」、三菱「ekワゴン」、スズキ「ワゴンR」、ダイハツ「ムーヴ」などがシェアを争っていた。そこに登場したのが、2003年のダイハツ「タント」だった。全高1.7m以上のこの軽ワゴンは上級ミニバン並みの後席の広さと、高い天井高を実現し、スーパーハイト系という新しいジャンルを創り出した。
当然、ライバルのスズキも「パレット」を発売、2013年に「スペーシア」へ車名を変更。さらに2018年にはワイルドなルックスのアウトドア志向の「スペーシア・ギア」を開発し、発売した。ここでスーパーハイト系の勢力分布が変わった。「タント」と「スペーシア」の販売台数順位が入れ替わった。
もちろん、ダイハツも黙ってはいなかった。2022年10月、4代目がマイナーチェンジした時に「ファンクロス」を発売した。スーパーハイト系を創出し、ピラーインドアのピラーレスオープンドアや両側スライドドアなどをいち早く実用化し、業界をリードしてきた自負がダイハツにはある。その意地が「ファンクロス」には感じられた。
タントやタントカスタムを上回る装備充実度
「ファンクロス」のスタイリングは「タント」や「タントカスタム」とは別のフロントマスクが特徴。フロントバンパー部は樹脂製のプロテクターがガッチリと囲み、多少のスリ傷でもボディー本体を守ってくれる。このモチーフはリアバンパー部にも継承されている。
ヘッドランプもタントやタントカスタムとは形状の異なるワイルドなデザインを採用した。ボディーのサイドにもプロテクターを模したパネルが装着された。ルーフにはキャリアをしっかりと支えられたバンパーが左右に1本ずつ備わる。キャリアはディーラーオプションで「ファンクロス」に似合う形状のものが用意されている。
前後席のアレンジは基本的には「タントカスタム」と同じ。助手席のスライド/チップアップや後席のスライド/リクライニングもできる。ラゲージ部の床ボードは上下2段階に高さを調節できるので、荷物の区分がしやすい。目的地に到着するどころか、試乗にスタートする前から、ファンクロスの使い方がいろいろと頭の中に浮かび、楽しくなってしまう。キャンプ場に行かなくても、荷室の床板を外し、折り畳まれている脚を引き出せば、細長いテーブルになる。これでティーブレイク。
さらにアクセサリーで用意されているテントをルーフキャリアから伸ばせば、室内からつながる広いスペースが部屋のように使える。このときに便利なのが、スライドドアだけでなく、前席のドアを開ければ、ピラーのない広い居住空間が出現すること。これは左側の前後ドアを開けるとピラーレスになる「タント」ならではの遊びの空間だ。
シートは撥水シート、防水加工シートバックなので、濡れたまま室内に入っても大丈夫。ラゲッジルームランプやUSBソケットも装備されているので、夜間の照明も不便ではない。装備の充実はタントやタントカスタムを上回る。
試乗に出かける前にファンクロスの魅力をじっくりと確かめた。今回、加わったモデルは「ファンクロス」と「ファンクロスターボ」。どちらもFFと4WDが用意されている。車両本体価格は172万1500円から。「タントカスタム」とほぼ同価格帯の設定になる。
パワーユニットは直列3気筒DOHC、658ccで、NAは52PS/60Nm、ターボは64PS/100Nmの性能。これは「タント」「タントカスタム」と同じ。変速機はCVT。P/R/N/D/S/Bの6ポジションのフロアシフト。パドルレバーは設定されていない。