こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
今回は、パワハラ裁判の解説です。
裁判所
「パワハラ上司3名、前へ」
「主文・・・」
「部下2名に、1660万円を払いたまえ!」
こんな事件を分かりやすくお届けします(しのぶ福祉会事件:福島地裁 R5.1.26)
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
登場人物
▼ 会社
障害福祉サービス事業を行う社会福祉法人
▼ パワハラ上司3名
Y1:業務執行理事
Y2:施設長(授産所の)
Y3:サービス管理責任者(授産所の)
▼部下( X1さん・X2さん)
授産所で働いていた
6つのパワハラ
6つのパワハラを、順に見ていきましょう。
▼ パワハラ1
Yらが作成した報告書に、Xさんらについて以下の言葉が書かれていました。
・社会人として問題がありすぎ
・口だけの人間
・本当の金食い虫
裁判所
「人格非難を含む侮辱的な表現だ」
さらには、
・私の目の届かない場所に永久に行ってほしい
裁判所
「退職を迫るかのような表現だね」
この報告書が複数の職員の目に触れたんです。
ーーー 裁判所さん、どうですか?
裁判所
「社会通念上許される業務上の行為の範囲を超えている。Xさんたちに過重な心理的負担を与えるものなので違法!」
はい次!
▼ パワハラ2
ある資料に以下の言葉が記載されていました。
・部下からの信頼もなく人望もないのでは、存在意義がない
・小学生でも言える
・20年以上この法人にいても、このありさま
この資料は職員が自由に見られる状態でした。
裁判所
「人格非難に及ぶ侮辱的な内容。同じく違法!」
はい次!
▼ パワハラ3
評価コメント記録シートへの記載です。
・20歳の学生の記載した実習日誌レベル以下
・使い物にならないばかりか、職員、利用者の悪影響が著しく、今のまま仕事をしてもらうのは非常に困難
裁判所
「これも人格非難にもあたる侮辱的な内容。同じく違法!」
はい次!
▼ パワハラ4
Y2がX2さんを約1時間30分も叱責。ほかの職員や利用者もいる状況でした。その時、こんな言葉を。
・学生の実習生と変わらない
・新人以下
裁判所
「X2さんを指導する必要があったとはいえ、侮辱的な表現を使って一方的に叱責することは明らかに相当性がない。
「しかも!叱る様子をY1・Y3に電話で聞かせたり、一部を録画しており、不適切というほかない。違法!」
はい次!
▼ パワハラ5
Y3がX1さんに「社会人としてあり得ない」と叱責
裁判所
「指導の必要性があると感じたとしても、他の職員がいる前でそういう表現を叱責をする必要性は乏しい。違法!」
はい次!
▼ パワハラ6
X1さんは、X2さんのために休暇申請書を作成しました。
これにY2・Y3が激怒。
X1さんに始末書の作成を命じました。さらに「あなたの行為は文書偽造や懲戒事由に当たる可能性がある」旨を告げました。
ーーー 裁判所さん、どうですか?
裁判所
「ダメだね。休暇申請書の作成、別に問題ないじゃん。たとえX2さんの診断書が出来上がる前だったとしても問題ナシ。しかも、文書偽造や懲戒事由に当たるなんてあり得ない。なのにY2・Y3は不当にX1さんを威圧してるよね。違法!」
上司3名に隕石直撃
ーーー 裁判所さん、パワハラ上司3名に、いかほどの賠償を?
裁判所
「パワハラ上司3名は、X1さんに923万円、X2さんに737万円を払いなさい」
!!!
上司3名はヒザから崩れ落ちたことでしょう。
■ こまかい話
裁判所は「連帯して払え」と命じました。誰か1人が全額払えばほかの2人は免除、そういう関係です。誰でもいいから払えよってヤツです。
Q.
なんでこんなバカでかい金額になったんですか?
A.
Xさんたちがうつ病になったからです。【うつ病の原因は3名のパワハラだ】と認定され、3年半もうつ病が治らなかったからです。損害が3年半の給料分と計算されるのでバカでかくなってます(労災が下りて相殺されてるなどの調整あり)
あと、こんな攻防もありましたね。
会社
「Xさんたちのうつ病は治癒していると思います。だって3年6ヶ月以上も仕事から離れているんですよ。うつ病の9割は2年以内に症状固定(治癒)すると言われていますし」
裁判所
「いや、療養期間が3年を超えることはありえる」
一蹴されています。
会社にも鉄槌
ちなみに、会社にも鉄槌が振り落とされています。裁判所は「会社はX1さんに1146万円、X2さんに950万円払え」と命じています。
理由は安全配慮義務違反。裁判所は「会社はパワハラを防止するために必要な措置を講じてなかったよね、しかも、Y1は業務執行理事という立場にありながら自らもパワハラに加担していたし」と認定しています。
さいごに
パワハラチックな方は気をつけましょう。もう昭和は終わったんです!
部下がうつ病になると、隕石直撃の可能性があります。・・・数年後に。
お気をつけください。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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