■連載/ヒット商品開発秘話
寝不足は放っておくと睡眠負債をためてしまい、心身に不調をきたす恐れがある。睡眠時間をきちんと確保するのはもちろんのこと、熟睡できる環境を整えることが大切だ。
睡眠に何らかの悩みを抱えている人たちから注目され支持を集めているのが、ブレインスリープの『ブレインスリープ ピロー』である。特徴は、書籍『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版)から生まれた、眠り始めの90分を良質な睡眠に必要な「黄金の90分」にする機能を搭載したこと。2020年5月の発売以来、派生品を含めて10万個以上が売れている。
日本には理にかなった枕がない
「日本人の睡眠時間は短い」とよく言われるが、実際どうなのか? 同社が2020年3月に実施した調査では、日本人の平均睡眠時間は6時間27分。2018年に発表されたOECD(経済協力開発機構)などの調査結果でも日本は7時間22分と調査対象国の中で日本はワースト1だったが、これよりも55分短くなっている。
睡眠時間が短いと生産性が低いことも調査から判明。ただ、睡眠時間が短くても睡眠の質が高い人は生産性が高い傾向が見られることから、睡眠の質も生産性に大きく関与していることもわかった。
では、同社はなぜ枕に注目したのか? 代表取締役の廣田敦氏は次のように話す。
「日本はOECD加盟国の中でもっとも寝ていない上に、特有の四季があります。梅雨があり湿度が高くなったかと思えば急に暑くなったりするなど環境が複雑で、これまで環境に適合した理にかなった枕がありませんでした」
「理にかなった」が指しているのは通気性のよさ。頭の通気性は睡眠にとって圧倒的に大切なことで、よく眠るには頭に熱がこもらないことが重要だという。通気性のいい枕といえば、日本にはそばがらを使ったものが古くからあるが、手入れが面倒かつフィットしにくいというデメリットがある。
「様々な睡眠研究や水陰専門医とコミュニケーションを取る中で、『理にかなった枕がないならつくろう』と思い、ブレインスリープ ピローを開発することになりました」
こう振り返る廣田氏。『スタンフォード式 最高の睡眠』に書かれていることを具現化することにし、なおかつそばがらの枕より手入れが簡単でフィットするものを開発することにした。
通気性のいい『ブレインスリープ ピロー』で寝ると頭がよく冷え、入眠直後の「黄金の90分」がノンレム睡眠(深い眠り)の中でも最も深いものになりやすい。眠りはじめの90分を深く、少しでも長くとることは睡眠の質向上につながると考えられる
パートナー企業の協力を得て開発・製造
『スタンフォード式 最高の睡眠』では考え方は示しているものの、枕のスペックには言及していない。通気性のよさや寝返りの打ちやすさを実現するに当たり、パートナーとしてクッション材を開発・製造するエコ・ワールド(大分県玖珠町)の協力を得て開発・製造することにした。
素材にはポリエチレンを使用。糸にしてメッシュ状の立体構造にしたことで通気性が高くなり、寝返りで生まれるポンピング(枕の呼吸)により、寝ながら汗や熱を排出することができるようにした。
ポリエチレン糸でメッシュ構造をつくり上げているので、手入れはシャワーで水洗いするだけ。10分ほどで水気が切れる。そばがらの枕よりはるかに手入れが簡単になった。
また、環境への配慮から、100%リサイクル可能な素材を使用。使い込んで古くなり買い換えることにしたら、工場に送れば新しい素材に再生され、新品として流通するようになっている。
複雑な構造を持つ中材
一見しただけではわからないが、ポリエチレン糸でつくった中材は3層構造になっている。上から頭の大きさ、重さにフィットする「アジャスト層」、頭と首を支える「サポート層」、固く下から空気が抜ける「ベース層」で構成されている。
「1層だと固すぎるんです。床で寝ると体の凝りを感じるのと同じように、1層だと反発が起きず寝返りが打ちづらくなります。固さが異なる多層構造にすることで寝たときの満足感が上がります」
このように話す廣田氏。各層の固さを調整することで、いままで成し得なかった気持ちのいい寝心地を実現した。7日ほど使うとアジャスト層が頭の重さや大きさにフィットし、さながらオーダーメイド枕のようなフィット感になる。
しかも、『ブレインスリープ ピロー』の中材は3層構造になっているだけではなく、グラデーション構造にもなっている。一番柔らかい中心部から両端に向かうにつれて徐々に固さがアップ。こうすることで横向きで寝やすくなり、寝返りも打ちやすくなるという。
ただ、複雑な構造ゆえに成型は難しく、グラデーションの硬さなどは試作をつくって確認しながら決めていった。「寝たときの気持ちよさが非常に大事になるので、社員一同で確認していきました」と廣田氏。つくった試作品はゆうに100個を超えた。
エコ・ワールドも「こんなにつくるとは思わなかった」と漏らしたというが、最後までNoとは言わず根気強く対応。ブレインスリープとともに高いモチベショーンで開発に臨み実現に向けて協力を惜しまなかった。
品質向上のためグラデーション構造を見直す
発売から1年後の2021年5月、『ブレインスリープ ピロー』はアップグレードされた。最大の変更点はグラデーション構造がそれまでの5階調から7階調になったこと。品質を高める一環からフィット感を上げるために実施したもので、頭がより包まれるようになるほか、寝返りが打ちやすくなるという。
また、サイズもそれまでの1つからHIGH(高さ120〜140mm)/STANDARD(同90〜110mm)/LOW(同60〜80mm)と3段階に変わり、体格により合ったものを選びやすくなった。それまで、1つの枕でHIGH(高さ1100mm)/LOW(同900mm)が選べたが、3段階に見直されてからは高さごとに選ぶ形になっている。
目立つ変更点はこれら2点だが、サイズに関しては高さ以外の若干見直された。この見直しで、最初に発売されたものより小さくなったというのである。発売当初は幅600×奥行400(単位:mm)だったが、現在は幅600×奥行350(同)となっている。