こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
解雇無効の裁判に勝ったXさん。
ーーー 勝ったのに、なんで怒ってるんですか?
Xさん
「裁判の中で私の名誉が毀損されました」
「ゴツイ指輪をつけていただの…」
「セクハラしただの…」
「なので損害賠償請求します」
今回は【裁判で相手をディスったら違法?】についてお届けします。
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
登場人物
▼ 会社
・飲食物の輸入販売などを行う会社
▼ Xさん
・営業本部長
ディスりトラブル発生
ディスりトラブルは、裁判のときに起きました。Xさんが「この解雇は無効です」と訴えた裁判のときです。まずは、解雇までの流れをザッと。
▼ なぜ会社は解雇したか?
会社は以下の理由を挙げて、Xさんを解雇しました。
取引先からクレームを受けた
従業員やドライバーにパワハラをした
不正な経費精算処理を部下に強要した
営業さんを侮辱、罵倒した
経費の不正請求をした(会食・英会話)
社用車を私物化した
会社はXさんに対して、「会社の売り上げが下がっている。リストラしなければならない
あなたがリストラ対象です。なぜなら給料に対してコストパフォーマンスが悪いからです」と伝えて解雇しました。
Xさんは訴訟を提起。
▼ ジャッジ
Xさんの勝ちです。裁判所は「解雇はダメ。無効」と判断。
となると、ビッグボーナスが転がり込みます。2年分のバックペイです(過去の給料)
約1800万円ごえ(月給78万円の2年分)
どんなディスりが違法?
さて、ここからが本題です。
ーーー Xさん、全面勝訴ですが、何に怒ってるんですか?
Xさん
「訴訟の中で名誉を毀損されたので300万円を請求します」
ーーー と申しますと?
▼ パンチの効いた身なり
Xさん
「会社は訴訟でこんなことを主張してきました」
・Xさんは、就業中もシルバーチェーンやごつい指輪で装飾し、色つきメガネを使用し、さらには『護身用』と称して革ケースに入れた折りたたみナイフをベルトにぶら下げていた。こうした装飾は一般的なビジネスマナーにそぐわず、特に、会社の主要顧客層である製菓業界は保守的であり、Xさんの身なり態度を快く思わない顧客は多かった。そのため、顧客によってはXさんを受け入れず、訪問を拒絶することもあり、Xさんに商慣習に沿った服装に改めるよう求めたが、Xさんは自らのポリシーであるとして拒絶した
ーーー 裁判所さん、どうですか?
裁判所
「う〜ん、セーフですね。『解雇はOKでしょ!』という会社の主張を基礎づける事情なので、訴訟行為と関連性があるからです。また、主張方法が不当でもないですし」
▼ 訴訟でディスった時に違法になるケース
Q.
訴訟で相手をディスったとき、どんな場合が違法になるんですか?
A.
正当な訴訟活動の範囲を超えちゃった場合【だけ】です。以下の事情が考慮されます。
1. そのディスりが争点と関連するかどうか
2. 訴訟遂行のために必要かどうか
3. 主張方法などが相当かどうかなど
訴訟って【言葉を使ったケンカ】なので、ある程度の言論攻撃はOKなんです。ちょいやりすぎちゃった場合でも、相手は反論できるし、裁判所が「コレ、無関係でしょ」と判断したときは訴訟指揮権を発動させて修正させることができるからです。
なので、上の3つの事情などをミックスして、正当な訴訟活動の範囲を超えちゃった場合【だけ】が違法になります。若干、ゆるめです。
▼ セクハラしただろ
Xさん
「あと会社は『Xは女性社員にセクハラをした』と主張してきたんです。具体的には以下の主張をしてきました」
・Aさんへのセクハラ
Xさんは、Aさんに対し、顔を合わせるたびに「爽やかなお姉さんと色っぽいお姉さんがきた」などの言葉を投げかけていた。あまりに性的な発言が続くため、Aさんが「すみません、それ止めてもらえませんか」とXさんに伝え、一時は治まったが、しばらくすると再開した。
・Bさんへのセクハラ
Xさんは、Bさんが断っているのに、2人で飲みに行くことやカラオケに行くことを執拗に誘い続けた。Bさんの困惑ぶりをみかねた男性社員2名が参加したが、カラオケでXさんは、Bさんにキスを迫ったり、Bさんだけを執拗に撮影した。
ーーー 裁判所さん、どうですか?
裁判所
「これもセーフですね。『解雇はOKでしょ!』という会社の主張を基礎づける事情なので。あと、XさんはAさんにメールを送った時に『美人のお姉さま、ありがとうございます』『ありがとうございます、大好きです』って言葉を入れてますしね。となると、会社の上記主張は全く根拠を欠くとはいえないです」
▼ 恐怖心の植えつけ
Xさん
「こんなことも主張してきました」
・Xさんの勤務態度の深刻な問題は従業員の間で認識されていたが、経営陣には知らされずにいた。これは、Xさんと衝突した営業部員の自転車のチェーンが切られたり、営業車のタイヤが刃物でパンクさせられたりする事件などがあり、これらの事件の犯人は不明であるものの、Xさんに目をつけられると何をされるか分からないという恐怖心が従業員に植え付けられたことにある
ーーー 裁判所さん、どうですか?
裁判所
「セーフです。Xさんの勤務態度が経営陣に知らされずにいた理由として言及しているからです。なので、訴訟行為との関連性がないといえないし、訴訟行為の遂行のために必要なしともいえないです。あと、犯人はXさんだ!とも主張しているわけでもないですから」
■ 雑感
会社はギリのラインを攻めてきましたね。「Xさんが犯人だ」と言えばアウトなので「犯人は不明ではあるものの」という表現にとどめています。しかし、サラッと読むとXさんが犯人っぽい仕上がりになっています。専門用語で言うとリーガルイリュージョンです!(誰も使ってねーよ)
さいごに
人生に1度あるかないかだと思いますが、訴訟で相手をディスるときには、法的主張に関連づけるようにしましょう(ただの悪口だと裁判官が「これは訴訟行為と無関係だから違法だね」と判断する可能性があります)
■ 注意!
今回は【訴訟での】ディスりなので、違法判断がゆるめです。これに対して、SNSなどの一般社会で、たいした根拠もないのに同じようなディスりをすると名誉毀損や名誉感情の侵害になるおそれがあるので、ご注意を!
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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