こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
裁判例をザックリ解説します。
ーーー Xさん、何をお怒りで?
Xさん
「これまで週4〜5日バイトに入れていたのに、突然、週1〜2日に減らされました。減らされた分の賃金を請求します」
ーーー 裁判所さん、どうですか?
裁判所
「うん、シフトカットは違法だね。お店さん、払え!」
という事件を解説します。(万和事件:東京地裁 H29.6.9)
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
登場人物
▼ 会社
・飲食店を経営する会社
▼ Xさん
・アルバイト
どんな事件か
▼ 勤務条件
まずは、Xさんの勤務条件をサラッと。
・時給1200円
・週4〜5日
・3ヶ月契約だったが更新され続けていた
・このバイト代で1人暮らしの生活をしていた
ーーー 週4〜5日は、コンスタントに入れていたんですか?
Xさん
「働き始めてから2年くらいは入れてました」
「それをいきなり週1〜2日に減らされたんです」
[!]Xさんのチョンボ
Xさんの勤務態度は、悪かったようです。チョンボは以下のとおり。
・タイムカードの不正打刻
打刻してから自分のバイクを駐輪場に持っていく
・遅刻
店長から注意を受けたが聞く耳をもたなかった
・業務指示に従わない
自分の考えを強引に押し通そうとする
・配達する商品を忘れる
客からも苦情が寄せられていた
▼ コイツ、解雇しないとヤバくない?
Xさんが働き始めてから2年くらいチョンボが積み重なっていきました。ほかの従業員も耐えられなかったんでしょう。上司に対してXさんの解雇や異動を求めました。
その後、店長と本部社員がXさんと面談しました。しかし、改善が見られませんでした。
▼ シフトカッート!
会社はついにシフトカットに踏み切ります。週1〜2日しか入らせないというもの。
Xさんは会社に抗議します。これまで週4〜5日入っていて、そのバイト代で生活していたからです。シフトカットされると食っていけなくなりますよね。
しかし、会社は聞き入れず。
▼ おまわりさーん!
Xさんご乱心。なんと、ある日、110番通報して警察官を呼んだんです。警察が民事事件を取り扱わないと知っててTELしました。目的はシフト交渉に応じさせることにあったようです。ウゼ〜。
ーーー そのときにいた従業員さん、どんな感じでしたか?
従業員
「Xさんの剣幕などを見て驚きました。もしかしたらXさんは暴力団関係者なのでは…と思いました」
かなりのオラオラだったのでしょう。
▼ 解雇
その後もXさんの勤務態度には改善が見られませんでした。配達先から苦情が入ったんです。「Xさんから暴言を吐かれた」という苦情です。
会社は解雇を決断します。
「1週間後に解雇ね」と伝えて、解雇予告手当約10万円を支払ってサイナラしました。
ジャッジ
▼ 解雇はOKか?
ーーー Xさん、まずはどこから攻めましょうか?
Xさん
「この解雇はやりすぎなので、まずはその…」
裁判所
「解雇OKです!」
ーーー はやっ!なぜですか?
裁判所
「会社の信用を毀損し、他の従業員の就業環境も著しく害しかねない状態で、改善が見込めないからです。解雇には合理的理由があり社会通念上相当です」
相当パンチが効いている従業員ですもんね…
★ シフトカットは?
Xさん
「としても、シフトカットは違法でしょ !?」
ーーー 裁判所さん、この点はどうですか?
裁判所
「たしかに、シフトカットは違法ですね。もろもろの事情を考慮すると【最低でも週4は入れるという暗黙の約束があった(黙示の合意)】と認定します」
ーーー でも、けっこうパンチの効いた従業員みたいなので、シフトカットはやむを得ないのでは?
裁判所
「う〜ん。会社はカット直前の2月末にXさんとの契約を更新しているんですよ。ってことは、Xさんの勤務態度の改善がまだ見込めたってことでしょ。シフトカットすることで、Xさんの生活を苦境に追い込み、いわば【飼い殺し】にもなりかねない状況でした。なのでシフトカットに正当な理由はありません」
というわけで、裁判所は会社に対して43,200円の支払いを命じました。ザックリいうと「会社のせいでXさんは働けなくなった。週4計算で払え」って感じです(民法536条2項)
▼ 解雇予告手当
あと、裁判所は、
裁判所
「解雇予告手当ちょっと足りないわ。4,339円はらえ」
と命じました。
Q.
解雇予告手当って、何ですか?
A.
会社は、解雇するには30日以上前に解雇を予告とダメなんです。
労働基準法 20条
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない
Q.
「チミ、今日で解雇ね!」と言われた場合は?
条文のつづき
30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない
A.
ザックリいうと1ヶ月分の給料を払う必要があります。これが解雇予告手当です。
今回の会社は一応、支払っていましたが、解雇予告手当を払わない会社はゴマンとあります。こちらの記事もご覧ください
さいごに
長年、そのシフトで働いていたのに「チミ、これからシフトカットね」と言われた場合、これまでのシフト通りの金額を頂ける可能性があります。
▼ 相談するところ
もしバイト先からシフトカーット!された方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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