最近、多くの海外メディアが、「スリープ・ツーリズム(sleep tourism)」の特集を組んでいるのを目にするようになった。
なんでもこの言葉は、「2023年で最もホットなトレンドワード」だという。
旅行をすれば、睡眠時間を削ってでも旅程スケジュールを詰め込みがちだから、「スリープ」と「ツーリズム」は、水と油のようにそぐわないものと思ってしまう。
しかし、このトレンドが意味するのは、旅程のことではなくて、疲労感を抱えながら宿泊先に着いてからの話だ。
現在、先進的な一部のホテルが、「快眠体験の提供」をコンセプトにした宿泊プランを提供しており、「スリープ・ツーリズム」といえばこれを指す。
例えば「パークハイアット ニューヨーク」。ここには、6室の「スリープスイート」が設けられている。ホテル自体は、喧騒に満ちたマンハッタン中心街に位置していながら、防音仕様の客室は静寂に包まれ、セントラルパークをのぞむ眺望が美しい。
セールスポイントの要となるのは、スマートベッドだ。このベッドには、90個の「インテリジェントクッション」が組み込まれており、寝姿勢を常時感知しながら個々のクッションが上下したり硬さを変化させることで、すみやかに快眠に誘う。ちなみに、1泊の宿泊代は1352ドルと、決して安いものではない。
客室も含めてホテル全体が快眠設計
スリープ・ツーリズムに注目しているのは、6千ドルのハイテクベッドを導入できる海外の五つ星ホテルに限らない。日本の幾つかのホテルでも、似た試みがなされている。
その先駆けと言えるのが、「レム日比谷」(東京都千代田区)だろう。ここはスリープ・ツーリズムという言葉が生まれるはるか前から、「上質な眠り」をコンセプトにさまざまなサービスを提供してきた。建物は、ロビーやエレベーターホールを含めてあらゆる空間が、五感に訴えかけ快眠を導く設計がなされている。
客室も同様で、オリジナルベッドマットレスに、レインシャワー、マッサージチェア、ガラスパーティションなど、室内の全てが「快適な眠りのためにデザイン」されている。このこだわりが多くのゲストの心をつかみ、レムブランドとして現在8店舗運営されている。
2021年に開業した、レムブランドで一番新しい「レムプラス神戸三宮」の一室
眠りの空間づくりに徹底的にこだわる
一方、カプセルホテルという業態で、眠りの空間を提供するのが、全国13店舗を展開する「ナインアワーズ」だ。眠る空間であるカプセルにこだわりがあり、「内部に角が無く繭のような形状で閉塞感が少なく、安心して眠れる」設計。2022年には、完全遮音、温湿度管理、クリーン換気がはかられた新型カプセルの「9h sleep dock」の導入が始まった。また、枕は、老舗の枕メーカー「まくらのキタムラ」が開発した快眠枕「ジムナストプラス」をリサイズしたものが採用されている。
ほかのカプセルホテルにはない睡眠空間が魅力の「ナインアワーズ」
さらに注目したいのは、睡眠解析事業にもとづくサービスが、一部店舗で取り入れられていることだろう。これは、(本人承諾の上で)宿泊者の睡眠データを赤外線カメラ、集音マイク、体動センサーで収集・解析するというもの。
この睡眠データとは、心拍、いびき、無呼吸の回数などを指し、「睡眠レポート」という形で宿泊者に提供される。宿泊者は、このレポートから不眠症や不整脈といった健康上の懸念がないか知ることができる。このサービスは好評で、開始から1年足らずで1万人を超える利用があったそうだ。