■連載/FIREの向こう側
世はすっかり「FIREブーム」。資産運用でお金を殖やし、「経済的な自由を得よう!」とうたう記事やテレビ番組がずいぶんと増えた。が、それらに現実味を感じることができずうんざりしている人も多いだろう。
どうしてFIRE(Financial Independence,Retire Early)は遠いものに感じてしまうのか――『投資をしながら自由に生きる』の著者で、自身もFIREしたという投資家の遠藤洋さんに、本企画では素朴な疑問をぶつけてみることで「自由に生きる」ための方法を探っていきます。
Question「部下が自分の仕事の役割を理解できていないことが多い」
「中堅企業の部長として働いている40代です。課長と話すと、他部署のことをまったく知らず、社内の理解が足りていないと感じます。また30代の係長と話すと、『これって僕の仕事ですか?』と不満タラタラ。自分の立場で求められていることを理解していれば、こんな発言は出ないはずなのに…。どうすれば自分のやるべき仕事を理解してもらえるのでしょうか?」(48歳・会社員・男性)
Answer「会社の目指すところは何か、そもそも論に立ち返る」
前回は「仕事」の定義について話しました。フリーランスや会社経営をされている方で「仕事が取れない」と悩んでいる人は多くいますが、そもそも「仕事」とは、相手の役に立つことを提案すること、相手にとってメリットを提案することであり、決して自分の売り上げをあげることではありません。ほとんどの人が「仕事を取る」という定義を正しく認識していないから、なかなか取れないんじゃないかなと思います。そこで「自分の仕事」とは何か、一度再考し深掘りしたいと思います。
会社の目指す方向性を確認しよう
今回の相談者の悩みは、部下の課長や係長が自分の仕事や役割を理解していない、というもの。まず会社員の場合、「求められる仕事はポジションによって違う」というのが前提にあります。新入社員に求められている仕事、中間管理職に求められる仕事、マネジメント側に求められている仕事、すべて立場によって異なりますよね。
ただ、全員に共通して大事なことが「会社の全体像」を把握するということです。そもそも自分の会社の存在意義って何だろう? 会社としてどういう方向に向かっているんだろう? そういうところをまず把握する必要がすごく大事になります。
ほとんどの人は「自分の目の前の仕事」に精いっぱいで、「会社全体の目的」まで見て仕事ができている人は少数です。その部分は、どうしてもなおざりになってしまいがちです。まずは自分の仕事以前に、「ウチの会社の方向性って何だっけ?」「このプロジェクトって何のためにやってるんだっけ?」という「そもそも論」を理解するのを最初にやるべきことだと考えます。
それが理解できてから、次は会社全体の中で自分がどの場所に立っているか、自分の役割は何か。そして、自分の役割を理解してようやく、そこに対して自分ができること、自分のやるべきことに落とし込む。そうやって全体像から具体的な業務に反映させていくのがいいと思います。仕事が忙しいと、どうしても「全体像」が見えなくなってしまいますからね。
役職の違いは目線の違い
役職によって求められる仕事は異なるわけですが、では「役職」の違いは何によって起こるのでしょうか?
私は、「目線が高い人」が役職も高くなるのだと思っています。広い視点、高い視座を持って働いている人ほど役職は高いでしょう。平社員でも社長と同じような目線を持って仕事をしていれば、勝手に出世していくと思うんです。逆にいうと、平社員だからといってその枠の中でやっている限りは、平社員から抜け出すことは難しいでしょう。
例えば、スーパーのレジ打ちの仕事をしているとします。そもそもスーパーの目的は、「お客さんに新鮮な食材を届けること」、そして「たくさんの売り上げを立てること」などが挙げられますよね。だから、お客さんを呼び込むことも大事だし、来てくれたお客さんに欲しい商品を効率よく見つけてもらい、手に取ってもらうことも必要です。レジ打ちという枠を超えて、例えば「こんなポスターを作ってここに貼るといい」とか、「この商品とこの商品は隣に置いて料理法を紹介するPOPを貼り出そう」など、集客や販促に対しても意見や提案をしていけば、きっとレジ打ち以上のポジションを勝手に任されるようになることでしょう。
自分の役割は当然として、組織全体が目指している先をちゃんと理解し、自分の仕事の範疇外のことも見えている人が出世するんじゃないかなと思いますね。
自分が社長になったつもりで仕事をしよう
ただし、同じ会社にいても部署が違うと、「他部署ではどんなことに取り組んでいるのか」「今の重要な課題は何か」など、他部署の事情は見えにくいと思います。そういったときは、シンプルに自分の上司や役員、その部署の人に聞けばいいんです。10分でも15分でもいいからミーティングして、どんなことが課題でどんなことに取り組んでいるのか聞き出せばいいだけです。
「目線」が低いとどうしても見える世界が低く狭くなってしまい、他部署の事情を知ることができません。それを解決するには、やはり「目線」を上げるしかありません。そのために大事なのが、「自分が社長だったらどうするか」と思って仕事をすることです。会社員でこの視点を持っている人は非常に少ないと感じます。
私が投資先を選ぶ条件の一つとして、「創業者や経営者がその会社の株をたくさん持っていること」があります。そうでないと企業は、私たち投資家と“同じ船”に乗っていないことになるからです。
社長自身が一番の投資家であり、自分で経営をコントロールしている状態じゃないと、投資先として魅力的には映りません。株を1株も持ってない人が経営していたら、企業価値や株価を上げることはせず、自分の役員報酬を最大化したり自分の退職金を満額もらうことを優先したり、投資家にとってよくないことが起きてしまう危険性もあります。でも、社長自身が自社の株をしっかり持って経営していれば、会社の時価総額を増やし、利益を最大化することが結果的に社長自身の利益にもつながるので、目指す方向性が投資家と同じになるんですね。
それを社員レベルでいうと、「自分が経営者としてこの会社を大きくしていこう」という目線で物事を考えて常に日常的な仕事をできる人、ということになります。「自分が社長になったつもり」で仕事をすれば、「目線」は劇的に高くなるはずです。ちなみに、自分が勤務する会社の株を持てば、よりその意識は強くなるのでオススメですよ(笑)。
今回のまとめ
まずは会社の方向性を把握すること。そして、「自分が社長になったつもり」で目線を高く持って働こう
文/遠藤 洋(えんどう・ひろし)
投資コミュティixi主宰、投資家・自由人。1987年埼玉県生まれ。大学在学中にアルバイトで貯めたお金を元手に知識ゼロの状態から投資を始める。大学卒業後、ベンチャー企業に入社。26歳のときに投資で得た資金を元手に独立。本質的な価値を見極め「1年以内に株価3倍以上になる小型株」へ集中投資するスタイルで、最大18倍、1銘柄だけで億超えのリターンを達成。その投資経験をベースに、経営者、上場企業役員、医師、弁護士、ビジネスパーソンなど、これまで1600人以上の個人投資家を指導し「勝てる投資家」を数多く輩出。現在は投資をしながら1年のうち半分は国内外を旅して自由を謳歌しつつ、次世代を担う投資家や事業の育成に力を入れている。
構成/向井翔太