新時代のペットの里親探し
里見八犬伝などで有名な江戸時代の人気作家・曲亭馬琴は動物好きで、家に入って来た迷い猫の譲渡活動も行っていた。克明に書かれた日記には、猫が譲渡先で幸せに暮らしているか、家族で心配したという記述がある。
捨て犬や野良猫など、身寄りのない動物の飼い主を探す譲渡活動は、古くからおこなわれていたが、愛好家による個人ベースでの活動が主体だった。馬琴が近所の八百屋に猫を譲渡したように、個人から個人への譲渡がほとんどで、組織的な譲渡会(最近は里親会と呼ぶところが増えている)は、自治体や日本動物福祉協会などの愛護団体が主催して行うもの以外、日本ではほとんど見られなかった。
しかし最近、民間の保護団体がまとまった頭数を飼育・保護する施設(シェルター)を運営するようになり、譲渡活動は少しずつ変化している。
ほとんどが慢性的な資金難に苦しむ愛護団体
個人から組織へと規模は拡大しているものの、行っている活動の内容は過去も現在も同じく、動物の飼育・管理である。何らかの形で飼えなくなった犬や猫を引き取り、飼育して健康な状態にするためには相応の費用がかかる。ペット保険のアニコム損害保険(株)の2021年調査では犬にかける年間の飼育費用は約35万円、猫は約17万円となっている。
動物愛護団体の運営資金のほとんどは寄付や個人の資金によるもので、どこも苦労している。日本初の動物関連に限定したオンライン寄付サイトを運営している公益社団法人アニマル・ドネーション(通称アニドネ)の広報担当小澤さんも、「個人や数人単位で草の根的に活動されているケースが多く、広く認知や協力を得て、大きく確実な実績を上げることが困難な現実があります」と言う。
飼い主希望者を集めるための広告・宣伝費用も少ない。飼いたい人と身寄りのないペットを結びつける機会が少ないのが現状である。
そんな中、ひとつの譲渡会が開催された。民間の企業が主催した譲渡会で、日本の譲渡活動の大きな一歩となりそうだ。
パナソニックが譲渡会を開催
パナソニックは社会貢献活動の一環として、積極的に動物福祉活動に取り組んでいる。4月29~30日の二日間、環境省の後援のもと、東京都江東区有明のパナソニックセンター東京にて、飼い主のいないペットと新しい家族との出会いを目指した譲渡会を開催した。
今年で2回目を迎えた譲渡会では元保護犬・保護猫たちが現在は幸せに暮らしている様子を収めた「写真展」や 、パナソニックによる「家電体験コーナー」に加えて、新たに「坂上忍さんら動物保護団体代表者のトークセッション」や、「チャリティマーケット」を新設して、動物愛護に対する啓発活動を推進していた。
今回開催された譲渡会では、実際に飼い主のいない犬や猫と新しい家族との出会いを目指したもので、参加団体数15、270頭以上の犬、猫が参加した。
「譲渡会の場所が欲しい」という声からスタート
もともと同社では次亜塩素酸 空間除菌脱臭機「ジアイーノ」を動物保護団体に寄贈するなど、譲渡活動を支援してきた。SNSのアクションによる寄付金活動なども積極的に展開している。
昨年初めてパナソニックが譲渡会を開催することになったのも、「ジアイーノ」の寄贈活動の中で、「譲渡会の場所が欲しい」と動物保護団体から相談を受けたのがきっかけだった。昨年の譲渡会で、動物保護団体や来場した一般の参加者から、「こうした飼い主のいない犬や猫と家族との出会いの機会が欲しい」との声が非常に多く集まり、今回の開催に至った。
実際、昨年の来場者からのアンケートによると、約65%が「譲渡会に初めて参加した」という人で、中には「譲渡会には興味があるもののどこの団体の会に足を運べばいいかわからなかった」という意見も寄せられたという。
欧米ではシェルター(動物保護施設)から犬や猫を迎えることは、ショップで買うよりも飼い主の意識が高いと評価する人が多い。特にアメリカの一部のシェルターでは飼い主の収入や家族構成、学歴や犯罪歴まで身元を厳しく調べた上で譲渡するため、逆に飼主のステータスを保障する手段の一つともなっている。
日本ではまだ、ペットはショップやブリーダーから迎えるのが一般的だが、今後は「譲渡」という選択肢も広がっていくはず。パナソニックの譲渡会は、譲渡に対する意識の高まりを促すと同時に、企業の社会貢献活動が日本の動物福祉の進展に寄与したという点からも、たいへん意義深い。
熱い視線が飛び交った譲渡会
譲渡会は犬の部と猫の部に分けて行われた。保護団体によって犬や、猫が入ったケージがテーブルの上に並べられ、飼い主希望者がその前を通って見学する仕組み。保護団体がかわいがってお世話をしたおかげで、どの子も人によく慣れていた。
猫に付き添っていた保護団体の担当者に聞くと、希望があればすぐに譲渡できるように、健康状態をチェックして、長時間の移動や人に慣れた子を連れてきたと言う。「良い子たちなので、良い出会いがあれば」と語ってくれた。
子ども連れで参加した男性は「昨年、猫が亡くなってしまい、新しい子を迎えたかった」と、制限時間ギリギリまで一頭ずつ時間をかけて見て回っていた。