生成AI市場は昨年11月にOpen AIが導入したChatGPTをきっかけに大きく盛り上がりを見せています。実際、世界中の個人や組織が注目し、利用方法や利点、課題について議論されていますが、将来の予測では、生成AI市場は2022年から2032年までの間に年平均30%以上の成長を遂げると予想されています。
この生成AIブームの立役者はオープンAIとマイクロソフトです。
マイクロソフトは2019年からオープンAIに多額の資金を提供し、強力なパートナーシップを築きました。2020年9月には「GPT-3」の独占ライセンスを獲得し、2023年現在はマイクロソフトの「Bing」で「GPT-4」が利用可能です。
しかし、こうした生成AIにも課題があります。
なぜならChatGPTに質問や指示を与えた場合、必ずしも正確な回答や結果が得られるわけではないからです。
特に指摘されるのは、明らかな誤りについて、もっともらしい正しい答えとして提示することがある点です。その他にも、学習素材や生成物の著作権問題や、仕事の自動化による雇用の減少、フェイク情報の拡散などが懸念されています。
しかし、同時に生成AIは多くの可能性を秘めており、マイクロソフトなどの企業はそのポテンシャルをビジネスに活かそうと大規模な投資を行っています。
そこで今回の米国企業VSシリーズは生成AIの注目企業として、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、半導体企業のエヌビディアとAMD、TSMCについて比較するとともに、筆者自身が利用している生成AIサービスについても解説していきます。
マイクロソフト
マイクロソフトは、今後の数年間でオープンAIへの追加投資額を数十億ドルから100億ドルに増やす計画を進めているようです。この大規模な投資は、おそらくChatGPTやGPT-4の正確性向上や誤り検出機能の強化、さらには動画生成AIの開発などに活用されることになるはずです。
それと並行して、マイクロソフトは企業システムに生成AIを組み込むためのソリューションやパッケージソフトの開発、クラウドサービスである「Azure」の大規模ネットワークの拡充などにも取り組むことが予想されます。
アマゾン
アマゾンにとって、クラウドサービスの「AWS」は事業成長において非常に重要なセクターです。過去のデータによれば、2018年の1月から3月までの期間において、AWSはクラウドサービス市場において32~33%のシェアを持ち、2位のAzureの12~13%を大きく上回っていました。しかし、2023年の1月から3月までの期間では、AWSのシェア32%に対して、Azureは23%に迫るまで差が縮まっています。
将来的には、クラウドサービスのユーザーが生成AIを評価する際には、AzureがAWSに追いつくか、逆にシェアの順位が入れ替わる可能性も考えられます。このため、アマゾンは2023年4月からAWSに自社で開発した生成AIをの導入を開始しました。
アルファベット
アルファベット(グーグル)はAI開発で高く評価される会社で、検索AIや広告AI、翻訳AI、自動運転AIなどで世界トップの地位を持っています。
しかし生成AIに関しては出遅れています。
将来的には生成AIが企業のシステムに広く導入された場合、グーグル検索のシェアは低下する可能性があります。アルファベットは、このような競争の変化に対応するため自社開発の生成AIである「Bard」を一般公開していますが、現状ではChatGPTの能力の方が優れているといえるでしょう。
エヌビディアとAMD
生成AIの開発や運営には、膨大な計算能力が要求されます。そのため、データセンターで使用される高性能な画像処理装置(GPU)が活用されています。
この領域では、エヌビディアが市場の約80%を占めているといわれ、オープンAIなどチャットGPTを開発した企業もエヌビディアの半導体を利用しています。
その一方、アメリカの大手半導体企業であるAMDは、生成AI(人工知能)向けの新しい半導体を今年後半に市場に投入すると発表しました。AMDはエヌビディアより手頃な価格で提供する予定です。これにより今後は価格競争が起こり、半導体のコストが下がることで、AI開発が加速される可能性が高いでしょう。
台湾セミコンダクター
エヌビディアやAMDを含む複数の半導体メーカーは、半導体の生産を台湾企業のTSMCに委託しています。TSMCは現在、ファウンドリ事業において業界のトップ地位を維持しており、少なくとも今後3〜5年間でもその優位性を保ち続ける見込みです。
ファウンドリとは、専門的に半導体チップの製造を行う企業やサービスを指し、TSMCは半導体メーカーやファブレス企業からの生産委託を受けています。TSMCは生産に特化したアプローチをしており、生成AI市場が発展することでTSMCの売上げも伸びていくと考えられます。
また現状では、ファウンドリ事業においてTSMCのライバル企業が不在であることから、TSMCの地位は長期で安定することが考えられます。
唯一の懸念材料としては、台湾という地政学的なリスクです。
そのためTSMCは拠点を北米や欧州、韓国や日本などに分散させています。